miyabi-night(5人)
miyabi-night 三十話 - japonesque side story -
2017.03.12 *Edit
智は稽古場で、踊る侑李の姿をじっと見つめる。
三日前、智の稽古が終わると同時に、侑李が稽古場に入って来た。
神妙な面持ちで潤に挨拶する侑李を、智は柔らかな笑顔で見守る。
だが、侑李が踊り始めると、智の顔色が変わる。
しなやかな侑李の足さばき、首を捻る時の視線の動き。
「女にしか見えねぇな……。」
智はぽつりとつぶやき、顎を伸ばして首筋を掻く。
幼い頃からやっていただけのことはある。
並みの踊り手でないことは一目瞭然。
潤の言うことに、うなずいては繰り返す侑李を、智の視線が真っ直ぐに見つめる。
これだけ踊れれば十分じゃないのかと智は思うが、
侑李にも潤にも何かが足りないらしく、稽古はどんどん白熱していく。
「違うって言ってんだろ?一から出直してくるかい?」
「もう一度お願いします!」
二人の熱気に、智は肩を竦める。
こんな風に踊りに情熱を傾けることは、智にはできない。
侑李がいれば大丈夫だな。
そっと出て行こうと、智が戸口に向かう。
「待て。もう少しいてもらえるかい?」
潤に声を掛けられ、振り返ると、侑李も口を噤んでうなずく。
「なんでだ?おいらはここには必要ねえだろ?」
「三日後、道成寺をやろうと思っている。お前さんも……一緒に踊ってはもらえないかい?」
「おいらが?」
智は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「侑李と一緒に……踊ってみたくはないかい?」
「二人いたらおかしいだろ?」
智は不満顔そのままに、腕を組んで二人を見比べる。
侑李は、挑むような視線で智を見返す。
それを見た潤は、軽口を叩くような口調で続ける。
「白拍子だけなら……。
お前さんだって、せっかく稽古したんだ、舞台に立ってみたいだろ?」
「おいらは別に……。」
潤が軽く笑う。
「そんなことはないはずだ。曲が流れれば、お前さんの体は勝手に踊り出す。
それは、踊りたいってことじゃないのかい?」
「そんなことはねぇよ。」
智はそのまま戸を開ける。
「明日もちゃんと稽古に来るんだよ。待ってるからね。」
ぴしゃりと、後ろ手で戸を閉めたが、
潤の視線を背中に感じ、どうしたもんかと溜め息をつく。
それから今日で三日目だ。
智は二人の心配をよそに、稽古にはちゃんと顔を出した。
踊り終わった侑李がにこりと笑顔で智を見つめる。
「どうしたい?」
智の問いに、侑李は笑って答える。
「心配だったんです。あなたは……もう稽古に来てくれないんじゃないかって。」
汗一つかかずに、涼しい顔でそう言う侑李が面白くなくて、智はふんと鼻を鳴らす。
「来るさ。前金でもらってるからな?舞台が始まるまでは、何が起こるかわからねぇ。」
「その通りだよ。」
潤も笑って、扇子を広げ、ぱたぱたと仰ぐ。
「で、どうなんだい?舞台に立つ気は?」
「ねぇよ。侑李で十分だろ?」
「あの金は、舞台に立つ分も含んでるんだけどねぇ。」
「知るか!」
智はすっと立ち上がると、侑李の隣に並ぶ。
「二人で踊る姿が見たいんなら、今見るんだな。」
潤は声を上げて笑う。
「俺は、煌びやかな衣装を着けた二人が見たいんだけどね?」
「勝手に想像してくれ。侑李が踊れるなら、おいらが踊る必要はねぇ。」
智の頑なさに、潤は侑李と顔を見合わせ、小さく息をつく。
「じゃ、見せてもらおうか?」
潤が扇子を閉じ、膝に当てると、二人が一斉に踊り出した。
見つめる潤の脳裏に、今夜の舞台が浮かぶ。
今、目の前で踊るように、舞台の上で並んで踊る姿。
潤は、強引に演目を変えた。
二人が並んで踊ったら、今までにない舞台になる。
なんとか、手入れが入る前に……。
急すぎると反対もあったが、小屋が取り壊されれば、
せっかくの踊りを見せる場所がなくなってしまう。
智にいたっては、もう踊ってくれないかもしれない。
同調するように踊る二人に、潤は息を飲む。
どんな反対にあっても、舞台に乗せなければ……。
二人の踊りを見終わった潤は深い溜め息をつく。
もったいない……。
こんな白拍子を舞台に上げないなんて……。
「どうだった?侑李。」
「は、はい……。」
踊り終わっても、まだぼーっとしている侑李は返事をするのが精一杯で、
何を答えていいやらわからない。
「智は?」
「そうだな……面白かったよ。」
にっと笑って、その場に胡坐を掻く。
「しかし、疲れた!」
膝に肘を付き、潤を見つめ、視線で感想を求める。
「いや、想像以上の出来だよ。二人一緒に踊ることで、張り詰めた糸のようになって……。
そして、より艶(あで)やかで、艶(なま)めかしくなる……。
二人とも、良く稽古したね。」
侑李は思いきり頭を下げる。
智はふふんと笑う。
「侑李は……踊りが変わったね。鳥井様のせいかい?」
「…………。」
踊りが変わったかどうかすらわからない侑李には、何も答えられない。
「それとも、智のせいかい?」
侑李は隣に座る智に視線を移す。
智はにっと笑って、気持ち良さそうに足を伸ばす。
鳥井との幸せと引き換えにしても、踊りたいと思った。
それは智に負けたくないという気持ちからだ。
どちらもが自分を成長させているように思う。
「誰のおかげでもかまいやしない。お前さんの最上を見せておくれ。」
潤が扇子で膝を叩くと、侑李は深々と頭を下げる。
踊る場所を与えてくれた潤に、感謝の気持ちを込めて。
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