miyabi-night(5人)

miyabi-night 二十四話 - japonesque side story -

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雅紀が帯を結んでいると、智千代がおずおずと聞いてくる。

「あ、あの……。さっき言ってた櫻井さんって……。」

「ああ、櫻井様?智の……いい人。」

「いい……人?」

智千代が首を傾げ、少し残念そうな顔をする。

「いるんだ……。」

「なに?智、気に入っちゃった?」

「え……あ、そういうんじゃなくて……。」

智千代が必死になって否定するが、雅紀はにやにやして取り合わない。

「智は難しいよ。止めといた方がいい。」

「だから、そういうんじゃ……。」

雅紀がくすくす笑い、智の帯をぎゅっと結ぶ。

「櫻井様もいい男だよ。会っても惚れちゃだめだからね?」

「え……櫻井さんって……。」

「ん?男だよ。南町奉行所の同心で、真面目ないい男。」

雅紀は手早く帯の形を作る。

「じゃ、じゃぁ、さっき言ってた前帯は……?」

おいらは首だけ後ろに回して聞く。

「ああ、育ちがいいと知らない?

 前帯は花を売る女達の着方……。すぐ解けるから。」

みるみる赤くなった智千代が、可愛らしく、雅紀が楽しそうに笑う。

「初心だねぇ。遊んだこともないの?」

「お、おいらには……将来を誓った相手がいるから……。」

「将来?そんな相手がいるのに、なんでまたこんな格好?」

不思議そうな雅紀に、智千代も困ったような顔で返す。

「その相手ってのは、今、何してんの?」

答えられない智千代に、雅紀もそれ以上詮索はせず、帯の形を見て、

智千代の背をぽんと叩く。

智千代の体が、わずかに震える

「はい。できた。寒い?」

智千代がうなずいて、雅紀は箪笥から女物の羽織を取り出す。

「これ着てればそんなに寒くないだろう?」

雅紀さんは智千代を鏡の前に座らせると、白粉を叩いてくれて、化粧を施す。

概ね、白くなった所で、智千代が筆を手に、雅紀を見上げる。

「借りてもいい?」

雅紀がうなずくと、智千代は鏡をじっと見据える。

眉を引き、目尻と頬を刷毛で撫でる。

紅の引き方も慣れてる様子に、雅紀が感心していると、

出来上がった顔で、智千代がにっこり見上げる。

「うん、すっごく綺麗になった。」

雅紀が智の方に振り返る。

「ふぅん、お前さん、絵師かい?」

智千代はうなずいて、智の方に向き直る。

智は智千代に近づき、顎を掬うと、右側、左側から智千代の顔を確認する。

「こいつはいい助っ人がやってきたな?」

雅紀を見上げてにやっと笑い、また、智千代の顔をじっと見つめる。

智は黙って、智千代から筆を取り上げると、目尻に朱色の線を引く。

「この方が粋じゃねぇか?」

智千代は、鏡に映る顔に見入る。

「うん。」

にっこり笑う智千代を、満足そうに見て、智がその場に胡坐を掻く。

「さて……そろそろ話を聞こうか?」

雅紀もお茶を淹れて持ってくると、その場に座り、車座になって、智千代の言葉を待つ。

「何があったんだい?」

智の言葉を合図に、智千代がたどたどしく話し始めた。

「自分でも……よくわかんない話を、信じてもらえるか、わからないんだけど……。」

智千代は一呼吸して、言葉を続ける。

「おいらは、全然こことは違う別の世界から来たみたいで……。」

話し続ける智千代の言葉を、智と雅紀は熱心に聞いていたが、

今一つ、理解できる話ではない。

途中で、智が話を遮る。

「つまりは、よくわからない所からやってきて、どうやって帰るのかわからない、

 そう言うこったな?」

「う、うん……。」

智千代が首を捻りながらうなずくと、智と雅紀が顔を見合わせる。

「それなら、帰れるまでここに居ればいいよ。

 あ、成田屋さんのとこでも……。大丈夫。どうとでもなるから。」

雅紀がくしゃっと顔を歪め、優しく笑う。

「あ、ありがとう。」

智千代が縋るような目で雅紀を見つめる。

「そんな顏しないの。大丈夫だから。智千代さんのいい人にも……すぐ会えるよ。」

雅紀の言葉を受けて、智千代の目が潤みだす。

「あ~、ああ、ごめんね。思い出させちゃったね。」

雅紀が智千代を抱きしめ、よしよしと背中を撫でる。

「美人、二人が抱き合うたぁ、いい光景だな?」

智が、ふっふと笑う。

「だめだよ。泣いたら、せっかくの化粧が取れちまう。」

雅紀は智千代の顔を覗き込み、くすりと笑う。

「う、うん……。」

智千代も涙を堪え、笑って見せる。

そこへ、誰かが入って来る気配がする。

「ごめんよ。」

低い、小さな声を聞き、智が立ちあがる。

「お?来たな。」

智千代が首を傾げると、雅紀も立ち上がり、智の後に続く。

智千代も立ち上がり、小上がりから店の中を覗く。

「……一杯、刷って来たが、これでいいのか?」

「ああ、悪いね。それでいい。」

店にやって来たのは、小柄で髭面の男。

少し斜に構え、智とさえ視線を合わせない。

智はその男から紙の束を受け取ると、一枚を両手で広げる。

「うん。よくできてる。引札とは言え、おいら達の仕事に手は抜けねぇからな。」

「剛、お茶くらい飲んでくよね?」

雅紀がにこやかに声を掛ける。

「いや、俺はいい……。」

剛はちらっと智千代を見、すぐに視線を外す。

「あ、おいら、邪魔だったら……。」

「ああ、気にしないどくれ。剛は極度の人見知りだから。」

雅紀が智千代のせいじゃないと、首を振る。

「じゃ、俺はこれで……。」

さっさと帰って行く剛を、止めることなく智が剛の背中に話す。

「近々、暁もあるって言ってたから、空けといてくれ。」

剛は振り向きもせず、片手をあげる。

智は広げた紙を雅紀と智千代に見せ、にやりと笑う。

「さて、最後の仕上げだ。明日には和を呼べるな?」

雅紀が嬉しそうに笑う。

智千代も紙を見つめ、首を傾げる。

「これが双六……?なんて書いてあるの?」

「……智千代のとことは、字も違うのかい?」

雅紀が不思議そうに智千代を見る。

「たぶん、同じなんだけど……おいら、漢字、苦手だから。」

恥ずかしそうな智千代に、智と雅紀は笑って、丁寧に読んで聞かせた。










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