miyabi-night(5人)

miyabi-night 十一話 - japonesque side story -

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櫻井と潤は連れだって兎屋に向かう。

兎屋は、相変わらず忙しそうで、おみよも店中を走り回っている。

「ちょいといいかな?」

櫻井が声を掛けると、振り返ったおみよが怪訝な顔をする。

だが、すぐに頬を染め、はじらうように顔を伏せる。

おみよの視線の先は明らかに潤だ。

潤はくったくない笑顔を浮かべ、おみよに近づく。

「すまねぇが、団子を10本ほどみつくろってくんな。」

「は、はい。」

おみよは顔があげられない。

「この間……観に来てくれていたよね?」

潤に声を掛けられ、おみよの心臓が跳ねあがる。

「は、はい!素敵でした。潤様の見得(みえ)、最高ですぅ~!!」

おみよが上気した顔を上げ、潤を見つめる。

潤は、そのおみよの肩にさりげなく触れ、にっこり微笑む。

二枚目に、こんな風に微笑まれたら、どんな女も何でもしゃべるに違いない。

櫻井はまるで眼中にない自分に、多少の寂しさも感じつつ、本題に入る。

「この店に、よくお奉行がいらっしゃると聞いたんだが……。」

「ええ、鳥井様ね。よくいらっしゃってました。最近はいらっしゃらないけど。」

おみよは尋ねた櫻井を見もせず、潤に釘づけになっている。

「最近、増えた常連はいないかな?」

潤が聞くと、おみよは考えるまでもなく答える。

「何人かいらっしゃるけど、堺屋さんの丁稚がよく来るわね。

 どうも奥方様には内緒らしくて。

 前に、今は焼けてないから、夕方でよければ持って行きますよって言ったら、

 お屋敷が違うからって。」

「お屋敷が違う?」

櫻井が聞き返す。

「そう言ってたの。どこかまでは聞かなかったけど……。

 お妾さんのとこなのかなって……。」

おみよのとろんとした目は潤から離れない。

「そんな目でみられたら、溶けちまうよ?」

潤が甘い声で囁く。

「いやん♪潤様~。」

櫻井は、呆気に取られて潤を見る。

そんな言葉が出てくることが、櫻井には信じられない。

「ほ、他に特に変わったことは?」

「他に……?」

おみよは潤の顔を見ながら、首を傾げる。

「何かない?」

潤の微笑みに艶が増す。

「ん~、大したことじゃないけど、たまに、変なお侍さんが来る。」

「変な?」

櫻井が身を乗り出す。

「うん。深く菅笠をかぶって……、初めて来た時、食い逃げしようとしたから、

 お父っつぁんが捕まえたの。」

思い出したのか、おみよがくすくす笑う。

「でもね、やたら団子が美味しいって褒めるもんだから、

 お父っつぁん、嬉しくなっちゃってね、結局さらにお団子出してあげて。

 それからたまに来るようになったんだけど、それくらいかな?」

「侍が食い逃げだと?」

櫻井の眉間に皺が寄る。

「そうなのよ。びっくりするでしょ?」

潤と櫻井が顔を見合わせる。

「あ、その後はちゃんとお代、頂いてます。

 潤様なら……いらないけど……。」

おみよは潤から視線を外さず、はにかみながら笑った。



櫻井と潤は東雲への道すがら、さっきのおみよの話に首を傾げる。

「堺屋の丁稚はどこに団子を運んでるのか?」

櫻井が腕を組んで、う~んと唸る。

「兎屋の団子は侑李が好きだったから……。

 堺屋がどこかに隠している……?」

「……お奉行の命でか?」

「そうなりますよねぇ。」

二人並んで歩いていると、歩く度に女達が振り返る。

「……さすが成田屋だな。」

「ふっふっふ。そんなことはねぇんですけどね……。」

まんざらでもない風で、潤が笑う。

「智が行商してても、これくらい振り返りますよ?」

「なんと……!」

「あの恰好は目立ちますからねぇ。ま、それが狙いなんでしょうけど……。」

「智殿は……綺麗だから……。」

「綺麗?男には使わない褒め言葉ですねぇ。」

「…………。」

櫻井は言葉に詰まる。

智はいい男だ。気風もいいし、男気もある。

だが、見た目は柔らかく、目立つ風情ではないのに恰好がいい。

動きも滑らかで、隙がない。

軽やかで、蝶が舞うようで……。

それなのに、ふっとした拍子に、ぞっとするほどの色気を醸し出す。

それを形容するなら、やはり美しいと言わざるをえない。

「智の踊りは……確かに綺麗ですよ。」

「……綺麗か。」

「はい。……全ての振りが流れるようで……。」

二人は智に想いを馳せる。

「櫻井様も……いい男ですよ。」

「俺は……そんなことはない。」

「ふっふっふ。本人にはわからないでしょうけど、

 時々、やたら色っぽく可愛くなる時があります。」

「お、俺がか?」

「はい。」

潤は整った顔に、ふんわりと笑みを浮かべ、驚いた櫻井を見て、くすくす笑った。

「そう言えば、食い逃げの侍……。

 まさか、鳥井様ではないですよね?」

「まさか!お奉行がそんなことするわけがない!」

「そうですよねぇ。おみよちゃんも顔、知ってるだろうし……。」

櫻井は食い逃げする鳥井を想像してみる。

……あり得ない。

櫻井は大きく頭を振った。










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