miyabi-night(5人)

miyabi-night 二十一話 - japonesque side story -

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「ささ、飲みましょう……。」

堺屋が言い、潤がお猪口に酒を注いで、宴が進んでいく。

潤の粋な会話に、堺屋の合いの手、智千代の笑い声が、東山を和ませる。

おかげで、東山も強か飲んで、薄っすら頬を染め始めた頃、

堺屋がずずっと前に出て、東山にお銚子を差し向ける。

「老中……、この間話していた件……いかがでございましょう?」

「うむ……お前の言うことにも一理あるが……。」

東山はチラッと智千代を見る。

「なぁに、この者たちは吉原に連れていけばいいだけのこと。

 やはり、岡場所はまとめた方がいいのです。

 そこら中にあってはお江戸の風紀が乱れます。」

堺屋は東山のお猪口に、なみなみと酒を注ぐ。

「今ある芝居小屋も多すぎます。それに群がる蠅の多いこと……。

 風紀の乱れ以上に、あそこから火事が起きたら、一たまりもありません。」

「それは……。」

潤は口を挟もうとして躊躇する。

火事の心配は、潤も認めざるを得ない。

小屋ほどの大きな建物が火の元になれば、江戸中に広がる大火となるだろう。

「春画も……見る者をその気にさせます。

 罪を犯す人を増やすことになるやもしれません。」

「……うむ…………。」

東山はふいに智千代を見る。

「お前はどう思う?」

「おいらは……。」

酒のせいか、頬を赤くした智千代は、困ったように眉尻を下げ、東山を見つめ返す。

「むつかしくてぇ、よくわかんらいけどぉ……。」

呂律が回らなくなっている。

かなり酔っているな……。

潤は心配そうに智千代を見守る。

智千代は顔を上げ、部屋中を見渡す。

その瞳は潤んで、きらきらと輝いている。

「ここにあるぅ、全ての物が美しく見えるよぉ。

 行灯もぉ、柱の傷もぉ、遠くまで見通せる空も~。」

くすくす笑うように言う智千代に、東山は顔をしかめる。

「……何が言いたい?」

智千代は手にしていたお猪口をくいっと煽り、はぁと小さく溜め息をつく。

「この時に……ある物…がぁ、ここにあるからこそ…光ってるって言うかぁ……。

 例えば、春画、錦絵は本当にきれぃ……、

 この時代の人がぁ、何を見て、何を感じてるのかがよくわかるぅ。

 ふーきをみだ…すのかもしれないけどぉ、

 水墨画や仏教絵と違ってぇ、町の人の顔が見えるんだよぉ。

 大事な何かがぁ……あるんじゃないかと思う……。」

舌っ足らずに話す智千代の話を、黙って聞き続ける東山は、

話終わった智千代を見て、僅かに微笑む。

すると、釣られるように智千代も笑い、自分のお猪口にお酒を注ごうとして、

その手を東山に止められる。

「もうやめておけ。」

「ん~、お酒、美味しいね。」

ふにゃりと笑う智千代の手を東山が、ぎゅっと握る。

それを見ていた潤は、東山の腕にそっと手を添え、振り向かせる。

「では、そろそろ、私の踊りを見てもらいましょうか。」

堺屋も潤に踊れと促す。

潤は、先ほどと同じように、口三味線で踊り始めるが、

どんなに流し目を送っても、東山が握った智千代の手を離すことはなかった。

「これは素晴らしい。これほど踊れるとは……。」

やっと手を離した東山は、感心するように手を叩く。

「恐れ入ります。」

潤がしずしずとお辞儀すると、お猪口を手渡し、お銚子を差し向ける。

潤はお猪口に注がれた酒を、くいっと一気に飲み、

東山を見つめて、にこりと笑う。

「良いものを見せてもらった。」

「ありがとうございます。」

「だが、そろそろ置屋に帰れ。こやつは……もう使い物になるまい?」

東山の隣で、今にも寝そうな智千代が、へらっと笑う。

潤はうなずいて、智千代の腕を掴んで立ち上がる。

「ほえ~?」

智千代が潤んだ目で見上げると、潤ですら、どきっとする。

なんだろう……。

この女のこの無防備な色気は……?

「おいて帰ってもいいぞ?私が介抱してやる。」

堺屋がいやらしく笑うのを背に受けて、潤は両手で智千代を抱きかかえ、

耳元で一括する。

「起きろ。最後の挨拶。」

小さな声だが、智千代にもわかったようで、

戸の前に、二人並んで正座する。

「では、失礼いたします……。」

潤が言い、部屋を出ると、静かに戸を閉める。

すると、すぐに堺屋の声が聞こえてくる。

「あの女、気に入ったのなら……。」

「いや、いい。……ふっふっふ。」

「どうしました?」

「あやつ、誇りを持ってやっていると言ってたのに、

 あれでは誇りも払われる。」

「ほっほっほ、確かに。」

二人の笑い声が重なり、東山の声が小さくなる。

「……それより、先ほどの話だが……。」

「はい。」

「…………。」

東山の声は聞き取れない。

これ以上ここにいても収穫はないと判断し、潤は智千代を抱きかかえて立ち上がる。

「立てる?」

ふにゃっと笑う智千代は半分眠っている。

「困った子だねぇ。」

潤は溜め息をついて、智千代の脇に腕を入れた。










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