miyabi-night(5人)

miyabi-night 二十九話 - japonesque side story -

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「そうかい。侑李は戻ったのかい。」

小僧の丁稚がうなずく。

「それじゃ、鳥井様ももう動いてはくれないかもしれないねぇ。」

堺屋は、う~んと顎を擦る。

「東山様も、あの調子となると……。」

堺屋は小僧に何か耳打ちすると、背中をぽんと押す。

小僧は大きくうなずいて、駆けて行く。

その後ろ姿を見送り、堺屋は深い溜め息をつく。

「金儲けも楽じゃない。」

奥からもう一人の丁稚を呼ぶ。

「これ、店の前が汚れているよ。さっさと掃除しないか。」

「はい!」

小僧よりちょっと大きな丁稚が、箒を片手に飛び出してくる。

「綺麗な店でないとね。せっかく他の店がなくなっても、

 ここに来てくれなきゃ、意味がない。」

「それが……。」

丁稚が心配そうな顔をする。

「何かあったのかい?」

「はい……。」

丁稚が小さな声で何か囁く。

「まさか……。」

驚いた顔の堺屋は、いそいそと店を出て行った。



「戻ったんだって?」

朝、稽古場に顔を出した智が、開口一番そう言って、潤に笑いかける。

「耳が早いね。」

「来る途中、お前さんの弟子の幾人かが話してたのを小耳にはさんだ。」

潤も笑って答える。

「戻ってきたよ。世話になったね。」

潤はいつもの場所に座り、智の用意を待つ。

「それが事実なら、おいらはこれでお払い箱ってことだな……。」

智はその足で戸の方へ向かう。

「前にも言ったが……。」

潤はゆっくり腕を組む。

「まだ、何があるかわからない。お前さんもこのまま稽古してもらうよ?」

「え?」

驚いた顔で振り返る智に、潤がにやっと笑う。

「せめて、白拍子くらい踊れるようになってもらわないと、

 俺の弟子たちにも示しがつかない。」

「何を……。」

「さぁさ、早くおし。お前さんが終わったら、侑李が待ってる。

 時間がないんだ。」

潤は腕を解いて、扇子を取り出す。

「それとも何かい?稽古がきついと、尻尾を巻いて逃げ帰るのかい?」

「なんだと?」

「こんなやわな男じゃ、可哀想に、櫻井様も物足りなくて。」

潤が笑い続けると、智も、ふんと鼻で笑う。

「そう言うお前だって、智千代に逃げられてなかったっけ?

 天下の二枚目も形無しだな!」

「逃げられたんじゃない。逃がしてやったのさ。」

「おいらだったら物にできたぜ?」

「何を!」

「なんだ?」

「いいさ、しっかり稽古、つけてあげようじゃないの。」

「望むところだ。」

智は潤の前に立ち、腰を落とす。

潤が扇子を振ると、智は歌いながら、舞い始める。

潤はしめしめと思いながら、顔には出さず、智を見つめる。

やはり、惜しい……。

なんとか舞台に立たせたいが……。

潤は顎を撫で、鼻の頭を掻く。

「そこ!もう少し引いて。もう一度。」

智は無表情のまま、振りを繰り返す。

「首!」

潤が声高に叫ぶ。

「うるせぇ。わかってるよ!」

智が首を入れて、振りを繰り返す。

「わかってるなら、やってくれ。……最初から。」

智が舞い始めると、戸口に姿を現した侑李が、ぐっと口を引き結ぶ。

「……負けない。鳥井様との約束だもの。」

鳥井と別れることになっても、選んだ舞台。

侑李は智の踊りに見入る。

知らず知らずのうちに力が入り、指先が白くなるほど、戸を握り締めた。



数日が経って、鳥井が与力達を集めた。

隅の方で、櫻井が筆を握る。

鳥井の顔は険しい。

蛇のような目つきに、さらに鋭さが増す。

櫻井は鳥井から記録係に指名された。

もちろん、話の内容は極秘であったが、雅紀への配慮であろう。

鳥井は目の前の与力達に向かい、声を張る。

「北から、茶々が入った。我々が慎重に吟味していることが、

 あちらからすると、手ぬるく見えるらしい。」

与力達がざわつき出す。

北町奉行所とは連携を密にしながらも、対抗意識がないわけではない。

「手ぬるいとは何ごとか!」

「町民の為を思ってこその奉行所ではないのか。」

「あちらは血気盛んにしすぎる。」

「やりゃあいいってもんじゃない!」

鳥井は与力達の言葉を一通り聞き終えると、手で制し、小刻みにうなずく。

「わかっている。だが、これ以上、時間をかけるわけにもいかぬ。」

鳥井がすっと顎を引くと、与力達もすっと背筋を伸ばす。

「今晩、抜き打ちで湯島、品川、木挽町に手を入れる。」

「今晩……。」

櫻井がつぶやく。

「むろん、このことは内密に、迅速に行動して欲しい。

 配置についてだが……。」

鳥井が与力達を三分割し、配置していく。

櫻井はそれを書きとめながら、雅紀と潤のことを思う。

二人に知らせなければ……。



午後、東雲に行くと、店には雅紀一人だった。

「ごめんよ。智殿は稽古か?」

「あ、櫻井様。」

雅紀が本の整理をしながら、振り返る。

「そう。夕刻には帰ると思うけど……ごほっ。」

本の上の埃を払い、咳き込む。

「成田屋は今日も小屋か?」

「うん。今日から侑李の演目が始まるから。……何かあったの?」

櫻井は、心配そうにする雅紀の隣まで来ると、小さな声で言う。

「……今晩、手入れが入る。」

「手入れ……?」

「湯島と……木挽町だ。木挽町に手入れが入れば、そのまま小屋にも回るかもしれぬ。」

「そんな……。鳥井様は侑李の舞台だって知って……?」

櫻井は首を振る。

「いや……あの様子では知っているとは思えないが……。」

櫻井は今夜の捕物を想像する。

悲鳴が響き渡る中、鳥井が侑李を押さえつけている図……。

「お互い辛いよね……。」

「ああ……。」

雅紀は切なそうに潤む瞳で櫻井を見つめる。

「ねぇ、なんとかなんないの?」

「なんとかしたいのはやまやまだが……。」

櫻井にはどうすることもできない。

このまま進めば、遠からず、暁にまで手が及ぶ。

早いうちになんとかしなければ……。

櫻井はじっと自分の手を見つめた。










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