miyabi-night(5人)

miyabi-night 十七話 - japonesque side story -

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「ごめんよ!雅紀殿はお見えか?」

櫻井が暖簾をくぐって入って行くと、奥から声だけがする。

「あ~、はい!今~!」

雅紀は手の甲を両手で払いながら、小上がりに顔を出す。

「あれ、櫻井様、どうしなさった?」

「いや……。」

歯切れの悪い櫻井の言葉に、雅紀が首を傾げると、櫻井の後ろから、見慣れぬ侍が顔を出す。

「突然ですまぬ。そなたが雅紀か?」

「はい……雅紀は俺ですけど……なにか?」

雅紀は訝しそうに侍を見定める。

ぶしつけに、下から上に視線を移す雅紀に、侍はおもむろに口を開く。

「侑李が……世話になっていたようで……。」

「侑李……?」

「茶屋で……。」

どこかで見たことのある姿形。

雅紀はすぐにハッとする。

「あ……いつも侑李のとこに来てた……お侍さん?」

鳥井は静かにうなずいて、軽く頭を下げる。

「……そうだ。だが、私の名は……。」

「わかってます。お聞きしません。」

雅紀は頭巾をかぶって通っていた姿を思い出す。

「すまぬ……。だが、侑李がとてもそなたを案じている……。

 そなたがとてもよくしてくれたと……。」

「俺は何も……。」

雅紀は小さく首を振る。

特別侑李を気に掛けていたわけではない。

だが、女形の若いのは、芸事の辛さもあるからか、雅紀に話を聞いてもらいたがる者が多い。

「そんなことはない。侑李がひどく落ち込んでいた時も、

 そなたの温かさに救われたと言っていた。

 だから……しばらく茶屋には顔を出すな。」

「……どうして?」

「茶屋に手入れが入る……。」

「おぶ……。」

櫻井は鳥井を呼ぼうとして口を噤む。

名を伏せると言っていたのに、名前を呼ぶわけにはいかない。

「そ、それは本当でございますか?」

「ああ……。明後日、木挽町と……湯島に手が入る。」

「なんと!」

「仕方がない……。それで苦しんでいる人もたくさんいる。

 風紀が乱れるのもまた事実……。」

「ですが、それで生活していける人もいる……。」

櫻井は真意を読み取ろうと鳥井の顔をじっと見つめる。

鳥井の蛇のような目も、微かに揺れている。

何が正しいのかなんて、誰にもわからない。

立場が変われば正義も変わる。

「江戸の文化を否定するつもりはない。

 私だとて歌舞伎や浄瑠璃を楽しんでいる……。

 だが、それが花を売らせ、風紀を乱す……。」

「……必要悪だとは思いませんか?

 岡場所がなくなれば、犯罪が増える……。」

「だが、岡場所の上がりは誰の懐に入る?

 そこで働く者の手に入るのか?」

「それは……。」

櫻井にもそれは分かっている。

だが、それをどうにかできるような力が、自分にないことも分かっている。

「やっぱり、一番悪ぃのは、その金だけを貪るやつらってことだよなぁ?」

暖簾から顔を出したのは智だ。

その後ろから、潤も暖簾に手を掛け、入って来る。

暖簾をくぐりながら、潤の顔をチラッと見、右眉を上げる。

「ああ、そうだねぇ。そいつをなんとかしたら……、

 木挽町……歌舞伎の舞台には手を出さねぇでくれないかねぇ?」

「舞台……?」

「そうだ。舞台には町民の笑顔と癒しが詰まってる……。

 それは、あんただってわかってるはずだ。」

鳥井は誰ともわからぬ男の、有無を言わせぬ言葉に顎を引く。

頷かざるを得ない……。

「ついでに春画もね。あれは、風雅で粋で、江戸の文化の代表と言ってもいい。」

智の隣で潤が口を挟む。

潤の顔をつととみて、鳥井の顔色が変わる。

「お主……。」

顔が看板の潤だ。

鳥井にだってすぐわかる。

「侑李が……世話になってるみたいで……。」

潤の目が鋭く鳥井を睨みつける。

「侑李を助けようとしてくれたことは恩に着る。

 だが、やり方がよろしくない。

 役者は舞台でけりをつける。

 俺は侑李にそう教えてきた。

 侑李もわかってたはずなんだが……、恋は人を狂わすからねぇ。」

狂ったのは侑李だけではない。

職権を乱用し、侑李だけでも助けようとした鳥井だとて同じことだ。

「誰が黒幕なんだい?」

智は小上がりに腰掛けると、腕を組んで鳥井を見上げる。

「黒幕……?」

「そうさ、西から出て来たばかりの堺屋だ。

 そいつだけの仕事ってことはねぇだろう?」

「それはそうかもしれぬが……。」

「堺屋の後ろ、お前さんの後ろには誰がいる?」

「私の後ろなど……。私はただお勤めを果たしているだけだ……。」

鳥井は実直に仕事に励んできた。

今回だって、侑李のことがなければ、すぐにでも手入れを行っていたはずである。

そこに誰かの思惑が絡んでいるなど……考えたこともない。

「ふぅん?」

智は櫻井と潤に視線を送る。

櫻井は小さく頷き、潤は口に手を当て少し考え込む。

「ま、待って。侑李を助け出すだけじゃないの?

 話がよく見えないよ~。」

雅紀は四人の顔を交互に見て、口を尖らせる。

それを見て、四人の表情が少し和らぐ。

「雅紀には後で説明するとして……まずは堺屋に後ろ盾があるかないか……。」

智も顎を撫でると、右足を左膝の上に乗せる。

「それは……俺が探ってみようか?」

潤が智に視線を送る。

「できるのか?お前じゃ面が割れてる。」

「そこはそれ……どうとでも。」

潤がニッと笑う。

「ふん……じゃ、成田屋に任せようか。危なそうなら、すぐに引く。

 約束できるかい?」

「俺だって痛い目にはあいたかないからね。その辺は大丈夫……。」

智と潤の二人の会話を黙って聞いていた櫻井と雅紀は、

顔を見合わせ、心配そうに眉を下げる。

鳥井もどうしたもんかと櫻井の顔を見つめるが、

櫻井は小さく首を横に振った。










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