「夏の名前」
スケッチ (c/w 夏の名前)(やま)
スケッチ (c/w 夏の名前) -6-
2014.05.25 *Edit
「久しぶり。」
「おう!何してたんだよ。全然連絡もくれないで。」
俺はニコニコ笑う和を抱きしめた。
「ごめんごめん。仕事が忙しくてさ。」
そう言って、和はまた屈託なく笑う。
俺を捕らえて離さなかった和の笑顔。
相変わらず、その笑顔は眩しかった。
「でも…すごいな。智がこんなに偉くなるなんて。」
「偉くなんかないよ。ちょっと運がよかっただけ…。
よかったら、ゆっくりしていってよ。」
「うん。ありがと。近いうちに飲もうよ。
またあっちに戻っちゃうんだろ?」
「ああ、仕事があるからね。また連絡する。」
和はじゃあ、と手を上げ、離れていった。
和の笑顔を見ても、あの胸を締め付けられるような
淡い気持ちは、もう戻ってはこなかった。
これも君のおかげだね。
俺は、日本で個展を開く為に戻ってきた。
君と出会ったこの季節に…。
個展といっても、そんなに大きなものではなく、
銀座の、大通りから1本路地を入った画廊で、
2日間だけ俺の絵を展示する。
日本で個展を開くのは初めてだった。
やっと、日本でできるまでに漕ぎ着けた。
本当にやっと。
俺は画廊の中を見渡し、来てくれた客に声を掛け続けた。
お世話になった人々が次々にやってくる。
皆、口々に俺を誉めそやし、俺はいやぁ、と言うのが精一杯だった。
「おおっ。やってるやってる。」
大きな声に振り向くと、雅紀がニカッと笑って立っていた。
日に焼けた肌が、漁師の仕事をしっかり続けていると教えてくれる。
「遠いのに、わざわざ来てくれたの?」
俺は雅紀と握手を交わす。
「すぐ、もっと遠くに行っちゃうんだろ?」
雅紀は笑いながら、俺の肩をバンバン叩いた。
「あ、そうそう、スケッチブック。」
「ん?」
「ほら、お前に渡されたスケッチブック。すげぇ、そっくりなのな。」
「えっ?会ったの?」
「うん。会った会った。すぐわかったよ。あれ、10年前の絵だろ?
全然変わってなかったよ…。」
雅紀は話し続けたが、俺の耳に入ってこなかった。
俺の目はふいに見た、自動ドアの辺りに釘付けになる。
「翔……君…。」
君は戸惑うように周りを見回し、ゆっくりと中に入ってきた。
あの頃と変わらない、大きな瞳が俺を見つけて立ち止まる。
「智君……?」
君は照れたように視線を外し、下を向く。
俺は君に向かってまっすぐ歩いていく。
「翔君?」
俺の声に導かれて、君は顔を上げる。
忘れることのできなかった、優しい君の笑顔。
あの頃のようにどこか儚くて、消えてしまいそうで、
俺は人目もはばからず、君を抱きしめる。
「智君…。」
君の声で、君がちょっと困っているのがわかった。
でも、離すことなんかできない。
今離したら、君がどこかに行ってしまいそうで。
「智君。」
君は背中に回された俺の腕をゆっくり解いて、俺を見つめる。
「会いに来てくれたんだね。」
「…スケッチブック、見たよ。」
「うん。」
「僕がいっぱいだった。」
「うん。」
あの夏の俺の想い、君に届いたみたいだ。
君の瞳から涙が溢れ、君は子供のように手の甲で拭う。
「こっち来て。」
俺は君の手を引いて、奥へと連れて行く。
「あ……。」
君は泣くことも忘れ、奥の壁を凝視する。
俺が描いた一番大きな絵。
2m四方のキャンパスに描いた君の横顔。
これは今の気持ち。
忘れることのできなかった、俺の想い。
「どうかな…?…俺はあの頃と、何も変わっていないんだ。」
俺は微笑んで君を見つめる。
君の瞳から、再び涙が溢れ出す。
「いいのかな…、許されるかな…。」
俺は君を包みこむ。
君は溢れる涙を止めることなく、俺の肩に顔を埋める。
人々が見守る中、俺達は泣き続けた。
お互いの温もりを感じながら。
どこまでも青い空と、穏やかな海の調べと、優しい潮風。
浜辺はあの頃と何も変わっていない。
俺はスケッチブックを開く。
君は海をぼんやり見つめる。
あの時見た、大きな魚。
君は笑うかもしれないけれど、俺は運命だって信じてたんだ。
だってそうだろ?
こうしてまた会えたんだ。
運命だったんだよ。
朝は柔らかな陽を受けて。
昼は遠くに見える船を眺めて。
夕暮れは陽の沈む空の色を確かめて。
俺達はずっと海を眺める。
これからもずっと、二人で…。
了
「おう!何してたんだよ。全然連絡もくれないで。」
俺はニコニコ笑う和を抱きしめた。
「ごめんごめん。仕事が忙しくてさ。」
そう言って、和はまた屈託なく笑う。
俺を捕らえて離さなかった和の笑顔。
相変わらず、その笑顔は眩しかった。
「でも…すごいな。智がこんなに偉くなるなんて。」
「偉くなんかないよ。ちょっと運がよかっただけ…。
よかったら、ゆっくりしていってよ。」
「うん。ありがと。近いうちに飲もうよ。
またあっちに戻っちゃうんだろ?」
「ああ、仕事があるからね。また連絡する。」
和はじゃあ、と手を上げ、離れていった。
和の笑顔を見ても、あの胸を締め付けられるような
淡い気持ちは、もう戻ってはこなかった。
これも君のおかげだね。
俺は、日本で個展を開く為に戻ってきた。
君と出会ったこの季節に…。
個展といっても、そんなに大きなものではなく、
銀座の、大通りから1本路地を入った画廊で、
2日間だけ俺の絵を展示する。
日本で個展を開くのは初めてだった。
やっと、日本でできるまでに漕ぎ着けた。
本当にやっと。
俺は画廊の中を見渡し、来てくれた客に声を掛け続けた。
お世話になった人々が次々にやってくる。
皆、口々に俺を誉めそやし、俺はいやぁ、と言うのが精一杯だった。
「おおっ。やってるやってる。」
大きな声に振り向くと、雅紀がニカッと笑って立っていた。
日に焼けた肌が、漁師の仕事をしっかり続けていると教えてくれる。
「遠いのに、わざわざ来てくれたの?」
俺は雅紀と握手を交わす。
「すぐ、もっと遠くに行っちゃうんだろ?」
雅紀は笑いながら、俺の肩をバンバン叩いた。
「あ、そうそう、スケッチブック。」
「ん?」
「ほら、お前に渡されたスケッチブック。すげぇ、そっくりなのな。」
「えっ?会ったの?」
「うん。会った会った。すぐわかったよ。あれ、10年前の絵だろ?
全然変わってなかったよ…。」
雅紀は話し続けたが、俺の耳に入ってこなかった。
俺の目はふいに見た、自動ドアの辺りに釘付けになる。
「翔……君…。」
君は戸惑うように周りを見回し、ゆっくりと中に入ってきた。
あの頃と変わらない、大きな瞳が俺を見つけて立ち止まる。
「智君……?」
君は照れたように視線を外し、下を向く。
俺は君に向かってまっすぐ歩いていく。
「翔君?」
俺の声に導かれて、君は顔を上げる。
忘れることのできなかった、優しい君の笑顔。
あの頃のようにどこか儚くて、消えてしまいそうで、
俺は人目もはばからず、君を抱きしめる。
「智君…。」
君の声で、君がちょっと困っているのがわかった。
でも、離すことなんかできない。
今離したら、君がどこかに行ってしまいそうで。
「智君。」
君は背中に回された俺の腕をゆっくり解いて、俺を見つめる。
「会いに来てくれたんだね。」
「…スケッチブック、見たよ。」
「うん。」
「僕がいっぱいだった。」
「うん。」
あの夏の俺の想い、君に届いたみたいだ。
君の瞳から涙が溢れ、君は子供のように手の甲で拭う。
「こっち来て。」
俺は君の手を引いて、奥へと連れて行く。
「あ……。」
君は泣くことも忘れ、奥の壁を凝視する。
俺が描いた一番大きな絵。
2m四方のキャンパスに描いた君の横顔。
これは今の気持ち。
忘れることのできなかった、俺の想い。
「どうかな…?…俺はあの頃と、何も変わっていないんだ。」
俺は微笑んで君を見つめる。
君の瞳から、再び涙が溢れ出す。
「いいのかな…、許されるかな…。」
俺は君を包みこむ。
君は溢れる涙を止めることなく、俺の肩に顔を埋める。
人々が見守る中、俺達は泣き続けた。
お互いの温もりを感じながら。
どこまでも青い空と、穏やかな海の調べと、優しい潮風。
浜辺はあの頃と何も変わっていない。
俺はスケッチブックを開く。
君は海をぼんやり見つめる。
あの時見た、大きな魚。
君は笑うかもしれないけれど、俺は運命だって信じてたんだ。
だってそうだろ?
こうしてまた会えたんだ。
運命だったんだよ。
朝は柔らかな陽を受けて。
昼は遠くに見える船を眺めて。
夕暮れは陽の沈む空の色を確かめて。
俺達はずっと海を眺める。
これからもずっと、二人で…。
了
- 関連記事
-
- スケッチ (c/w 夏の名前) -6-
- スケッチ (c/w 夏の名前) -5-
- スケッチ (c/w 夏の名前) -4-
スポンサーサイト
総もくじ
a Day in Our Life

総もくじ
Kissからはじめよう

総もくじ
Love so sweet

総もくじ
season

総もくじ
ココロチラリ

総もくじ
ふたりのカタチ

総もくじ
Sunshine(やま)

もくじ
ナイスな心意気(5人)

もくじ
Troublemaker(5人)

もくじ
Crazy Moon(5人)

総もくじ
テ・アゲロ

もくじ
愛と勇気とチェリーパイ(5人)

もくじ
花火(やま)

もくじ
イチオクノホシ(やま)

もくじ
Japonesque(5人)

もくじ
miyabi-night(5人)

もくじ
明日に向かって(やま)

もくじ
ZERO-G

もくじ
Don't stop(いろいろ)

もくじ
イン・ザ・ルーム(やま)

もくじ
復活LOVE(やま)

総もくじ
WONDER-LOVE

もくじ
Your Eyes(やま)

もくじ
Attack it ~ババ嵐~

もくじ
つなぐ(やま)

もくじ
白が舞う

もくじ
夢でいいから(やま)

もくじ
ワイルドアットハート(やま)

もくじ
愛してると言えない(やま)

もくじ
Happiness(やま)

総もくじ
短編

もくじ
智君BD

もくじ
ティータイム

もくじ
ブログ

もくじ
Believe(やま)

もくじ
コスモス(5人)

もくじ
BORDER(やま)

もくじ
夏疾風(やま)

もくじ
STORY
