miyabi-night(5人)

miyabi-night 三十一話 - japonesque side story -

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東雲に帰る智を待っていた櫻井は、智が帰るなり、飛びつく。

「智殿!」

「おぅ、来てたのかい?」

智は帰ってくるなり草履を脱ぎ、奥の水場へと消えて行く。

「今夜、木挽町と湯島に手入れが入ります。」

櫻井は小上がりに手を付き、奥に向かって声を張る。

「え?なんだって?」

智は手ぬぐいを濡らし、小上がりに戻って来ると、

上半身を肌蹴させ、手ぬぐいで拭いていく。

櫻井は目のやり場に困って、視線を伏せる。

「ああ、すまない。気にしねぇでくれ。」

智は櫻井を気にする様子もなく、手を上げ、脇の下を拭いて行く。

「汗をかいちまったからな?くせぇよりいいだろ?」

「そ、それはそうだけど……。」

ちらっと智を見る櫻井の顔が、ほんのり赤くなる。

「なんだい、裸でその気になっちまったかい?」

智が笑うと、櫻井の顔が余計赤くなる。

「そ、そんなことは……。」

「こんなもん、見慣れてんだろ?」

智は面白がって、櫻井の前に体を向ける。

「や、やめてくだされ。こ、困りまする……。」

「くっくっく。いつまでたっても初心(うぶ)だねぇ。」

智は笑いながら、体を拭いて行く。

「少しは慣れてもよさそうなもんだがな……。

 あんなことしてるってのに。」

智がにやっと笑うと、櫻井の顔が沸騰寸前まで赤くなる。

「んはははは。すまねぇ、翔さん、背中を拭いてくれるかい?」

智は櫻井に背中を向ける。

肩越しに手ぬぐいを差し出し、櫻井が拭いてくれるのを待つ。

筋肉質だが、腰の締まった背中に櫻井の口から自然と溜め息が漏れる。

男らしく力強い、それでいて、撫でたくなるような艶(つや)やかさ。

櫻井は手ぬぐいを受け取ると、そっと背中に当てる。

背骨に沿ってなぞると、肩甲骨と筋肉が浮き上がる。

細いのに、強かな筋肉……。

撫でながら、思わず顔が近づいて行く。

手ぬぐいではなく、唇で拭いたくなる……。

「ところで、さっきの話……。」

智に声を掛けられ、はっとする。

「は、はい!」

声が上ずって、自分でも恥ずかしい。

「ゆ、湯島と木挽町に手入れが入ります。」

「湯島と木挽町?小屋にも?」

「はい、たぶん……。周りの茶屋が片付いたら、小屋にも行くと……思います。」

「そうか……。雅紀は?」

「湯島へ……。少しでも逃がせるようなら逃がしたいと……。」

「……そうだな。雅紀ならそうするよな。」

智の声が落ちる。

わかっている。

これが一度で終わることじゃないってことは。

いつまでも、いたちごっこのように繰り返される……。

櫻井は丁寧に智の背中を拭う。

汗の溜まりやすそうな、肩甲骨の周りを撫でながら、智の気持ちを思う。

人の強欲は計り知れない。

性に対しても、金に対しても。

その両方が交わる場所が、なくなるはずがない……。

しかし、歌舞伎も春画もそれとは異なる側面も持つ。

それを、お上が分かってくれる時は来るのだろうか……。

「それじゃ、おいらもちょっくら出掛けてくるかな?」

「智殿も?どこへ……?」

櫻井は手ぬぐいを背中に当てたまま、智の背中に尋ねる。

「翔さんも観に来るといい。今夜は最初で最後のおいらの舞が見れるかもしれないぜ?」

「智殿……。」

櫻井は手ぬぐいをぐっと握り締める。

智を危険な目に合わせたくはない。

だが、何を言っても行くと言ったら行く人だ。

引き留める手立てはない。

「智殿……。」

櫻井の声に、智が振り返る。

「なぁに、稽古は十分してきたさ。お前さんも楽しんでくれるよな?」

櫻井は黙ってうなずく。

「どうした?そんな顔して。」

何も言わず首を振る櫻井の髪を、智が優しく撫でる。

「……なんでも……なんでもない……。」

櫻井は智の手を振り切る。

「なんでもなくはねぇだろ?」

智が軽く笑う。

「……お奉行も……こんな気持ちなのかと……。」

櫻井が目を伏せたまま、小さくつぶやく。

智はそんな櫻井の頭を胸に押し当てる。

「そんなに心配するな……。おいらはそんなに弱くはねぇよ?」

「そういう問題では……。」

櫻井が顔を上げると、智の唇が櫻井の唇を塞ぐ。

「んんっ……。」

強引に押し入り、櫻井の舌を絡めとる。

「はぁ……んっ……。」

深く優しい口づけに、櫻井から吐息が漏れる。

「さと……し……。」

やっと唇を離してくれた智を、櫻井が見つめる。

「心配なら来るな。」

笑っているが、智の目は真剣だ。

櫻井は、何か言おうと口を開きかけるが、すぐに言葉を飲み込む。

「大丈夫。なんとかするさ。」

櫻井の頬を撫でてそう言うと、着物に袖を通し、襟を軽く合わせる。

「智殿……。」

「じゃ、行って来るよ。」

智はにこりと笑って、暖簾を払う。

その背中をじっと見つめ、櫻井は手に残った手ぬぐいをぎゅっと握り締めた。










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