miyabi-night(5人)

miyabi-night 十三話 - japonesque side story -

 ←ふたりのカタチ (102) →ふたりのカタチ (103)


「あら、今日は食べてく?」

おみよの明るい声が響く。

それを少し離れた木の陰から、智が見つめる。

おみよは忙しそうに店内を駆け巡り、店からはあんこの甘い香りが漂う。

すると、菅笠(すげがさ)を目深に被った侍が、おみよに何か話しかけ、

するっと笠を取って入口近くに腰を下ろす。

智からは顔は良く見えない。

年の頃は四十手前くらいだろうか。

背筋の伸びた細い体は、それなりの身分であることが見て取れる。

とても、団子屋で団子を食べる身分には見えない。

「誰だ……あれ……?」

侍は笑いながらおみよと軽口を叩き、旨そうに団子を頬張る。

その慣れた様子に智は首を捻る。

「初めてって感じじゃねぇよな……。」

智が訝しそうに侍を見ていると、十くらいの小僧が、おみよに駆け寄って来る。

おみよは笑顔でうなずいて、土産の用意を始める。

「あれが……堺屋の丁稚か?」

紺の縞の着物には見覚えがある。

堺屋の店頭で水撒きしているのを、何度か行商の途中で目にしていた。

利発そうなその子は、おみよから団子を受け取ると、大事そうに抱え、頭を下げる。

智は頭を低くし、袖の端を引っ張って、大股で小僧の後に続く。

一見、遊び人のようなその歩き方に、店の中の侍が、ふと目を留めた。



小僧は慣れた足取りで、町はずれまでやってくる。

この辺りまでくれば、江戸と言えども人影はまばらで、

烏や狸くらいにしかお目にかかれない。

小僧はきょろきょろと辺りを見回し、他に人気(ひとけ)がないのを確認すると、

竹林の中に入って行く。

「こんな所に……?」

怪しみながら、智も間隔を空けてついて行く。

小僧が辿り着いたのは、古い一軒の民家。

手入れはされているものの、鬱蒼としていて、寂しげなことこの上ない。

こんな人里離れたところに団子……?

ますます怪しくなってくる気持ちのまま、智も人の気配を確認する。

耳を澄ましても、聞こえるのは鳥の鳴き声と近くを流れる小川の音……。

智は辺りを見回し、家の庭側に回る。

庭には垣根があるが、それほど背は高くない。

垣根の隙間から覗いてみると、先ほどの小僧が正座して団子を差し出している。

前に座るのは……。

智が目をやると、色白の笑顔が可愛い少年が、小僧に向かって何か言っている。

小僧が一心に首を振るのを制するように、包みを開いて団子を差し出す。

小僧は仕方なさそうに、でも嬉しそうに、チラチラ少年を見ながら団子に齧りつく。

それを見ていた少年も、嬉しそうに団子を頬張る。

二人は時折、談笑しながら団子を食べ続ける。

少年の服装にも髪型にも乱れはない。

監禁されているようにはとても見えない。

少年は団子を食べ終わると立ち上がり、手を翳して腰を落とす。

「……振り……道成寺の振りか……?」

するすると舞い始める少年は、儚げで美しい。

恋する気持ちと切なさが、智にも伝わってくる。

小僧もそんな少年に目が釘付けになっている。

一振り、舞い終わると、少年は寂しそうに笑って小僧の前に座り直す。

小僧はちぎれんばかりに手を叩き、少年の舞を称賛している。

「……そりゃ、踊りてぇよな?」

智は小僧が帰路につく前、早々に引き返した。



「どうだった?」

雅紀が帰ってきた智の背に向かって聞く。

「ああ、それらしいのには会ったが、なんせ顔を知らないからな。」

小上がりに座り、草履を脱いで奥に入って行く。

「侑李の?」

「ああ。」

智は水を一杯飲むと、奥で作業をしている雅紀の隣に並ぶ。

「結構できてきたな?」

「早くしないとね。のりちゃんが田舎に行っちゃう。」

雅紀が笑顔で答える。

「好き合ってるなら……一緒にしてあげたいよね。」

雅紀は手にした小刀で、丁寧に彫っていく。

「急いで怪我すんなよ?」

「誰に言ってんの?俺、こう見えても暁の彫師だよ?」

「ははは。そうだった。すまんすまん。」

「春画よりは全然簡単なんだから。」

「まぁ、そりゃそうだ。色は付けねぇのかい?」

智は腕を組んで、器用に動く雅紀の手を見つめる。

「そんなにお金は掛けられないよ。」

「そうさな……おいらが少し色を入れるか?」

「え?そんな時間……ある?」

智は少し考えて首を振る。

「潤がもう少し優しけりゃあね?」

「だろ?」

雅紀がクスッと笑う。

「それも……侑李が見つかれば終わるよ。」

「それも、ちと寂しい気がするな……。」

智は腕を組み直し、窓から見える空を見上げる。

「侑李が……自分から身を隠してるとしたら……なんでだと思う?」

雅紀は手を止め、智を見つめる。

「自分から……?」

智は小さくうなずいて、また空を眺めた。










関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png Love so sweet
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png MONSTER(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【ふたりのカタチ (102)】へ  【ふたりのカタチ (103)】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【ふたりのカタチ (102)】へ
  • 【ふたりのカタチ (103)】へ