miyabi-night(5人)

miyabi-night 十八話 - japonesque side story -

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潤は襟元を正し、戸を開ける。

「遅くなりまして……。」

深く頭を下げ、顔を上げるとにっこり笑う。

お座敷には堺屋と……、来るとは言っていなかった智の姿に、内心、にやりと笑う。

女着物は舞台で何度か着ている。

所作も心得ている。

潤は、しずしずと堺屋の前に座っている智の隣に並ぶ。

いつもの智とは微妙に雰囲気が違う……。

しかも、珍しく情けない、困った顔で自分を見上げている。

似ているが……別人か?

つと見てみると、智の腕を掴む堺屋の手。

「……困りますねぇ。辰巳の芸子は芸は売っても身は売らぬ、

 そう聞いたことはござんせんかねぇ?」

潤はぴしりと言い放って、はっとする。

いけない……、男声になっている……。

「ふ、ふん、生意気な芸子じゃないか……。

 ま、こういうのが、なかなかいいと言うからな……。」

堺屋のいやらしい笑いに、潤は鼻で笑って返し、

隣の、智に似た女にそっと耳打ちする。

「見ない顔だね?どこの者だい?」

……年の頃は二十歳そこそこだろうか?

江戸褄(えどづま)に赤い裾避け……。

吉原か?

潤は智に似た女をじっと見つめる。

智似の女は、そっと手を翳し、潤の耳に口を当てる。

「何でこうなっちゃったのか、わからないんですけど……。」

喋り方も智ではない。

潤は小さくうなずいて、女を安心させるよう、にこっと笑う。

「何をこそこそしゃべってるんだ。ほら、酒がないぞ?

 老中が来てからこれでは困る。」

堺屋が不機嫌そうに唇の端を上げる。

潤は堺屋に酌をしながら考える。

老中……。

誰のことか?

今の老中は何人だったか……。

鳥井を南町奉行所に配属したのも老中であったはず……。

お銚子を置いて隣を見ると、戸惑った様子できょろきょろと辺りを見渡す女……。

本当に何もわからぬまま、お座敷に上げられたのか?

「とりあえず、お酌しとくれればいいから。」

潤はそう言って、優しく笑いかける。

智に似ているせいか、どうも甘くなる。

本物の芸子なら、すぐさま置屋に帰すところだろうが、潤は本物の芸子ではない。

稽古でこんな調子なら、潤でも扇子を投げるだろうが……。

女はおずおずと堺屋に酌をする。

不慣れなその手つきがなぜか艶めかしい。

ぞくっとする自分に頭(かぶり)を振って、潤は堺屋に話しかける。

「堺屋様は西の方のご出身とか?こちらはどうです?」

「いや、江戸も賑やかだが、あっちはもっと賑やかで……。」

堺屋が酒を啜る。

「食い物は何と言ってもあっちの方がいい。」

「まぁ、江戸の料理はお口に合いませんか?」

「こっちのものは辛くていかん。」

「あちらは薄味だと言いますからねぇ。

 ではなぜ、こちらに?」

「ま、商売を手広くやろうと思ってな……。」

堺屋がもごもごと口を濁す。

「手広く……。これ以上手を広げたら、堺屋様のお屋敷がお城になってしまいませんか?」

「ははは。まま、お前も飲め。」

「はい……。」

堺屋の勧めるまま、潤がお猪口の酒を煽ると、堺屋は喜んで饒舌になる。

「いや、いい飲みっぷりだねぇ。気に入った。」

堺屋はさらにお猪口に、なみなみと酒を注ぐ。

「これなら、老中も気に入ってくれるに違いない。

 老中は好みがうるさくてね。ここに芸子を呼んでるのも怒られかねない。」

「まぁ、女子(おなご)を嫌がる殿方がいらっしゃるなんて。」

「いるんだよ。これでだめなら、次は陰間を呼んでみるか……。

 女形なんぞはそこらの女より色気があるからな?

 一人、囲ってる女形がいるんだが、それがなかなかの上物で……。」

「まあ……。」

潤が少し肩を上げ、流し目を送る。

女形の色気が気に入るのであれば、自分も気に入られるはず……。

「ははははは。いいねぇ、きっと老中も気に入ってくれるはず……。

 だが、俺はこっちの……初心(うぶ)なのが好みでね?」

堺屋は、自信無さげに小さくなっている女に向かって手招きをする。

「ここへ来い。お前はすぐに酌を忘れる。

 それじゃ、いつまで経っても半人前だ。俺が教えてやる。」

酌をさせるだけならば、潤にも止めようがない。

潤が小さくうなずくと、女は仕方なさそうに堺屋の隣に移動する。

ご満悦の堺屋は、女の前にお猪口を差し出し、注げと促す。

女もしぶしぶと言った様子で、酌をする。

この女……本当に芸子なのか?

芸子がこんな態度を取るとは思えない。

騙されてお座敷に上げられたのか、はたまた……。

潤がじっと見守ったまま、女の素性を考えていると、堺屋がいやらしそうににやりと笑う。

「お前は……顔はいいのに、おぼこだな。」

「おぼこ?」

女が首を傾げる。

その女の折った膝の上を、堺屋の手が這おうとする。

おぼこかどうか確かめると言うのか?

潤が、くっくと声を立てて笑う。

「無粋ですねぇ。そんなことを口にする。それは西の作法でございますか?」

「な、何を!?」

堺屋の手が女から離れ、潤に向き直る。

潤は心の中でにやりと笑い、啖呵を続ける。

「今日は、粋な飲み方ってやつをお教えしましょうかねぇ?」

「なんだと!お前などいらん!帰れ帰れ!」

「これまた無粋な……。」

潤は腹の底からおかしそうに笑うと、片膝を立て、一気に捲し立てる。

「では、私も西の作法とやらでお相手した方がよろしいようで?

 生憎、生まれも育ちも江戸なもんですからねぇ。

 あっちの作法なんて、とんと知るよしもない。

 江戸に来たなら、江戸の作法で飲みやがれ!

 郷に入れば郷に従えって言葉、知らないのかい!」

言い終わって、堺屋に向かって見得を切る。

決め台詞が決まって、気持ちのいい潤だったが、この場をどう収拾する?

老中の顔を見るまでは帰るわけにいかない。

さて、困った。










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