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miyabi-night(5人)

miyabi-night 十二話 - japonesque side story -

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「ごめんよ。」

櫻井が暖簾をくぐると、頬にあんこを付けた智と、団子に齧り付いた雅紀が振り返る。

その奥で正座した和が、筆を握り締め、何かを熱心に書いていて、

二人が来たことに気づく様子すらない。

「い、いらっはい。」

雅紀が団子を頬張りながら、立ち上がる。

手の甲で口を拭い、一気に団子を飲み込むと、喉に詰まったのか目を白黒させる。

「んっ!んんんっ!」

「ま、雅紀!」

慌てて智が湯呑を渡す。

渡された茶で団子を流し込み、はぁと息をつくと、二人に向かってにっこり笑う。

「はぁ、もう死ぬかと思った!」

智が隣でおかしそうに笑う。

「珍しいね。二人おそろいなんて。」

雅紀が潤と櫻井を交互に見る。

「ああ、偶然出くわして……。」

潤と櫻井が顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

偶然出くわしたのが陰間茶屋の裏木戸などと、雅紀と智の前では言えない。

「で、あれは何をしている?」

櫻井が不思議そうに奥にいる和を覗き込む。

「ああ、双六作ってるんですよ。」

雅紀が可笑しそうに答える。

「双六?」

「挿絵を暁に頼むってんで、どこに何を描いて欲しいか書きこんでるとこで。」

智も和の絵を思い出したのか、楽しそうに笑う。

「暁?それは大層な双六だねぇ。」

「す、双六と言えば、子供も一緒に遊ぶもの……、暁に描いて欲しいとは……。」

「あははは。翔さん、さすがに暁だって、双六に女のそれとか描かねぇよ。」

智は口の端についたあんこをぺろっと舐めながら、柔らかい視線を櫻井に向ける。

その視線を感じただけで、どきりとする。

智殿はずるい……、視線だけでこんな気持ちにさせる……。

若干染まった頬を、潤が見逃すわけもない。

「ほら、櫻井様、可愛い顔をしなさって……。」

潤が櫻井の顔を覗き込んで言うと、櫻井の顔がさらに赤くなる。

「や、やめないか!」

「また、そうやって照れる姿が可愛らしい!」

潤が楽しそうに、嫌がる櫻井の顔を追いかける。

「その辺で止めてやってくんねぇか?」

智が笑いながら潤を諫める。

「それ以上可愛らしくなっちまったら、町中に置いとけねぇからな?」

「さ、智殿!」

潤が目を見開いて二人を見比べる。

「え?あれ?そういうこと?」

智は満足そうにうなずいて、チラッと潤を見上げる。

「ま、そういうこったな?」

「それはそれは……。」

「智殿!」

櫻井が、窘(たしな)めるように智を睨む。

その顔を見て、智が笑う。

「いいじゃないか。潤様は人の色恋に口出しなんざ、しねぇよ。」

「そ、そういう問題ではなく……!」

いつになくおどおどして見える櫻井に、潤が溜め息をつく。

「こんなに可愛くなっちゃって。恋は人を変えるねぇ?」

「そうだよ。恋は人を強くする!」

雅紀はそう言って、奥の和に目を向ける。

「だから俺も……なんとかやっていける。」

「雅紀殿……。」

櫻井が切なそうに雅紀を見つめると、潤が大きく頭を振る。

「あ~あ、俺だけかい?独り身は。」

「潤様にはお江戸八百八町の女が付いてんだろ?

 恋人なんかできた日にゃ、江戸が女の涙で大洪水だ。」

智は声を上げて笑うと、潤も釣られて笑う。

「仕方ないねぇ。だてに二枚目しょってるわけじゃないからね。」

「だろ?」

顔を見合わせ、一頻り笑うと、雅紀が真面目な顔で櫻井を見る。

「で、今日は揃ってどうしたの?」

「ああ、まずはこれ。」

潤が土産の団子を雅紀に差し出す。

「え……まさか。」

「すまないね。まさか被るとは思わなかったよ。」

兎屋の団子の包みを見て、智と雅紀が顔を見合わせる。

「で、小耳にはさんだんだけどね……。」

潤が神妙な顔で話し出す。

「侑李に……堺屋が絡んでるらしい。」

「堺屋?」

声を上げたのは奥にいる和だ。

「堺屋がどうかした?」

筆を持ったまま、和がやってくる。

「侑李殿がいなくなる寸前、堺屋の小僧が使いに来たらしい。」

櫻井が簡単に説明する。

「使い?言伝(ことづて)?」

潤が小さくうなずく。

「それを聞いた直後に侑李が姿を消した。」

「それだけじゃ……。」

雅紀が口を挟む。

「堺屋は……お奉行と繋がってる。」

櫻井の確信に満ちた言葉に、四人が息を飲む。

「じゃ、やはり鳥井様が……。」

雅紀の顔がにわかに曇る。

「侑李を隠しているのが鳥井様だとして、どうやって侑李に辿り着く?

 まさか自分ちに隠してるとは思えねぇよな?」

みんなが小さくうなずき、考えるように顔を歪めると、櫻井がぽつりとつぶやく。

「団子……。」

「団子?」

智が聞き返し、うなずいた櫻井が続ける。

「団子を、堺屋の小僧が買いに来るらしい。

 しかもそれを堺屋じゃない所に持って行ってる。」

「それ……。」

雅紀が目を見開いて櫻井を見上げる。

「たぶん……。」

5人で顔を見合わせると、智がぽんと膝を叩く。

「ここは調べてみねぇといけねぇな?」

みんなが一斉にうなずく。

「明日にでも、おいらが行って来るから、みんなは手出しすんじゃねぇぞ?」

「どうして?」

櫻井が不満そうに智を見つめる。

「奉行が関わってるなら、翔さんは関わらない方がいい。」

「だからって……。」

「おいらの言うことが聞けねぇのかい?」

「……智殿……。」

口を尖らせる櫻井を置いて、智は潤に目を向ける。

「あんただって、今、奉行に目を付けられたら大変だ。

 木挽町だって狙われてんだろ?」

「そうだけど……。」

潤も不満をあらわにする。

「雅紀も同じだ。和はなかなか抜けらんねぇだろ?」

みんなを順に見回し、智が大きく腕を組み直す。

「わかったら大人しくしとけ。いいな?」

四人は不満そうにしながらも、しぶしぶうなずいた。










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