miyabi-night(5人)

miyabi-night 二十五話 - japonesque side story -

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双六の説明が終わると、智千代が双六をじっと見ながら、智に聞いてくる。

「これ、配りに行くの?」

智はしたり顔で、紙の束から一枚取り出す。

「ああ、最後は配りに行くんだが……まずはちょいと色を入れようかと思ってね。」

「色……?」

「そうそう。時間があんまりないからね。これくらいの数で、

 ちょいと色を入れるくらいなら、版木彫るより直(じか)に入れちまった方が早い。」

「それをおいらが手伝うの?」

「ああ、手伝ってくれるかい?」

智千代は大きくうなずくと、ちゃぶ台の上に紙を広げる。

雅紀が用意してくれた顔料を並べ、智千代に筆を渡すと、

智千代は嬉しそうに筆先を見つめる。

「好きなとこでいいの?同じじゃなくて?」

「同じにしてもいいが、同じにする必要もない。

 取りあえず、羊屋が目立つようになってれば……。」

智も筆を持ち、ちょいちょいと朱に先をつける。

「羊屋さんが目立つようにね?わかった?」

雅紀が念を押すと、智千代もうなずいて、朱に筆を付ける。

「赤かい?」

「うん。赤は目立つから。」

智千代は嬉しそうに朱で羊屋の店名に影を付ける。

「そうだねぇ、赤は可愛いし、男前だ……。」

智は腰の根付を撫で、何を思い出したか、くすりと笑って、筆を入れていく。

それを見ていた智千代も微かに笑い、楽しそうに筆を動かす。

二つ三つ色を入れただけで、双六の出来は格段に上がる。

二人は作業に没頭し、次々双六が仕上がっていく。

仕上がった双六を、部屋中に並べて乾かすのは雅紀の役目だ。

剛が刷って来た紙の束は、どんどん数を減らし、後数枚と言うところで、

雅紀は乾いた双六をまとめ、茶を沸かしに土間に消える。

それにも気づかない二人は、最後の一枚を仕上げると、ふぅと大きく肩を下した。

ご苦労様と雅紀が団子と茶を出すと、智千代が縁側から空を見上げる。

折よく、智の腹が鳴る。

「ごめんね~、二人とも夢中になってたから。」

雅紀が申し訳なさそうに顔の前で手をを立てる。

「芝居の前にちょっと蕎麦でもひっかければいいさ。なぁ?」

後ろに手をついて、智がだらりと体の力を抜く。

「うん。これ、おもしろかった。」

智千代も、嬉しそうに最後の一枚に何やら書き込んでいる。

智は見て見ぬふりをして、雅紀の出した団子を頬張った。



智千代を連れ、神田で蕎麦を食べ、木挽町まで歩く。

智は、蕎麦が美味しいと笑顔で啜る智千代の姿を、

店内の客がちらちらと見ていたのを思い出し、くっくと笑う。

誰も、智千代が男だと思ってはいまい。

それに気づかぬ智千代の無防備さも、なんだかおかしい。

智千代の世界では、それでもやっていけるのか?

「何かおかしなことがあった?」

智千代が智の顔を覗き込む。

「いや、何も……。」

智は組んだ腕を袖に入れ、大股で歩く。

「お前さんは自分を知らなすぎるな。」

「自分を?」

「そうさ。道を歩く輩(やから)を見て見ろ。

 男ばっかりだろ?」

智千代はきょろきょろと辺りを見回し、うなずく。

通りを歩くのは男ばかり。

しかも、その誰もが智千代を見返していく。

「この江戸にゃあ、男ばっかりだ。仕事を求めて男がやってくる。

 女の仕事は少ねぇ。あって、遊女か芸者、仲居にでもなれればいいが、

 働き口はほとんどねぇ。」

「で、でも、女の子だって産まれるでしょ?」

「ああ、商いをしてる家で産まれれば、箱入り娘だ。

 家から出ることはほとんどねぇ。家の手伝いをちょいとするくれぇだ。」

智千代は不思議そうに目を丸くする。

「じゃ、みんなどうやって知り合うの?」

「知り合う?男と女がか?」

「うん。」

「男と女が出会うことなんぞ滅多にねぇな。それに、なんで知り合う必要がある?」

「だ、だって、恋愛したり、結婚したり……。」

「結婚……?ああ、祝言か。それは家同士が決めるからなぁ。

 見合いか許嫁か……。」

智千代はじっと智を見つめる。

「誰かを好きになったりしないの?」

「好きに?そりゃ、勝手に好いたり嫌いになったりするさ。」

「相手もいないのに……?」

智はくすりと笑う。

「そうだな。相手がいることが、奇跡みたいなもんだな?」

「奇跡……。」

智千代はしばし黙ると、夕闇迫る空を見上げる。

「智さんは……いるんでしょ?そういう人。」

智もふふっと笑って、空を見上げる。

「ああ、いるよ。」

「男の……人……なの?」

「そうさね。」

「どんな人……?」

「……真面目で無骨で一途で……男前で可愛い……いい男だよ。」

「そうなんだ……。」

「お前さんもいんだろ?」

智千代は素直にうなずく。

「そいつはいい男なのかい?」

一瞬、智千代は驚いた顔をして、すぐにふにゃりと笑う。

「いい男だよ。頼りになって、かっこよくて、おいらのことを大事にしてくれて。

 おいらにはもったいないくらいの、いい男!」

「そりゃあよかった。大事にしねぇとな?」

「うん。」

徐々に空が暮れ始め、夜の帳(とばり)が降りてくる。

潤の出番までには着けるか……。

智は智千代の腕をぐいっと引く。

「人が多くなる。おいらから離れるなよ?」

「うん……?」

智千代は首を傾げながらも、智の腕に手を掛ける。

「今、お前は芸者だろ?おいらと一緒に芝居見物だ。」

「んふふ。楽しみ。潤さん、きっとかっこいいよね?」

「あたぼうよ。潤は看板。みんな、潤を見に来るようなもんだ。」

「あ……。」

智千代は、目の前に広がる芝居小屋の光景に息を飲む。

薄暗がりが、そこだけ、夢のように明るい。

煌びやかな色と灯り。

人々の声。

熱気。

智はその中をずんずん進んでいく。

「あんまり手持ちがねぇんだ。切落しでいいかい?」

「きりおとし?」

「いい席じゃねぇってこった。」

「うん。全然平気。潤さんの踊りが見られれば、どこでも!」

智は懐から銭を出し、小屋の中に入って行く。

智千代も遅れじと後に続く。










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