miyabi-night(5人)

miyabi-night 四話 - japonesque side story -

 ←miyabi-night 三話 - japonesque side story - →ふたりのカタチ (92)

潤がじっと雅紀の顔を見つめる。

「誰かに軟禁されてるなんてこと……。」

二人はじっと顔を見合わせる。

「まさかね……。」

潤も引きつった笑いを浮かべ、両手で自分の膝を撫でる。

「ありえなくはねぇが……。」

「あの子は踊りが本当に好きそうだったから……。

 でもまさかね……。」

雅紀は「まさか」を繰り返し、顎に指を当て考える。

「それらしい客に心当たりはあるのかい?」

「……一人……、とても熱心な客がいたんだけど……。」

「客?」

「お侍さんらしい風情で……。

 でも、いつも頭巾をかぶってるから、顔は見たことないんだよ……。

 茶屋の女将は知ってるかもしれないけど、口が堅いからね。」

「茶屋の女将か……。」

そこへ、暖簾に手を添え、三尺を揺らして智が入って来る。

青地に赤い牡丹の振袖は、綺麗な顔に良く映える。

「けぇったよ。」

智がにっこり笑って入って来ると、すぐに潤に気づく。

「あれ、来てたのかい?」

「ああ、上がらせてもらってるよ。」

潤も軽く視線で答える。

「昼間っからとは珍しい。どれ、また描いてもらおうって寸法かい?」

智はふにゃりと笑って、雅紀の脇を通り、小上がりに上がって行く。

「いやいや、今回はちょっと困ったことがあってねぇ。」

潤は腕を組んで智を見やる。

「困ったこと?」

智は潤がいるにもかかわらず、後ろを向いて振袖を解いていく。

肩から、赤い牡丹が落ちる姿は艶めかしい。

潤が息を飲んで見惚れていると、脱ぎながら智が聞く。

「何かあったのかい?」

「ああ、相手役がいなくなって困ってるんだ。」

「相手役?」

智は振袖を落とすと、いつものくたびれた縞の小袖に袖を通す。

「道成寺をやろうと思っててね。」

「道成寺が……。成田屋の安珍じゃ、女客が大喜びだ。」

手早く帯を巻く智を、潤が意味深に見つめる。

「いや、そのままってわけでもないんだが……。」

「すぐに相手役は見つかるだろ?なんせ、天下の成田屋だ。」

「それがそうもいかなくてね……。」

「どうした?珍しく弱気じゃないか。」

智は、帯を少しずらして振り返る。

じっと見ていた潤に気づき、びっくりしたように目を瞠る。

「なんだい。そんな目で見て。おいらにその気はねぇからな。」

笑いながらそう言うと、潤も笑いながら返す。

「口説いてみたくなる、いい尻だねぇ。」

「おいらの体はたけぇよ?」

「……いくらならいい?」

潤が真面目な顔で聞く。

「そうだな……千両じゃきかねぇかな?」

智は笑いながら、小上がりの上で胡坐を掻く。

「千両か……ちと高いな。」

潤もやっと笑って、袖から紙に包まれた金を出す。

「これでどうだろう。お前さんの時間を俺に売ってくんねぇか?」

包みを開いた智が目を丸くすると、覗き込む雅紀も、目を見開く。

「いったいこれはどういう了見だい?」

「どうもねぇよ。お前さんの時間を買いたいって、言ってる通りだよ。」

智が訝しそうに潤を見つめる。

「踊ったことがあるだろう?」

「……ねぇよ。」

ぶっきら棒に答える智に、潤が声を上げて笑う。

「嘘はいけねぇな。俺に嘘が通ると思ってるのかい?」

「本当に……やったことはねぇんだよ。」

笑う智の目は笑っておらず、その視線と潤の視線がぶつかる。

「……立ち方、歩き方、物の取り方、仕草……。

 どれを取っても隙がない。やったことあるだろ?」

「おもしろいねぇ。隙がないとどうして舞ったことがあると思うんだい?

 隙がないなら……武術だとは思わないのかい?」

智が少し首を傾げて見せる。

潤もじっと智を見つめ、小さく首を振る。

「いや、あるはずだ。」

頑として譲らない。

智は困ったように雅紀を見ると、雅紀も肩を竦めて智を見返す。

「すまねぇな。残念だが、本当にやったこたぁねぇんだよ。」

そう言って、先ほど渡された金を畳みの上に置く。

潤も考えて、仕方なくそれを受け取ろうとするが、ふと思い留まり、それを智に差し出す。

「成田屋……。」

智が不思議そうに見上げると、潤が、思い切ったように言う。

「やったことがねぇなら、今から覚えればいい。

 お前さんならできるだろ?」

「何言って……。」

「雅紀の身請け代もあることだし、この額は破格じゃないかな?」

潤は、いいことを思いついたと、にっと笑う。

「いや、待て、そんなに簡単に……。」

「簡単じゃねぇさ。さ、今からお稽古だよ。」

潤は立ち上がると、智の腕を掴む。

「ちょ、ちょっと待て……。」

「待ってる時間がもったいない。後一か月で幕が開いてしまうからね。」

智の腕を引いて、急げと促す。

「悪い、ちょっと借りるよ。」

潤は鍋でも借りるような調子でそう言うと、智を引いて出て行った。

「……まさか、本当に踊らせるの?」

一人残された雅紀は、二人の後ろ姿を見送って、小さくつぶやく。

「いけない、まだ途中だった!」

雅紀は小上がりに上がって、また本を直し始めた。










関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【miyabi-night 三話 - japonesque side story -】へ  【ふたりのカタチ (92)】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【miyabi-night 三話 - japonesque side story -】へ
  • 【ふたりのカタチ (92)】へ