「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【101~120】

ふたりのカタチ (109)

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堺屋さんが、さっきまで自分が座っていた場所を手で差して、

お侍さんに座るように勧める。

お侍さんは一瞬、嫌そうな顔をして、でも、おいら達を見回して、

仕方なさそうに刀を取って、自分の後ろに置く。

刀……だよね?

本物……?

お姐さんは、できる秘書みたいに、慣れた調子でお侍さんの隣に移動する。

隙の無い感じが……美礼さんみたい。

おいらは……このまま堺屋さんの隣……?

堺屋さん、やらしそうだからな……。

チラッと堺屋さんの顔を見ると、堺屋さんは満足そうに笑ってる。

あんまり近いとバレちゃうんじゃない?

そしたら……怒って切られちゃう?

お侍さんはちゃんと刀持って来てるし……。

お姐さん~、どうしよう?

おいらと目が合ったお姐さんが、目でお侍さんの隣を促す。

お侍さんの……隣?

いやらしそうな堺屋さんよりは安全な気がするけど、

でも、お侍さんは刀もってるし……。

どっちにいても危ないなら、お侍さんの方がまし?

優しそうだし、なんか頼れる気がするし……。

何と言ってもイケメンだし!

おいらがお侍さんの隣に移動すると、堺屋さんがおいらとお姐さんをチラチラと見比べて、

いやらしそうに笑う。

これは……今日のお侍さんの相手はどっちか?とか、考えてる?

残った方は堺屋さん?

ダメダメ!そんなことになったら、おいらが男だってバレちゃうし、

ショウ君に怒られちゃうよ!

なんとか逃げ出さないと……。

「今日はゆっくりしてくださいませ。こやつはなかなかの芸達者でございます。

 後ほど舞など舞わせましょう。」

気付くと、堺屋さんがお侍さんの前で、手を揉みながらお姐さんをお侍さんに勧めてる。

「いや……私は……。」

「たまにはいいではありませんか。……これ。」

お姐さんは、堺屋さんの視線に促されるように、お侍さんの手にお猪口を持たせる。

綺麗な手……。

指先しか見えないけど……。

でも、ちょっと……骨太?

お姐さんは性格と一緒で体も男っぽいのかな?

「老中様、潤吉にございます。」

お銚子を持ちながら、お姐さんが小さく会釈する。

お姐さん潤吉姐さんって言うのか……。

名前までジュン君みたい。

あ、待って。

おいらも名乗らなきゃ?

サトシって言うわけにはいかないよね……。

昔風の芸者さんの名前……。

芸者さんって、○○奴とか、○○千代とか、そんなんじゃなかったっけ?

お侍さんが、おいらを見て、名前を言うのを待ってるみたい。

どうしよう……。

何でもいいから、名前……。

おいらは頑張って笑って、膝の上で手を重ねる。

「……智…千代……でございます……。」

こんな感じでいい?

名前っぽくない?

不安そうなおいらを見て、お侍さんは優しそうな笑顔を見せる。

「二人共、可愛い名だな。」

満足そうな堺屋さんが、揉み手のまま、ニヤニヤしてる。

本当にいやらしそうな顔!

「東山様、今日の二人はなかなかの上玉。

 楽しい時間を過ごせましょうぞ。」

お侍さんは、やっぱりちょっと嫌そうで……。

おいら達が邪魔なら、早々に引き上げてもいいんだけど……。

むしろ、引きあげたい!

「私に芸子は必要ないと言わなかったか?」

「そうはおっしゃいますが、酒の席に女子(おなご)なしと言うわけにも……。

 ご心配には及びません。辰巳の女は口が堅いと聞いております。

 なかでも特に口の堅い女を用意させました。

 思う存分楽しんでくださいませ。」

楽しむって何を?

あ~れ~って、クルクルするやつじゃないよね?

堺屋さんと目が合って、ニヤッと笑われて、ゾクッとする。

おいらは寒気に両手で二の腕を撫でる。

堺屋さんは……あ~れ~ってやりそう!絶対!

お侍さんは、一気にお猪口を煽って、空のお猪口をお姐さんに差し出す。

「あれ、いい飲みっぷり。ではもう一杯……。」

「お前たちも飲むといい。」

お侍さんが潤吉姐さんからお銚子を奪い、お姐さんにも酒を注ぐ。

おいらにも空のお猪口を手渡してくれて……飲まなきゃダメ?

「……飲めないのか?飲めないのなら飲まなくていいが……。」

心配そうにお侍さんがおいらの方に顔を近づける。

あ、あんまり近くで見られると……。

おいらはお侍さんを離したくて、お猪口を差し出す。

「では、少しにしておくか?」

お侍さんが、お猪口に半分くらいにしてくれる。

「ありがとう……。」

お侍さんを見上げると、お侍さんが複雑そうな顔をする。

なんだろ?なんでそんな顔?

「智…千代だったか?」

「はい?」

おいらが首を傾げると、お侍さんが真面目な顔で聞いてくる。

「お前は元々、こんな仕事をする身分ではないだろう?」

身分……ってよくわからないけど、確かにこれはおいらの本当の仕事じゃない。

「飲めない酒を飲まなきゃならない、嫌な客でも相手しなきゃならない。

 辛くはないのか?」

お侍さんの顔が優しくて、とても悪い老中には見えない。

「お仕事は……仕事だから。

 どんな仕事でも、必要だからある。

 必要としてくれる人がいるから……。

 必要とされれば、やる気になるし、励みになる。

 おいら、自分の仕事、好きだよ。

 生意気だけど……プライドもある……。」

「ぷらい…ど?」

お侍さんが首を傾げる。

あ、プライド……なんて言ったらいいんだろ?

なんだ?なんて言ったらいい?

あ~ん、ショウ君ならすぐ出てくるのに……。

ショウ君のことを考えたら、パッと頭に浮かぶ。

「誇り!そう、誇りを持ってやってるの。」

お侍さんはおいらの顔をじっと見て、小さくつぶやく。

「誇りか……。お前は仕事に誇りを持ってるんだな?」

おいらは小さくうなずく。

おいら、絵を描く仕事、誇りを持ってやってる。

お金を貰ういじょう、ちゃんとした仕事をしたい。

お侍さんは黙って腕を組み、お酒をクイッと飲んだ。










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