miyabi-night(5人)

miyabi-night 十六話 - japonesque side story -

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「どうだった?」

潤は叩いていた手を合わせ、真っ直ぐに侑李を見つめる。

「…………。」

侑李は何も言えない。

握った手を開くこともできず、力が入り白くなる。

「お前はこのままでいいのかい?」

侑李はぐっと唇を噛みしめる。

「このままじゃ、お前の役は智が取っちまうよ?」

縋るような瞳で潤を見上げる侑李に、智はふんと鼻を鳴らす。

「踊りたいんだろ?踊りゃあいいじゃねぇか。」

「踊りたい、踊りたいけど……。」

弱々しい侑李の声とは対照的に、智の声は力強い。

「踊って、鳥井とも一緒にいりゃぁいい。」

智は正座を崩し、胡坐をかく。

「そんなことできるわけ……。」

「できるかどうか、やりもしないで逃げるのかい?」

「逃げたわけじゃない!」

「逃げてるよなぁ?」

智はついと首を傾け、潤に視線を移す。

潤も小さくうなずいて、侑李を見つめる。

「お前は本当に逃げてないと言い切れるのかい?」

侑李は息を飲んで、目を伏せる。

逃げてるわけじゃない……。

逃げてるわけじゃ……。

「初めての大役、踊るのが怖かったんだろ?

 兄さん達の踊りに自分がまだまだ追いついていないのがわかってて……。

 それどころか、始めたばかりの智にすら敵わない……。」

侑李は目頭に涙を溜め、きっと潤を睨みつける。

「…………。」

「お前は鳥井様のせいにして逃げてるんだよ。

 踊らなくてよくなって、ほっとしてるんだよ。」

「違う!私は踊りたい……踊りたくても……!」

「本当にそうかい?」

潤の視線は冷静で、熱くなった侑李の心を余計駆り立てる。

「……踊りたい……、決してこの男に負けなどしない。」

じっと、力の籠った瞳で智を見据える。

ふっと笑った智が、胡坐の膝に肘を付く。

「じゃぁ、踊って見せてくれよ。舞台の上で。」

「…………!」

智を見つめていた侑李が、恐る恐る潤に視線を向ける。

潤は侑李の視線を受け止め、見つめ返す。

「見せてみろ。お前の踊り。お前が本当に踊りたいなら。」

「潤さん……。」

堪えていた涙が、侑李の頬を一筋伝う。

「い……いいんですか?」

潤は優しく笑うと、侑李の頬の涙を拭う。

「お前が本当に踊りたいなら……。」

「……潤さん……!」

侑李は潤に抱き着き、胸に顔を押し付ける。

潤も、縋りつく侑李の背をゆっくりと擦ってやる。

「潤…さん……でも、小屋は……。」

「大丈夫だ。小屋をつぶさせたりしない……。

 踊りが、舞台が、人をどれだけ勇気付けるか、笑顔にするか……。

 それがわかれば、小屋がつぶされたりなんかしないから……。」

侑李は潤の胸の中で小さくうなずき、もう一度ぎゅっと潤を抱きしめる。

「……鳥井様は……。」

「それは……お前が自分でしなくてはいけないことだね。

 何をするのかはわかるだろ?」

侑李は潤を見上げ、力強くうなずく。

潤は、気持ちを決めた侑李の頭を、ゆっくりと撫でる。

侑李もはにかんだように笑い、潤の胸から離れ、潤に微笑みかける。

そんな二人を、穏やかな瞳で見守っていた智が、わずかに眉を上げ、庭に目を向ける。

庭に感じる微かな気配。

よどんだ空気は感じなかったが、誰だろう?

鳥井か?

「どうした?」

潤が智の異変に気付く。

「いや……なんでもない。」

智は視線を二人に戻す。

むやみに心配をかける必要はない。

この二人には、今やらなければならないことがある。

智も二人に向かって、にこっと笑った。



櫻井は鳥井の様子を目の端で追う。

侑李を隠しているのは本当に鳥井なのか?

鳥井は厳しい表情で与力に指示を出している。

あれは村上の上司の与力……。

村上達は木挽町辺りの担当だ。

江戸の娯楽にとうとう手を付けようと言うのか?

歌舞伎も春画も江戸町民の心の糧だ。

泣いたり笑ったり、辛い日々もたいくつな日常も、これらのおかげで救われている……。

それがわからぬわけがない。

だが、今はまず侑李だ。

鳥井はなぜ侑李を……。

公演を中止させるのが狙いなのか?

それなら潤を攫うのが一番いい。

駆け出しの女形の代わりなら、いくらでもいる。

櫻井はじっと鳥井を見つめる。

そんな理不尽なことをするようには見えない。

質実剛健……身をもってそれを体現しているように見える。

お役目も実直に行っている。

なら、なぜ侑李を……?

櫻井の視線に気付いた鳥井が、与力を戻し、近づいてくる。

蛇のような視線が櫻井に絡みつく。

櫻井は慌てて視線を手元の帳面に戻す。

「櫻井。」

鳥井に呼ばれ、櫻井は姿勢を正す。

「はい。」

「お前に……頼みがある。」

「なんでしょう?」

櫻井は顔を上げ、鳥井を見上げる。

「……私を……東雲と言う貸本屋に連れて行って欲しいのだが……。」

「東雲に……?」

櫻井は怪訝な顔で鳥井を見つめる。

「東雲に……何かあるのでございますか?」

「いや……私事だ。お役目ではない……。」

鳥井の顔には、役目以外のことを頼む申し訳なさが滲んでいる。

「…………わかりました。」

櫻井はすっくと立ち上がり、鳥井の前に立つ。

「悪いが……このことは……。」

「……わかっております。」

櫻井はじっと鳥井の顔を見つめ、踵を返し、東雲に向かった。










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