miyabi-night(5人)

miyabi-night 三十二話 - japonesque side story -

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ざわめく小屋の中。

客が入り始め、そこここから笑い声が聞こえる。

ここに手入れが入るなど、知る由もない客達は、

これから始まる潤の道成寺を楽しみにしている。

櫻井は、静かに、端の方に腰かける。

見に来たと言うことは、覚悟していると言うことだ。

今晩、行われるであろう捕物は、潤や侑李だけでなく、智にまで手が及ぶかもしれない。

それだけはなんとしても阻止したい……。

ふと見ると、隣に座る侍風の男が、手に双六を広げている。

そう言えば、双六の効果はどうだったのか……。

ぼんやりその双六を眺めていると、侍風の男が櫻井の視線に気付く。

「この双六、すごいですねぇ。」

「ええ、当代きっての絵師が挿絵を描いてますから。」

櫻井が自慢げに眉を上げる。

「いやぁ、あんまり上手くできてるから、この双六の通りに町を周って、

 最後はここに辿り着きました。いやぁ、面白い!」

男のくったくのない笑顔に、櫻井も自然と笑顔になる。

若く見えるが、四十は越えているか?

きちんとした身なりは、そこそこの出なのだろう。

きりりとした顔には、見覚えがある。

はて、どこで会ったのか……。

櫻井が、思案していると、埋まって来た客席から、歓声が上がる。

客の視線の先を見てみると、舞台上の潤が、座って客席を見渡している。

「口上か?」

隣の侍がそう言って、双六を袖にしまう。

「とざい、とうざーい!」

潤の声が小屋中に響く。

「一座、高こうは御座りまするが、不弁舌なる口上な持って、申し上げ奉りまするぅ~。」

客席から、やんややんやと拍手が起こる。

「従いまして、従いまして、この度、道成寺を催しましたるところ、

 斯くもにぎにぎしくご見物の皆様、お集まりくだされ、

 厚く御礼申し上げ奉りまするぅ~。」

「いいぞっ!成田屋!」

客席から掛け声が上がる。

「待ってました!」

潤が伏せていた顔を上げ、客席を見つめる。

「毎度、毎度のことではござりまするが、一幕一幕をこれが最後と演じておりまする。

 どうか、お目まだるき所は袖や袂で幾重にもお隠しあって、

 良き所は拍手栄当栄当(えいとう)のご喝采、七重の膝を八重にも折り、

 すみからすみまで、ずずずぃっとぉー、御願い、奉りまするぅ~。」

櫻井は潤の口上を聞き、胸が熱くなる。

今日、手入れが入ることを智から聞いているはずの潤も、

逃げるどころか、最後と思って小屋を開ける。

その男意気に胸が締め付けられる。

口上が終わると、潤はすすっと袖に入り、

大きな鐘の釣り下がった舞台に、坊主達が現れる。



舞台は、順調に進んでいく。

坊主達のやり取りの後、二人の白拍子が出てくると、客席から拍手が起こる。

赤の艶やかな着物に烏帽子を付けた二人の佇まい。

二人の華麗さに、思わずため息が漏れる。

「これはまた美しい。」

隣の男の感嘆の声に、櫻井はしたり顔でにやける。

あの美しい人は俺の……。

言いたくても言えない歯がゆさ。

美しい白拍子は厳かに踊り出す。

智の踊りは元より、侑李の踊りのすばらしさに、櫻井の目が釘付けになる。

侑李の踊りは女らしく柔らかい。

なのに、一つ一つは大きく、艶(あで)やかだ。

智の踊りは指先まで神経の行き届いた美しさ、潔さ。

流れるような足さばきと男とも女とも取れぬ艶(なま)めかしさ。

客席からも溜め息しか聞こえない。

男も女も、ただ舞台を見つめ続ける。

すると、ぱっと衣装が代わり、赤かった衣装が萌黄に変わる。

烏帽子を取った二人は、今度は町娘のように踊り出す。

恋に乱れる女心。

つれない男に縋る心情。

恋の切なさを踊る二人に、客席が同調していく。

櫻井だとて例外ではない。

自分の智に対する想いと重なり、息をするのも忘れて苦しくなる。

次々と衣装を変え、小道具を変えて踊り続ける二人から、誰もが目を離せない。

他とは切り離された夢の世界と化した小屋。

日常の、憂さも愚痴もなげうって、今、ここにいる者全てが、

ただ、二人の虜になっている。

二人の流麗な舞が、客席を一つにしたその時、

ガタガタと大きな音を立て、幾人もの男達が入って来る。

客席からこだまする悲鳴に、何事かと、客達もきょろきょろと辺りを見回す。

男達はこともあろうに舞台に上がり、客席に向かって叫ぶ。

「御用改めでござる!」

ああ、やっぱり来てしまったか。

せめて舞台が終わるまで待てなかったのか……。

櫻井が起ち上がると、隣の男も立ち上がる。

その目は舞台を凝視し、わなわなと震えている。

「なんと無粋な……。」

その目を見て、櫻井はその男のことを思い出す。

「まさか……老中?……東山様……!?」










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