「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【101~120】
ふたりのカタチ (112)
2017.02.25 *Edit
朝起きると、潤さんがすぐに出かけると言う。
「お稽古があるから、出かけなくちゃならない。
智千代を一人にするのは心配だが……。」
え、ええ~?
潤さん、出掛けちゃうの?
潤吉姐さんは?
おいら一人?
一人で町を散歩するのも楽しそうだけど、ちょっと怖い気もする。
女の恰好してるし、ここがどこかわかんないし……。
おいらが顔を上げると、潤さんが心配そうにおいらを見てて……。
「友達にお願いするから、夜は一緒においで。」
潤さんは、おいらを安心させようとしてくれてるのか、背中を撫でてくれる。
「潤さん……。」
おいら、できれば友達より潤吉姐さんがいいんですけど……。
とは言えず、うなずくしかなくて。
「じゃ、行くよ。本当は着替えさせてあげたいんだが……。
すまないねぇ、ここには女着物は置いてなくて。」
潤さんがすまなそうに眉尻を下げる。
おいらにとってはそっちの方が都合がいい。
だって、着替えられないし、脱いだら……男ってバレちゃうし。
でも、もうバレても平気?
潤さんなら切られることないよね?
むしろ、その方が身の危険が少ないかも……?
「そんな顔して……お稽古より、智千代と居たくなってしまうよ?」
潤さんの腕がおいらの肩に回り、おいらの顔にイケメンの顔が近づいてくる。
え?おいら、どんな顔してた?
ほ、ほらね……。
おいらが女の恰好なんてしてるから……。
さらに近づくイケメン……。
ま、まずい……。
「じゅ、潤さん、お稽古の時間……。」
潤さんは、後10センチのところで止まって、しげしげとおいらの顔を見つめる。
そ、そんなに見られたら恥ずかしいから……。
潤さんの胸を押して、顔を背けると、潤さんの唇がこめかみに当たる。
「俺の気持ちは昨日話した通りだよ。
会った時から気に入っていたが、一緒にいればいるほど……。」
潤さんの艶っぽい声と息が耳にかかる。
まずい~。
おいら、耳、弱いから……。
だって、ショウ君が、耳ばっかり攻めたりするんだもん……。
耳だって感じやすくなるって……。
慌てて耳を手で塞いで、潤さんを見ると、潤さんが、フッと笑う。
「大丈夫。急いだりしないから。
智千代が俺を好いてくれるまで……待つから……。」
潤さんの手がおいらの手を握り締める。
親指で愛しそうにゆっくり手の甲を撫でる。
「お、おいらには……将来を誓い合った相手が……。」
「将来……?許嫁?」
許嫁……?
パートナーってなんて言ったらいい?
おいら、今、女だから、旦那様でいいのかな?
でも、ちょっと違うような……。
でも、奥さんって言ったら余計ややこしくなるし……。
おいらはゆっくりとうなずいて、潤さんを見上げる。
「じゃ、どうしてそこから逃げて来たの?」
逃げて来たわけじゃ……。
おいらにだって、どうしてここにいるのかわかんないのに……。
ショウ君……。
ショウ君のことを思ったら、寂しそうな顔になったのか、
潤さんの指が頬を撫でる。
「辛い事があったんだね……。」
違うけど……説明もできないから……。
おいらは無理やり笑顔を作って見上げる。
辛い事があったわけじゃないんだよ、潤さん。
潤さんはおいらを見つめて抱きしめて……。
「ずっとここにいていいから。気持ちが落ち着くまで……待つから……。」
「潤さん……。」
勘違いしたままの潤さんだけど、説明のしようもなくて、
おいらは黙って抱きしめられる。
力強い潤さんの腕……。
……潤さんって情熱的だよね。
だって、昨日会ったばっかりだよ?
この時代の人って、みんな、こんななのかな?
潤さんはおいらを離すと、立ち上がらせてくれる。
「さ、行こうか。」
そう言って、にっこり笑って……。
おいらをその店に連れて行ってくれた。
「ひがしくも……?」
見上げると、潤さんが笑う。
「ははは。しののめって読むんだよ。読み書きは苦手?」
「う、うん……。」
しののめって読むんだ……。
どういう意味だろ……。
後でショウ君に聞いてみよう……。
潤さんは、東雲の暖簾を上げて、中に入って行く。
「ごめんよ。」
中からは……誰の声も聞こえない。
もしかして、いないの?
「誰かいるかい?」
潤さんはどんどん入って行く。
おいらも遅れないようについていく。
「なんだい、朝っぱらから……。」
そう言いながら出て来たのは、眠そうに欠伸を噛み殺して、
潤さんとは違って、着物の着方もだらしない男の人。
「おや?朝っぱらからいい身分だねぇ?」
その人がいやらしく笑う。
なんか、嫌な感じ。
「ま、これが昨日の成果でね?雅紀はいるかい?」
成果って……?
「雅紀はまだ寝てるよ。もうすぐ起きてくることはくるが……。」
「ああ、そうだったね。すまない。ちょっと……頼みがあってね。」
潤さんがその男の人に近づいて行く。
「頼み?」
「ああ、お前さん、今日の稽古はいいから、一日、こいつを預かって欲しいんだ。」
「こいつ……?」
潤さんが斜め後ろにいるおいらを、チラッと見る。
おいらはなんか、この男の人に見られたくなくて、
下を向いたまま、黙って顔を逸らす。
「なんでも、まだ江戸に出てきて日が浅い、
ここらには不案内だというから、一日面倒みて欲しくてね。」
潤さん、おいらの心配してくれてる……。
「そりゃ、かまわねぇけど、今日は和の双六が刷り上がってくるから、
あんまり外には行けねぇよ?」
……すご…ろく?
「それで構わないよ。夜になったら、俺の舞台に連れて来てくれれば。」
「あんたの舞台を見たら、いちころって寸法かい?
いやいや、もうすでに……。」
男の人がまたいやらしく笑う。
なんか……この人、ちょっと苦手かも!
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