miyabi-night(5人)

miyabi-night 二十六話 - japonesque side story -

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歌舞伎を楽しそうに観る智千代を横目に、智も舞台を見つめる。

智千代は本当に初めてのようで、見る物、聞く物、

全てに気持ち良いほど反応してみせる。

どうしたことか、智までもがつい面倒をみたくなってしまう。

智千代の不可思議な雰囲気に、苦笑いして腕を組む。

ふと見ると、智千代の隣の男が、智千代を気に掛けている。

そりゃそうだろうとうなずく。

智千代は華やかな器量ではないが、綺麗な顔立ちをしている。

男であるのに、どこかしなやかな匂いもさせる。

智千代のいい人が男かもしれないと思ったのは、それが理由だ。

抱かれている智千代を想像すると、智でもぞくりとする。

描いてみたいと思わなくもないが、決まった相手のいる者を、あえて抱く気にもなれない。

智千代の隣の男が、不審な動きをする。

智はさっと、智千代の肩に腕を回して自分に寄せ、睨みを利かす。

男はぎくっと腰を浮かし、知らん顔で舞台に顔を向ける。

ふんとばかりに鼻息を荒くし、智千代を見ると、

全く気付く様子のない智千代は、舞台の潤に釘付けになっている。

これだから、ほっておけないのか?

智千代の相手も苦労する……。

会ったこともない相手に同情し、智千代の肩を撫でる。

仕方ないか。

惚れた弱みだ。

智は櫻井を思い出し、ふっと笑う。

どこの世も、惚れたもんが負けだ。

舞台の上では、艶やかな花魁が、敵役を怒らせようとする潤を必死で止めている。

「あの花魁も、同じだな?」

智が小さくつぶやくと、智千代が振り返る。

「ん?」

不思議そうに智を見る智千代の肩を二度叩き、智がふっと笑う。

「なんでもねぇよ。ほら、いい所だ。」

智千代の頬を後ろから両手で掴み、舞台に向かせる。

自分も舞台に顔を向け、集中する。

潤の軽やかな足さばき、動きに合わせて、客の視線が動く。

舞台は大詰めを迎える。



「はぁ~。」

智千代が深い溜め息をつく。

舞台が終わり、人々が行き交う中、呆けたように舞台を見つめる智千代を見て、

智がおかしそうに笑う。

「な、何?」

笑われた智千代は、少し不機嫌そうな声を出す。

「いや、夢中になって子供みてぇだな。」

「は、初めて観たから……。」

どぎまぎと、ごまかすように下を向く智千代に、さらに智が笑う。

すると、こちらを見ている視線に気付く。

人の出入りでざわざわする小屋の中で、そこだけ動きが止まる。

智と智千代が同時に振り返る。

「ショウ……君?」

智千代がつぶやく。

「智……殿?」

視線の元もつぶやく。

「おぅ、芝居見物か?」

智が笑って言うと、視線の元はちらりと智千代を見る。

智は櫻井が勘違いしたことに気付いたが、おくびにも出さず、腕を組む。

「翔さんは一人かい?」

「い、いや……母上の付き添いで……。」

「付き添いか……、忙しいお前さんだ、ゆっくり親孝行してやるといい。」

智はにこりと笑って腕を組み直す。

「智殿、その、連れの方は……。」

「連れ?」

二人が智千代に視線を向けると、先ほどまで智千代がいた場所に、智千代はいない。

「けぇったか……?」

智はじっと心を研ぎ澄ます。

この小屋の中のどこにも、智千代の気配を感じることができない。

櫻井も、きょろきょろと辺りを見回し、智千代の姿を探している。

「心配するな。」

智の言葉に、櫻井が不満そうな顔をする。

「おいらは、翔さん以外を抱いちゃいけねぇんだろ?」

櫻井の顔が、かぁっと赤くなる。

「おいらと翔さんが出会ったのは奇跡だよ。

 なんの心配もいらねぇ。」

「智殿……。」

「さぁさ、母上がお待ちじゃないのかい?

 おいらは潤のとこに顔を出してけぇるから。」

智は笑って、軽く右手を上げる。

どうしようか、一瞬迷い、櫻井は智に背を向ける。

母が待っているのは事実。

いつまでも一人にしてはおけない。

櫻井が行ってしまうと、智は智千代が座っていた辺りの座布団をひっくり返す。

智千代のことだ、何か忘れ物があるやもしれぬ……。

そう思ったのだが、智千代が落としていった物は何もない。

「やはり……けぇったな。」

智は仕方なく、一人、潤の楽屋に向かう。

「成田屋に何と話すか……。」

大仕事になることが予想され、智は深い溜め息をついた。



「そっか、帰っちゃったか……。」

雅紀が寂しそうにつぶやく。

智の想像とは異にして、潤は静かにうなずいて見せた。

案外、潤にはわかっていたのかもしれない。

そう感じるほどに、潤は静かに智の報告を受け入れた。

家に帰って、仕事から帰った雅紀に話すと、雅紀の方が落胆が大きい。

「でも、いい人のとこに帰ったんだもんね。」

雅紀が無理やり笑って見せる。

「そうさな。」

智は、布団の上に胡坐をかいて、腕を組む。

「また、会えるかな……。」

「会えるかもしれねぇな。あいつのいた所は、面白そうだ。」

「そうだよね?また、ちっさい箱の中に入れてくれるよね。」

雅紀が智の隣に座り込む。

「お前は入りたいのかい?おいらはごめんだね。」

「なんで?」

「あんなにそっくりに、一瞬で描かれちゃぁ、おいらの商売あがったりだ。」

智が、ふざけてそう言うと、雅紀も声を上げて笑う。

笑っているのに、やはりどこか寂し気で、智は雅紀の肩を抱く。

「そんなに寂しいか?」

「別れは……寂しいよ。」

智は雅紀の顔を胸に抱える。

「今日は……一緒に寝てやろうか?」

智の優しい声に、雅紀が、ふっと笑う。

「そんなことしたら、和に何されるかわかんないよ?」

「そうだな。あいつはこえーからな?」

智は片目をつぶって、お道化た顔をする。

「ふふふ。」

雅紀は智の腕の中で笑う。

「きっと……今頃は智千代も、いい人の腕の中だね……。」

「ああ、きっとな?」

智から身を起こし、雅紀が起ち上がる。

「さ、明日は忙しいから寝るね。早く寝ないと朝になっちゃう。」

「おぅ。」

雅紀が行灯の灯りを消すと、暗闇が、二人の視界を遮る。

「おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

雅紀がそっと戸を閉め、智も蒲団の上にごろんと横になる。

「本当にいたのか……幻か……。」

智は静かに目を閉じた。










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