miyabi-night(5人)

miyabi-night 八話 - japonesque side story -

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「まぁ、そういうわけで、毎日稽古で大変なんだよ。」

智が大きく腕を組むと、櫻井も釣られて腕を擦る。

話の途中で、お茶を淹れて戻って来た雅紀も入り、輪になる。

「てことは、その侑李が見つかれば、智殿は踊らなくて済むと?」

「そういうこったな?」

「でも、なかなか手がかりがなくてねぇ。」

雅紀は櫻井の持ってきた包みを開き、団子を一本摘み上げる。

「手がかり……。」

櫻井は袖に両手を入れ、考える。

「兎屋の団子か……。」

「ま、明日にでも行ってみるよ。」

智は呑気に茶を啜る。

「智殿は……嫌ではないのか?毎日痣だらけになって……。」

櫻井が心配そうに智を見る。

「そうだな……。

 転べば痛ぇし、怒鳴られればむかっ腹も立つが、そう嫌いではないな。」

「智は動きが綺麗だから、きっと美しい清姫になるよ。」

雅紀は団子を頬張りながら、にこにこ笑う。

「それが一番いけねぇ!」

智が叫んで、笑いを誘う。

「だが……稽古ばかりでは、絵が描けないのではないか?」

櫻井の言葉に、智と雅紀が顔を見合わせる。

「そこが問題なんだよね……。」

雅紀の顔が沈む。

「まぁ、当分は仕方あるめぇ?」

「でも……絵だって、待ってる人がたくさんいるよ。」

雅紀が遠慮がちにそう言って、智をちろっと見ると、智もう~んと首を捻る。

「描きかけをやっちまいたい気持ちもあるんだが……。」

「やっぱり智殿は描くべきだ。私がなんとか侑李を探し出すゆえ、

 稽古に行かぬようにはならぬのか?」

「見つかれば……なぁ?潤もダメとは言えねぇよなぁ?」

「あ……でも、今は止めた方がいいかもしれぬ……。」

智の言葉に明るくなった櫻井の顔に、一瞬で影が差す。

「なんで?」

雅紀が聞き返す。

「今のお奉行が……厳しい方なのだ。」

「新しいお奉行って、老中の三羽烏って言われてる……。」

雅紀の声が低くなる。

「そう、鳥井様だ。」

櫻井がうなずき返すと、雅紀も渋い顔を見せる。

「それは……しばらくは大人しくしてた方がいいかもしれないね。」

「どうしたんだい?雅紀がそんな弱気になるなんて。」

智が不思議そうに雅紀を見ると、雅紀は唇の端に着いた団子のたれを舐める。

「神田の方の岡場所に手入れが入ったって……。」

「ああ、浅草と湯島も危ないって話だ。」

櫻井も声をひそめてつぶやくように言う。

「湯島も……。」

雅紀の顔がさっと青ざめる。

「なんとかしてやりたいが、私にはどうすることも……。」

「ああ、気にしないで。わかってるから。

 こっちはこっちでなんとかするから、櫻井様は櫻井様のお勤めを……。」

「すまん……。」

櫻井が頭を下げると、雅紀と智が顔を見合わせる。

「ああ、それもなしだよ。」

雅紀が櫻井の肩を押す。

「櫻井様が悪いわけじゃないんだから。」

「だが……。」

「仕方ないよ。」

雅紀が笑ってうなずくと、櫻井は余計に自分が悪いような気がしてくる。

「取りあえず、あんまり目立たないようにはするからさ。心配しないで。」

「雅紀殿……かたじけない。」

また頭を下げる櫻井を見て、雅紀と智は顔を見合わせた。



次の日、櫻井は役所の朝礼でも、昨日の智と雅紀のことを考えていた。

智が春画を描くのは雅紀の為だ。

雅紀を身請けする為に他ならない。

それには相当金がかかる。

智が当代随一の人気絵師だとしても、そう簡単にどうにかなる額ではないはずだ。

もし、湯島がなくなったら、雅紀は助かるのか?

いや、そんなはずはない。

他に売られて、余計ひどいことをさせられるかもしれない。

下手をすると、誰かに身請けされて……。

そうなったら、和と雅紀の儚い恋も夢と散ってしまう。

櫻井は一人、頭(かぶり)を振る。

そんなことをさせるものか。

湯島だけでもなんとかできれば……。

智の事情、侑李の行方も……。

「櫻井。」

名前を呼ばれ、はっとして、うつむいていた顔を上げる。

「はい。」

呼んでいたのは奉行の鳥井だ。

「お前に聞きたいことがあるのだが……。」

「何でございますか?」

いつの間にか、朝礼は終わっていて、同心達は各々お勤めを始めている。

「十二間はお前の担当だったな?」

先刻の改編で、櫻井は上手い具合に十二間の担当になった。

区分けされる地域が若干広がったのだ。

十二間は智たちの貸本屋のある地域だ。

「はい。左様でございます。」

「そこに……東雲と言う貸本屋があるのを知っているか?」

東雲と聞いて、櫻井の眉間に皺が寄る。

東雲は、雅紀の店の名だ。

「知っておりますが……、東雲がどうかなさいましたか?」

鳥井はじっと櫻井を見つめる。

「そこに、雅紀と言う者はいるか?」

「……さぁ、どうでしょう。私もまだ担当になって間がないもので……。

 その者が、どうかなさいましたか?」

鳥井の目が鋭く光る。

「いや……知らないのならいい。」

鳥井は何かを考える風に、顎を撫でる。

「鳥井様……。」

「手間を取らせたな。」

鳥井はさっと踵を返して戻って行く。

雅紀にどんな用事なのだろう。

櫻井は鳥井が見えなくなるまで目で追う。

「何言われたの?」

村上が櫻井の隣に寄って来る。

「何も、大したことは……。」

「お奉行、清廉潔白の人と言われているが……、

 裏があるかもしれないよ?」

「村上、何を根拠に……。」

「根拠はある。」

村上はにやりと笑って、櫻井の腕を掴み、人気のない廊下の隅に引きずって行く。

そこでも、さらに声を落として、櫻井の耳の近くに唇を寄せる。

「見たのよ。」

「見た?何を?」

「お奉行が堺屋の主と密会してるとこ。」

「密会?」

声が大きくなった櫻井の口を、慌てて村上が押さえつけた。










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