「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【101~120】
ふたりのカタチ (118)
2017.02.28 *Edit
智さんが、お蕎麦屋さんに連れて行ってくれて、美味しいお蕎麦を食べた。
本当に美味しくって、お腹空いてたんだなって、改めて気づいた。
お店を出ると、そのまま潤さんの所へ向かう。
この時代だもんね。
タクシーってわけにいかない。
歩いたらどれくらいかかるんだろ?
智さんは心配する風でもなくスタスタと歩く。
昔の人ってよく歩くんだなってつくづく思う。
そうだよね?昔は何日もかけて、京都やお伊勢さんまで歩いたんだもんね。
父ちゃんの好きな三人組なんて、日本中を周ってたし!
すると、智さんがなぜかクスクスと笑い出す。
「何かおかしなことがあった?」
「いや、何も……。」
智さんはがに股で、男前に歩き続ける。
「お前さんは……自分を知らなすぎるな。」
「自分を?」
「そうさ。道を歩く輩(やから)を見て見ろ。
男ばっかりだろ?」
おいらはきょろきょろと辺りを見回す。
通りを歩くのは確かに男の人ばっかり。
女の人は外歩いちゃいけないのかな?
みんなおいらを見て行く……。
女が外を歩くって、相当めずらしい?
「この江戸にゃあ、男ばっかりだ。仕事を求めて男がやってくる。
女の仕事は少ねぇ。あって、遊女か芸者、仲居にでもなれればいいが、
働き口はほとんどねぇ。」
「で、でも、女の子だって産まれるでしょ?」
「ああ、商いをしてる家で産まれれば、箱入り娘だ。
家から出ることはほとんどねぇ。家の手伝いをちょいとするくれぇだ。」
本当に女の子は家から出ないの?
現代とは大違いでびっくりする。
だって、現代じゃ、女の子の方が強かったりするし、
消費の鍵を握ってるのは女の子だって言われるくらいなのに。
「じゃ、みんなどうやって知り合うの?」
「知り合う?男と女がか?」
「うん。」
おいらはうなずいて、智さんを見つめる。
「男と女が出会うことなんぞ滅多にねぇな。それに、なんで知り合う必要がある?」
「だ、だって、恋愛したり、結婚したり……。」
「結婚……?ああ、祝言か。それは家同士が決めるからなぁ。
見合いか許嫁か……。」
家同士……?
恋愛ってしないの?
「誰かを好きになったりしないの?」
「好きに?そりゃ、勝手に好いたり嫌いになったりするさ。」
「相手もいないのに……?」
知り合う相手もいなくて、好きになったりする?
「そうだな。相手がいることが、奇跡みたいなもんだな?」
「奇跡……。」
うん……奇跡みたいなものだよね。
ショウ君に出会って、好きになって、好きになってもらえて……。
こんな奇跡、ないよね?
おいらはちょっとの間、空を見上げ、ショウ君に思いを馳せる。
早く……ショウ君とこに帰りたい……。
会いたいよ……ショウ君……。
「智さんは……いるんでしょ?そういう人。」
智さんが柔らかく笑う。
この顔する時、相手の人を想ってる時なんだよね。
だって、本当に幸せそうに笑うんだもん。
「ああ、いるよ。」
「男の……人……なの?」
「そうさね。」
「どんな人……?」
「……真面目で無骨で一途で……男前で可愛い……いい男だよ。」
「そうなんだ……。」
「お前さんもいんだろ?」
おいらは素直にうなずく。
「そいつはいい男なのかい?」
どうして……相手が男だってわかったんだろ?
おいらがこんな格好してるから?
それとも……やっぱりその目は、全ての物を見透かしちゃうの?
じゃあ、きっと、ショウ君のこともわかっちゃうよね?
「いい男だよ。頼りになって、かっこよくて、おいらのことを大事にしてくれて。
おいらにはもったいないくらいの、いい男!」
「そりゃあよかった。大事にしねぇとな?」
「うん。」
だんだん、空の色が変わって来る。
夜が近づいて、オレンジ色の空に、深い群青が混ざり始める。
ふいに、智さんがおいらの腕を引っ張る。
「人が多くなる。おいらから離れるなよ?」
「うん……?」
あ……女の人が少ないから、トラブルに巻き込まれやすい?
おいらは智さんの隣に寄り添うように歩く。
「今、お前は芸者だろ?おいらと一緒に芝居見物だ。」
「んふふ。楽しみ。潤さん、きっとかっこいいよね?」
「あたぼうよ。潤は看板。みんな、潤を見に来るようなもんだ。」
「あ……。」
ふと、目の前の光景に、足が止まる。
暗くなり始めた空を背景に、華やかな芝居小屋が姿を現す。
芝居小屋なんて言うから、小さな物を想像してたけど、
こんなに大きくて賑やかだとは思わなかった。
ポツポツと灯りが灯り、その柔らかい灯りが幻想的な風景を作ってる。
人々の、さざ波のような声。
これから始まる芝居に対する期待?興奮?
むせ返るような煩雑さと、整然とした小屋の佇まいが上手く溶け合って、
神秘的な雰囲気を醸し出してる。
智さんはその中をどんどん進んでいく。
「あんまり手持ちがねぇんだ。切落しでいいかい?」
「きりおとし?」
「いい席じゃねぇってこった。」
「うん。全然平気。潤さんの踊りが見られれば、どこでも!」
智さんがお金を出し、中に入って行く。
おいらも遅れないように智さんの後に続く。
ああ、江戸時代って、こんな感じなんだ……。
まるで、映画を観てるみたいだ。
智さんに着いて行くと、中はさらに映画みたいだった。
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