miyabi-night(5人)

miyabi-night 十九話 - japonesque side story -

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すると、女がにこやかな笑顔で勢いよく手を叩く。

子供のように目を輝かせ、歌舞伎を観るような素振りで喜んでいる。

こいつは間違いなく芸子じゃないな。

潤が心の中でつぶやくと、潤と堺屋を交互に見た女が、

やっと場の雰囲気に気づいたのか、だんだん体を縮こまらせていく。

拍手の勢いもなくなり、どうしていいか分からないと言った様子に、潤の頬が緩む。

そんな姿がやけに可愛らしい。

この女、人を惹きつける素養がある。

このまま連れ帰ってみるか?

とりあえずは、この場を納めないと……。

「ふっふっふっふ。」

潤は声を上げて笑うと、足を直し、居住まいを正す。

「すまないねぇ。私は短気で……。

 お前さんのその穏やかな雰囲気は、強い武器になる。大事におし。

 さ、堺屋様、仲直りに一献……。」

そう言うと、潤は笑顔でお銚子を傾ける。

「う、うむ……。」

堺屋も内心、助けられたと胸を撫でおろし、

けれど、それを微塵も見せず、お猪口を手にする。

女もなんとかこの場が収まって、ほっとしたのか、

半分開いた障子から、外に目を向けている。

遠くに目を馳せる女の横顔は儚げで、

さっきまで、子供のように喜んでいたのが嘘のような大人びた表情に、

潤は驚いて目が離せなくなる。

女が伏した目を上げると、行灯の揺れる瞳の奥に、見たことのない光を感じ、

潤の鼓動がどきりと跳ねる。

なんだ?この女、何者だ?

「では、乾杯。」

心の内とは裏腹に、潤は女を気にする素振りを見せず、堺屋と杯を交わす。

お互い、一気に流し込み、にっこり笑みをたたえ合う。

「ところで、老中様は何刻においでになられるのでしょう?」

「そろそろのはずなんだが……。まだしばらくかかるやもしれぬ。

 何せ、忙しい方だから……。

 それはそれとして、どうだ、そろそろ一曲……。」

堺屋は、潤が注いだ酒に口を付け、唇を湿らせる。

潤はちらりと女を見る。

女は心ここにあらずと言った様子で、ぼーっと視線を部屋の中に泳がせている。

「お前さん……何ができるんだい?」

突然、声を掛けられ、現実に引き戻された女の体がびくっと跳ねる。

「え……あ……何も……。」

「何もできないのかい?」

女は眉を八の字に下げ、首を振る。

「そうかい……それじゃ仕方ないねぇ。手拍子をお願いしようかね?」

「手拍子?」

「このくらいで……。」

そう言うと、潤はゆっくりと手拍子を取る。

女も真似して手を合わせる。

「そうそう……その早さで手を叩いどくれ。」

潤はついと立ち上がり、座敷の奥で正面にいる堺屋に視線を投げる。

堺屋もにやにやしながら酒を口に運ぶ。

潤は一度正座し、扇子を置いて礼をする。

すぐにしゃなりと立ち上がり、口三味線で舞い始める。

「ちとんとしゃん……。」

潤の足が滑り、扇子を翳せば、柳が揺れ、花が舞う。

女は手拍子を取るのも忘れ、その動きに目を奪われる。

音もなく動く潤の足は、衣擦れと口三味線だけを纏い、美しい花を咲かせる。

堺屋はそんな潤の踊りをよそに、夢中になっている女の腰を寄せる。

「ひゃっ。」

女の体が堺屋の方に倒れ込む。

目の端でそれに気づいた潤は、どんと足を鳴らし、切なげな流し目を送る。

その艶めかしい姿に、女も堺屋も動きが止まり、潤から視線が動かせない。

やるせないその表情のまま首を振り、袖を掴んで口元を隠す。

恋しい人を待つ身の辛さ、苦しさ。

そして喜び。

潤の動きのしなやかさが、恋する女の強さ、弱さを漂わせる。

女は瞬きもせず潤を見つめ、堺屋の悪戯心も顔を引っ込める。

「ち…とんしゃん……。」

潤が腰を屈め、動きを止めると、女は勢いよく手を叩く。

体はまだ堺屋に倒れ込んだままである。

潤は、くいと顎をしゃくり、女に合図を送る。

女も自分の恰好に気づいたのか、急いで体を起こし、膝の合わせを直す。

「お粗末様で。」

潤は最後にまた正座して挨拶すると、女の手を取り、自分の方へ引き寄せる。

「あっ……。」

女の足が裾を踏み、潤に倒れ掛かると、潤は女を抱きかかえ、隣に座らせる。

微かに香る女の香りに、どきりとする。

何の香(こう)だ?

この女、高い身分の者なのか?

「お前も何かおやり。」

高い身分の者ならば、何か一つくらいできるはず……。

そう思い、女の様子を伺う。

「え?でも……おいら何もできない……。」

「何もできないことはないだろう?」

「そうだ、お前も何かやれ。何もできないなら……。」

堺屋の顔がいやらしく歪むのを見て、潤は女を力強く見つめる。

「唄でも琴でも何でも……何かないのかい?」

「……絵なら描けるけど……。」

「絵?」

潤が首を傾げたちょうどその時、戸の向こうから女将の声が響く。

「お付きになりました。」

「これはこれは。」

堺屋は立ち上がって、上座を空け、女の脇に腰を下ろす。

とうとうおいでなすったか。

潤が居住まいを正すと、女も正座を直し、合わせに手を添える。

緊張した空気の中、潤は戸が開くのをじっと待つ。

しばらくして戸が開き、女将に促されながら、供も連れず、男が一人で現れた。










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