miyabi-night(5人)

miyabi-night 六話 - japonesque side story -

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「……ってわけで、お嬢さんに頼み込まれちまったんだけど……。」

和が腕組みしながら、雅紀の隣に並んで座る。

二人の間には饅頭とお茶。

昼下がりの東雲は、和の憩いの場だ。

「それは大変だねぇ。のりちゃん、祝言あげられるといいけど……。」

「店が傾いちゃ、難しいでしょうね。」

「和、なんとかしてあげてよ。俺らみたいで……可哀想だよ。」

雅紀の目が潤む。

雅紀は自分の立場と重ねて悲しんでいる。

和にもわかっている。

自分達が、当分、どうにもならないことは。

雅紀は今日も頭巾を首に巻いている。

それが、和をさらに悲しくさせる。

「……考えてはいるんだけどね……。」

「大店は引札もばんばんばら撒いて宣伝してるよね……。

 のりちゃんとこも引札、刷ろうか?」

「引札か……。」

和は腕を組んで考え込む。

「こっちもね、大変なんだよ。大変なのは智だけど。」

雅紀は、和が持ってきた饅頭を頬張る。

頬を膨らませ、もぐもぐと口を動かす雅紀が可愛くて、和はその口の端に指を当てる。

「あんこ、ついてる。」

指についたあんこを舐め、にこっと笑う和に、雅紀の目が細くなる。

「和も……あんこつけてよ。」

「え?」

和の頬が染まる。

「つけやしませんよ。雅紀じゃないんだから。」

雅紀は笑って、和の手を握る。

「つけたら……俺が拭いてあげるのに。」

雅紀が切ないような、はにかむような優しい顔で笑う。

今は……これで十分だ。

和は握られた手を握り返して、雅紀をじっと見つめる。

「けぇったよ。」

暖簾を払い、店に半歩入った智の足が止まる。

目の前で手を握り合う二人を見て、にやりと笑う。

「これはお邪魔なようで……。」

踵を返そうとする智を、雅紀が慌てて止める。

「いい、いい!大丈夫だから!」

握っていた手を離して、顔を背ける二人。

初々しくって見ていられない。

智は、ふふっと笑って、雅紀の横を通り過ぎ、小上がりに上がって行く。

「今日は早いね。」

ここ連日のよれよれ振りとは違い、半日だからか、智も元気がある。

「潤が用事があるんだと。」

智は土間に降り、水瓶から水をくむ。

「じゃ、今日は終わり?」

「ああ、今日はゆっくりできそうだ。」

奥から智の声が響く。

「何?どこか行ってるの?」

和が雅紀の袖を引く。

「ああ、こっちも大変でさ。」

雅紀が首を竦めて、事の始終を話し始めた。



「なるほどね。」

和は腕を組んで、智を見上げる。

「体中、痣だらけよ。」

智が袖を捲ると、肘の辺り、手首の近くと痣が三つほどついている。

「素人がちょっと稽古したところで無理だって言ってんだが、聞きゃしねぇ。」

袖を戻して、小上がりに胡坐を掻く。

「まま、饅頭でも食べて。」

雅紀が饅頭の皿を、すっと智の方へずらす。

「お、いいねぇ。これは角の鶴屋の饅頭だね。」

「良くわかったね。」

和が感心したように智を見る。

「あたぼーよ。今、饅頭といやぁ、鶴屋。」

智は饅頭に齧り付く。

「あ~、あんこがいいねぇ。」

旨そうに目を細める智を見て、和は考えるように茶を啜る。

「じゃ、団子と言えば?」

「兎屋だろ?あそこのおみっちゃんはべっぴんだしねぇ。」

「蕎麦は?」

「蕎麦は神田の亀屋だろ?あそこの蕎麦は絶品!」

雅紀が指を立てて、にこっと笑う。

「今度食べに行こうよ。」

和は嬉しそうにうなずいて、湯呑をお盆の上に置く。

「ちょっと……いい考えが浮かんだから、帰るわ。」

「え?和?」

雅紀が驚いて、立ち上がった和を見上げる。

「近い内にまた来るから。」

和は、雅紀に笑いかけると、智に会釈して足早に去って行く。

「ちょ、ちょっと、和!」

和の背に向かって声をかけても、和の姿はもうすでにない。

雅紀は智と見合って、首を傾げる。

「どうしたんだろうね?和は。」

「さぁ……。」

智も首を捻る。

「ところで……侑李の件、何かわかったかい?」

食べかけの饅頭を口に頬張って、雅紀を見る。

「ん~、周りの子に聞いてみたけど……。

 侑李に特に変わった様子はなかったって。

 踊りが色っぽくなって、艶が増したって言うから、

 よっぽどお稽古してたんだろうね。

 踊りたいよね……侑李。」

雅紀の目が潤む。

「ご贔屓のお侍さんは?」

「最近は来てないみたい。侑李がいないからね。」

雅紀は茶を啜って、上目遣いで智を見る。

「そういや……あのお侍さんも、来る時は決まって兎屋のみたらしをぶら下げてたね。」

「兎屋の?」

「うん。侑李が好きだったから……。」

雅紀の目が、どこにいるかもわからない侑李を追う。

「じゃ、ちょっくら明日の帰りにでも兎屋に寄って来るか。」

「そうだね。何かわかるかもしれないよね。」

智はにこっと笑って雅紀の肩を叩く。

「心配するな。侑李は戻ってくるから。」

「うん……。」

「でないと、おいらが困る。

 本当に舞台に立つかと思うとぞっとする。」

智が大げさに身震いして見せると、雅紀にも笑顔が広がる。

「見てみたいけどね。智の晴れ舞台。」

「よせやっ。」

智の頬がむっと膨れると、雅紀がひゃっひゃと笑う。

「てぇへんなんだぞ?潤は扱くわ、振りの先生は偉そうだわ!」

「じゃ、早く見つけないとね。」

二人が笑っていると、「ごめんよ」と櫻井がやってきた。










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