miyabi-night(5人)

miyabi-night 十話 - japonesque side story -

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「堺屋とお奉行……。」

櫻井は腕を組んで、通りを見回る。

巡廻はお役目の一つだ。

だが、足はおのずと東雲の方へ向く。

お奉行はなぜ、雅紀のことを聞いたのか?

雅紀の何が知りたかったのか……。

腕を組み直し、辺りに視線を流しながら考える。

そう言えば、最初から、お奉行は櫻井のことを気にしていた。

それは雅紀のことが気になったからなのか?

まさか、お奉行は雅紀の客……?

いや、質実剛健、清廉潔白と言われている人だ。

どう考えても、湯島の茶屋は想像がつかない。

ではなぜ、雅紀を……?

「わからぬ……。」

分からないことを考えても時間の無駄。

侑李の足取りを追う方が身になるか……。

そう思い、踵を返して湯島へ向かう。

駆け出しの女形だと言っていた。

今時分じゃ、女将くらいしかいないかもしれない。

櫻井は空を見上げ、少し西に傾き始めた太陽を見つめ、目を瞬かせる。

智が代わりに踊る……。

踊る姿も見てみたい気はする。

智の所作は美しい。

睦言の時も、絵を描いてる時も。

長く細い指がしなるように肌を撫でる。

筆を握る。

流れるように動き、音もなく止まる。

それを舞台の上に乗せたら、どれほど美しいか。

櫻井は想像の智に溜め息を漏らす。

一瞬で人々の心を掴んでしまうに違いない。

誰にも見せたくない。

見せるわけにはいかない。

魅せられるのは自分だけでいい……。

櫻井は少し強くなった風に目を細め、体を縮めて角を曲がる。

目の前に広がる大きな池に、一羽の鳥が舞い降りた。

鳥は優雅な姿で池の中を漂っていく。

智はあの鳥よりも優美に踊るのだろうか。

右に行けば智と会う茶屋だ。

櫻井は左に足を向ける。

雅紀達の茶屋はもうすぐだ。



茶屋の女将は、貫禄と年増の色気を兼ね揃えた女だった。

鋭い視線を放ちつつ、どこか気だるい色気を感じる。

こんな店をやっているくらいだ。

そうでなければやっていけないのだろうが、その貫禄に気圧される。

侑李の事を聞いたが、てんで話にならない。

何を言ってものらりくらりとはぐらかされる。

酸いも甘いもかみ分けた女将にとって、櫻井では小僧の使いにもならない。

仕方なく、店の者に話を聞こうと裏に回ると、

木戸から出てくる人影とばったりぶつかる。

「これは失礼……。」

「いや、こっちこそ……。」

相手の顔を見てびっくりする。

「成田屋……。」

「東雲の……。」

駆け出しの女形が出入りするのは自然だが、

今をときめく潤が出てくるには不似合いな場所だ。

「なぜここに……?」

聞いたのは潤だ。

「それはこっちが聞きたい。」

潤はキョロキョロと辺りを窺い、櫻井の腕を引いて小走りに店から遠ざかろうとする。

「な、なんだ?」

「しっ、黙って。」

潤に睨まれ、櫻井は大人しく潤の後に従う。

十分離れたのを確認して、潤が櫻井に体を寄せる。

香の香りか、潤の香りか、甘く艶めかしい匂いが鼻をつく。

「どうしてあそこに?」

「それは……智殿が踊りの稽古をしていると聞いて……。」

潤はほっと息を漏らす。

「よかった。お上に言われてきたんじゃないかとびくびくした。」

「いや、それはまだない。だが、遅かれ早かれ、そう言った日が来る。」

櫻井は正直に潤に話す。

隠してもすぐに漏れる。

潤だったら、修行中の子を逃がしてやることができるかもしれない。

少しでも逃がしてやれれば……。

「湯島に手を入れるのは、少し遅くなるんじゃないかな。」

意外な言葉に櫻井の視線がするどくなる。

「どうして?」

「それは……。」

潤が櫻井の耳元に口を寄せる。

「鳥井様は……あの店の常連です。」

櫻井は耳を疑った。

「まさか。」

「まさかではありません。侑李の……ご贔屓は鳥井様です。」

「成田屋、なぜそれを……?」

「それは……。」

潤は笑って、艶っぽく流し目を送る。

「年は取っても女は女……。」

「女将か……。」

櫻井では箸にも棒にもかからなかったが、潤ならいともたやすく口を割らせる。

櫻井は潤の整った顔立ちをまじまじと見つめる。

あの女将も、色男には勝てないのか。

いや、待て。

そんなことを考えている場合ではない。

櫻井は話の大元、侑李に話を戻す。

「侑李がいなくなったことと、何か関係があるのか?」

「それが……どうもよくわからねぇんですけどね……。」

「何がわからないんだ。」

「侑李がいなくなった時、どうやら使いがやってきたらしいんです……。」

「使い?」

潤が眉をしかめて腕組みをする。

そんな姿まで様になる。

「それが……どうも、堺屋の小僧だったらしくて……。」

「堺屋?」

櫻井は先日の村上の話を思い出す。

「それきり侑李はいなくなったのか?」

語気強く櫻井が聞くと、潤も細かくうなずく。

「どうも、そうらしいんです。」

「堺屋か……。」

櫻井は腕を組んで溜め息をつく。

堺屋とお奉行は繋がっている。

お奉行が侑李をかどわかしたのか?

「成田屋……団子でも食わないか?」

「団子?」

潤は、不思議そうに首を傾げて櫻井を見つめた。










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