miyabi-night(5人)

miyabi-night 九話 - japonesque side story -

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稽古の帰り道。

なんとか一通り振りは覚えたものの、

慣れない動きに、智の体はどこもかしこも悲鳴を上げる。

だが、気持ちの良さも感じていて、稽古に行くのが実はさほど嫌ではなかった。

二の腕を擦りながら、智は大通りを兎屋に向かう。

縞の小袖は相変わらずくたびれているし、丸めた背中も恰好がいいとは言えないが、

すっと通った鼻筋や、頬にかかるおくれ毛は、一瞬目を引く艶っぽさだ。

最近の稽古の疲れが、それに影を付け、艶っぽさに磨きがかかる。

本人はそれを知ってか知らずか、人好きのする笑顔がさらに女心を擽る。

ご多聞に漏れず、兎屋のおみよも、智が店の前に来ると、

頬を染め、おくれ毛を撫でつける。

「相変わらず可愛いねぇ。おみよちゃん。」

「嫌だ、そんなこと言ったら本気にするから。」

若いおみよは、のりよく返事を返す。

店内には女子供だけでなく、男客も多い。

半数はおみよ目当ての客だろう。

おみよの気立てと性格なら、声をかける男も少なくないに違いない。

「おみよちゃんなら、本気にしてもらってもかまわねぇんだが、

 親父さんに怒鳴られそうだから、ここは一歩引いとくか?」

智も笑って、団子を指さす。

「そうやって、お父っつぁんがいるから、誰も寄って来やしない。」

少し頬を膨らませ、奥へ目をやるおみよに、智が声を上げて笑う。

「あはははは。それじゃ行き遅れちまうぞ?」

「ほんと!その時はもらってくれる?」

「ああいいよと言いたいとこだが……稼ぎの少ねぇおいらじゃ、

 本当に親父さんに蹴り出されそうだから、やめとくいた方が良さそうだ。」

「あんっ!智さんまで!」

おみよは団子を紙に乗せる。

「何本?」

「そうさな……五本くれぇで十分か?」

「五本ね……。」

賑やかな店内を見回し、智はゆっくり腕を組む。

「この店はいつも人気だねぇ。」

「お蔭さまで。」

おみよは手早く団子を包みながら、笑顔を返す。

「お侍さんにも人気らしいね。」

「うふふ、お侍さんだって、甘い物は好きだもの。」

「おみよちゃん目当てじゃないの?」

「いやぁね、まさか!」

「通ってくる人はいねぇの?」

「前は……鳥井様がよくいらっしゃってたけど……。

 最近は見ないわね。」

「新しいめあてができたか?」

「鳥井様は奥方様がいらっしゃいます!きっと奥方様の好みが変わったのね。」

包んだ団子を智に差し出し、にこっと笑うおみよに、智も小銭を手渡す。

「まいど、ありがとうございます。」

「じゃ、また寄るよ。」

智が軽く手を上げると、おみよも笑顔を返し、客に呼ばれて奥に向かう。

「鳥井か……。」

智は団子を指に下げ、奉行所の方に目を馳せる。



東雲に戻ると、和が小上がりで、畳の上に置いた何かを真剣に見ている。

「おぅ、来てたのか。」

智が声を掛けると、気付いた雅紀も奥からやってくる。

「お帰り。」

雅紀はにこっと笑って手招きする。

「何?どうかしたのかい?」

智は小上がりに腰掛け、体を捻って和の見ている物を覗き込む。

紙には墨で四角が並べて書いてある。

その一つ一つにも細かな字で何か書いてあるが、細かすぎて良く読めない。

「なんだ、これ?」

智が和の方を向くと、和がにっこり笑う。

「絵双六ですよ。」

「すごろく?」

「そう。」

和は紙を手に取り、四角の一つを指さす。

「ここにこうして、店の名と何屋か書いて、売り名を記す。

 で、進んでいくんですよ。最後は歌舞伎を観てお終い。」

「こんなもん作ってたのか?」

「引札じゃ、大店には敵わない。そんなに多くは刷れないですから。

 でも引札は茶碗包んだりされちゃうでしょう?

 でも双六なら、子供も大人も楽しんで、楽しんでる内は家にある。

 しかも店の名も商品も覚えやすい。」

「なぁるほど!」

智がぽんと手を打つ。

「すごいだろ?和!」

雅紀も楽しそうに双六を覗き込む。

和が少し照れ臭そうに頬を染める。

「これに書く店を探してたんで、ちょっと時間くっちまって。」

双六をよく見てみると、左の端に羊屋の名もある。

「これ、のりちゃんのお店だろ?」

雅紀が指さす。

「そう、羊屋に止まると、五個も進むんで、大当たり。」

和がにこっと笑う。

「おっ、こっちに東雲もある。」

「おまけで入れときました。」

「おまけ?これ、金取るの?」

智が和の顔を見る。

「そうですよ。最初だから安いけど。でね……。」

和が声を小さくする。

「暁に、この挿絵、お願いできませんかねぇ?」

「暁に……?」

「のりちゃんが好いた相手と一緒になる為です。

 しかも、これが当たれば、金になる。

 雅紀に刷ってもらうから、雅紀にもお金が入る。」

「和……。」

そこまで考えが及ばなかった雅紀が、驚いたように和を見る。

「暁に、頼んでもらっちゃ、もらえませんか?」

智は、う~んと腕を組む。

「あ、無理はしなくていいからね。暁だって忙し……。」

雅紀の言葉に被せるように智が言う。

「わかった、頼んでみるよ。」

「智……。」

雅紀が心配そうに智を見つめる。

「でぇじょうぶだよ。これならそんなに手間はかからないだろ?

 それにこれ見たら、暁だっておもしろがるって。」

「そうこなくっちゃ。」

和が興奮気味に、にんまり笑う。

「これに暁の挿絵とくれば、鬼に金棒!」

「しかしな……。」

智が腕を組み直す。

「ん?」

雅紀と和が首を傾げて智を見る。

「この絵はあまりにひどすぎる。これじゃ、暁だって何を描いていいかさっぱりわからん。

 この羊屋に描いてあるのは、鼠か?」

「……羊ですよ。私は絵は苦手なんです!」

少し頬を膨らませた和を見て、雅紀が声を上げて笑った。










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