「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【101~120】

ふたりのカタチ (117)

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そこへ、誰かが入って来る気配がする。

「ごめんよ。」

低い、小さな声。

「お?来たな。」

智さんは待ってたとばかりに立ち上がる。

誰が来たんだろう?

首を傾げると、雅紀さんも立ち上がり後に続く。

おいらも二人について行く。

「……一杯刷って来たが、これでいいのか?」

「ああ、悪いね。それでいい。」

店で智さんと話してたのは、小柄で髭面の男の人。

少し斜に構えてて、全然顔を上げてくれない。

智さんはその男から紙の束を受け取って、一枚を両手で広げる。

「うん。よくできてる。引札とは言え、おいら達の仕事に手は抜けねぇからな。」

「剛、お茶くらい飲んでくよね?」

雅紀さんが明るく声を掛けるけど、男の人はうつむいたまま。

「いや、俺はいい……。」

剛さんはちらっとおいらを見て、すぐに視線を外す。

あ、知らない人がいるから、警戒してる?

「あ、おいら、邪魔だったら……。」

「ああ、気にしないどくれ。剛は極度の人見知りだから。」

雅紀さんが気にしなくていいと首を振る。

「じゃ、俺はこれで……。」

さっさと帰って行く剛さんの背中に、智さんが声をかける。

「近々、暁もあるって言ってたから、空けといてくれ。」

剛さんは、振り向きもせず、なげやりに片手をあげる。

その片手に墨がついてて、職人気質な感じがする。

剛さんって言ったっけ?

おどおどしてるってわけじゃないのに、誰とも視線を合わせない。

世捨て人……とか?

頑固そうに見えるし……。

あんまり人と関わりたくないって感じ?

智さんは広げた紙を雅紀さんとおいらが見えるようにしてくれる。

「さて、最後の仕上げだ。明日には和を呼べるな?」

智さんがニヤリと笑って、雅紀さんも嬉しそうに笑う。

おいらは紙を覗き見る。

版画だ。

木版刷り?

一色、墨のみで刷られてる。

なのに、ところどころ、わずかに濃淡がついてて、

掠れ具合とか、上手い。

さっきの人は刷り師さん?

この時代だから、馬連で擦るんだよね?

きっと腕のいい職人さんなんだ。

紙には四角いコマがたくさんあって、一つ一つに何か書いてある。

もちろん、絵もついてて……。

「これが双六……?なんて書いてあるの?」

「……智千代のとことは、字も違うのかい?」

雅紀さんが大変だねぇと言うように、おいらに視線を向ける。

字が変わったわけじゃないと思うんだけど……。

「たぶん、同じなんだけど……おいら、漢字、苦手だから。」

恥ずかしいけど、本当に漢字、苦手なんだよ。

二人は顔を見合わせて笑い、その紙に書いてあることを、丁寧に教えてくれた。

「……で、最後は歌舞伎で上がり。」

「へぇ~、すごいね。本当に双六になってるけど、これ、広告だよね?」

「こうこく……?」

「ん~と、宣伝?」

「ああ、宣伝だよ。この双六は、ほら、その角にあるお店、羊屋の売り上げの為だから。」

雅紀さんはそう言いながら、双六の角の大きなコマを指さす。

「小間…物屋さん……?」

「そうそう、櫛とか根付とか売ってんの。」

もし、行けるなら、ショウ君にお土産……は無理か?

おいら、この時代のお金、持ってないし。

この時代のお金はやっぱり、小判とかなのかな?

「これ、配りに行くの?」

おいらが聞くと智さんがニヤッと笑う。

「ああ、最後は配りに行くんだが……まずはちょいと色を入れようかと思ってね。」

「色……?」

「そうそう。時間があんまりないからね。これくらいの数で、

 ちょいと色を入れるくらいなら、版木彫るより直に入れちまった方が早い。」

「それをおいらが手伝うの?」

「ああ、手伝ってくれるかい?」

それなら手伝えそう。

おいらは力強くうなずく。

さっそく机に紙を広げて色を入れていく。

顔料はなんだろう?

赤と青、黄色の顔料が用意され、好きな所に色を入れろと指示される。

「好きなとこでいいの?同じじゃなくて?」

「同じにしてもいいが、同じにする必要もない。

 取りあえず、羊屋が目立つようになってれば……。」

「羊屋さんが目立つようにね?わかった!」

おいらは赤い顔料で羊屋さんの店名に影を付ける。

一枚一枚、丁寧に書いてくわけにはいかない。

紙は200枚位ある。

ちょっとで目立つようにするなら、赤が一番。

「赤かい?」

「うん。赤は目立つから。」

赤はショウ君の色。

一番目立つし、一番カッコよく見せてくれる。

「そうだねぇ、赤は可愛いし、男前だ……。」

智さんが何を思ったのか、フッと柔らかい顔をする。

あ……智さんのいい人、櫻井さんも赤なのかな?

おいら達は、ふふっと笑って、色を入れて行く。

もちろん、青も黄色も、顔料を少し混ぜて紫や緑も。

一枚一枚にちょっとだけ色を入れて、華やかにしていく。

描いた物を乾くまで広げておくから、部屋は足の踏み場もなくなる。

乾いているのを確認して重ねて行くのは雅紀さんがやってくれて、

狭い部屋だったけど、なんとか乾かすことができた。

やっと全部終わったのは3時くらい?

時計がないからわからないけど。

雅紀さんが、お団子とお茶を出してくれて気が付いた。

そう言えば、お昼も食べてない。

「ごめんね~、二人とも夢中になってたから。」

「芝居の前にちょっと蕎麦でもひっかければいいさ。なぁ?」

智さんが疲れたと言うように、両手を後ろに着いて、ダラッとする。

「うん。これ、おもしろかった。」

おいらは最後の一枚に、携帯とキャンディを書き込む。

きっとこの時代の人には何だかわからないけど、記念にね?










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