miyabi-night(5人)

miyabi-night 十五話 - japonesque side story -

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「好いた人がおります。」

侑李は静かにそう言うと、潤の顔を見つめる。

「そいつは……。」

「その人が、危ないから隠れていろと……。」

「危ない?」

「はい。もうすぐ(芝居)小屋は取り潰される。

 取り潰されたら、茶屋で働く私達も取り押さえられるかもしれない。

 陰間は処罰の対象になると……。

 二人でいたいのなら……、こうするしかなかったんです……。」

潤は大きく腕を組み直す。

「そんな噂は聞いている。だが、噂にすぎない。

 まだ、そうなると決まったわけじゃ……。」

侑李の顔が歪んで、大きく首を振る。

「決まってることを、知っている相手なんだな?」

侑李がゆっくりとうなずく。

「……はい。老中は大層、風俗にうるさいお方だそうです。

 江戸に点々とある岡場所をなくし、吉原と深川に集約したいとお考えのようで……。」

「吉原と深川?」

「はい……もちろん、陰間はご法度……。」

「どうして?」

「……本気になり過ぎると老中が……。衆道も制限されたと聞きます。」

潤は櫻井のことを思い出し、溜め息をつく。

衆道は生涯相手を一人に決めると言う。

櫻井にはその覚悟があるように見えるが……。

お上から制限されたとなると……。

潤は庭に目をやり遠くを見つめる。

あいつはどうするのだろう……、智は……。

「それで……隠れているのか?」

「はい……手入れが終わって……、ほとぼりが冷めるまでと言われて……。」

侑李は申し訳なさそうに目を伏せる。

「相手は……鳥井様か?」

ビクッと侑李の肩が跳ねる。

「……どうして……。」

言い掛けて首を振る。

ここを探り当てられているのだ。

気付いていないわけがない。

「堺屋はどう関わっている?」

潤の鋭い口調に、侑李は開きかけた口を閉じる。

「ここは堺屋の持ちもんだろ?」

侑李は観念したように唇を噛みしめる。

「はい……堺屋さんは……鳥井様の為に、お力をお貸しくださっているのでございます。」

「何の為に?」

「……?」

侑李には潤の意図することが読み取れない。

鳥井様が困っているから助けている。

それだけではないのだろうか?

「鳥井様の為……ではないのですか?」

潤は、小さく唸って、じっと侑李を見つめる。

「堺屋はそんな男じゃないだろう。

 得にならないことをするような男には見えなかったが……。」

潤は何度か会ったことのある堺屋を思い出す。

笑顔を絶やさないくせに、目だけは笑っていない……。

そんな男が、鳥井や侑李の純情だけの為に手を尽くすと言うのか?

「それは……。」

そう言われると、侑李にも思い当たる節がある。

初めて鳥井と会ったお座敷は、堺屋の席だった。

鳥井が舞台で踊る侑李を気に入ったようで、

執拗に酒を勧めさせたのは堺屋ではなかったか。

そのまま二人は、初めての床を供にした……。

「まさか……。」

侑李はたじろいで、潤の顔を見つめる。

「その顔は、お前にも腑に落ちるところがあるってことだな。」

侑李はぐっと口をつぐむ。

「お前は……踊ることを諦めるのかい?」

潤は組んでいた腕を開き、両膝に手を添える。

「いいのか?本当に?」

侑李は唇を噛みしめ、じっと自分の手元を見つめる。

腿の上で開いていた手を、ゆっくりと閉じ、握り締める。

「……踊り…たい……。」

小さな声でつぶやく。

「だったら踊りゃあいいじゃねぇか。」

突然、智の声がして、二人は声のする方に振り返る。

庭に続く縁側に智が立っている。

柱に寄りかかり、二人の様子を上から見下ろす。

「お前が踊らなけりゃ、おいらが踊ることになっちまう。

 おいらの付け焼刃の踊りで、客をごまかせるもんかねぇ?」

侑李は智を見上げ、その視線を潤に向ける。

「潤さん……。」

潤は膝をぱんと叩いて智を見上げる。

「あんたの付け焼刃、侑李に見せてあげてくれ。」

智は少し右眉を上げ、柱から体を離す。

ついと歩いて、侑李の後ろの襖を開け放つと、隣の部屋の中央に立つ。

「潤さん……。」

侑李は心配そうに潤を見つめる。

「黙って見ておいで。」

智はすぅと息を吸うと、腰を落とし、小さく響く声で音を取る。

「花のぉ外にはぁ松ばかり……。」

すすと、音もなく歩き、舞い始める。

侑李は舞が始まると、背筋を伸ばし、真っ直ぐに智に見入る。

智の動きは、潔く無駄がない。

迷うことなく踊りの中に入って行き、白拍子を身に纏う。

指先、裾さばきから、華やかな衣装が浮かんでくる。

くるりと回れば、袖が揺れ、だらりの帯が舞う。

見えるわけのない扇子がひらひらと揺らめいて、侑李は息を飲む。

烏帽子を付け、舞い踊る智はどんなに美しいか。

とても付け焼刃の芸には見えない。

侑李が何年も修行して、やっと辿り着こうとするその域に、

智はするっと入って来たように見え、侑李はぎりっと奥歯を噛みしめる。

自分だって、踊れる……。

膝の上で握り締めた手は、爪が食い込み血が滲む。

それでもじっと見つめ続ける侑李を、潤はそっと見守り、智に目をやる。

この短期間でここまでやれるとは思わなかった。

踊れる素養は見て取れた。

だが、どう贔屓目に見ても、芸事に向いた性格とは言えない。

潤は智の足元に視線を落とす。

滑るように移動する智の足さばき。

重さのない、空を歩くようなその動きに溜め息が漏れる。

智の口から音が止み、動きが止まる。

一振り舞い終わると、智は裾を手で払い、正座する。

「お粗末様で。」

ふにゃりと笑う智からも、満足感が伝わって来る。

潤はゆっくり手を叩き、侑李の方に体を向ける。










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