miyabi-night(5人)

miyabi-night 三話 - japonesque side story -

 ←ふたりのカタチ (91) →miyabi-night 四話 - japonesque side story -
「さ、智殿……。」

「ん?」

智はその指先で、櫻井のしっとりした肌を味わう。

首筋から肩、鎖骨の順に線を描く。

それがこそばゆい櫻井は、話しかけて、智の意識を逸らそうとする。

「暁の方は……。」

「ああ、描いてるのがある。」

櫻井の胸元の筋肉を撫でると、櫻井の体がびくっと震える。

「気を付けてくだされ……。……新しいお奉行は厳しい方だと聞いている。

 智殿もくれぐれも……あっ。」

「翔さんがそうやっていい顔するのに、描くなって?

 無性に描きたいおいらを……翔さんがなんとかしてくれるのかい?」

智は櫻井の脇腹から臍に向かって手の平を這わせる。

「ぁんっ……それは……。」

櫻井は智の手を跳ね除けることもできず、ぎゅっと目をつぶるようにして、

恥ずかしさとくすぐったさを我慢する。

「ははは。そんな顔するな。」

智の細い指先が、櫻井の鼻をぴんと弾く。

「智殿っ。」

智は笑って櫻井の隣に寝返りを打つ。

「で、新しい奉行は厳しいって?」

櫻井は自分が子供のような扱いを受け、腹立たしいのにこそばゆい。

「そ、そうらしい……。厳しく質素倹約を掲げていらっしゃる。

 そんな時に春画が横行してるとなると……。」

「睨まれるわなぁ?」

「だから……。」

櫻井は腹に置かれた智の手を握り締める。

「くれぐれも気を付けて……。」

智は軽く笑って、櫻井の頬を撫でる。

「わかった。でも……早く雅紀を……開放してやりたい。」

「…………。」

それは櫻井にもわかっている。

和と雅紀をなんとかしてやりたいが……。

櫻井は智を見上げる。

何にしろ、智を危ない目に合わせたくはない。

「できるだけ、無茶はしないと約束して欲しい。」

「ああ、大丈夫。無茶はしねぇ。」

智は、櫻井の右手の小指を自分の小指で掬い上げる。

「約束だ。」

小指と小指を絡め、ふにゃりと笑う智に、櫻井の不安も少し和らいだ。



雅紀は器用に紐を解いて行く。

「あ……あぁ、こいつはもう無理かなぁ。」

本をひっくり返し、裏から穴を覗いてみる

「いや、まだいける。」

そっと敗れた個所を開いて、破れた一枚を取り除くと、新しい紙を重ねる。

千枚通しをすっと刺したところで暖簾が翻り、さわやかな風が流れてくる。

「ごめんよ。」

雅紀が顔を上げ、見ると、彫りの深い顔立ちが眉間に皺を寄せ、

両腕を袖に入れて入って来る。

「あれ、潤さん、こんな時間とは珍しい。どうしたんだい?」

小上がりから声を掛け、直しかけの本を置いて、土間に降りる。

「いやぁね、ちょっと気持ちが萎えて仕方ねぇから、暁でも見ようかと思ってね。」

潤は片眉をちろっと上げる。

「新作はないのかい?」

「新作はないけど……。」

雅紀はにっこり笑って、奥に向かう。

「今日は智はいねぇのかい?」

少し声を張ってそう言うと、雅紀が奥から声だけで答える。

「今時分は町を回ってるよ。もうそろそろ帰って来ると思うけど。」

ガタガタと音がして、ドサッと何かが落ちる。

「でぇじょうぶかい?」

潤が心配そうに小上がりに膝を付く。

「あ、あ~、大丈夫大丈夫。いつものことだから。」

雅紀はパンパンと本を叩きながらやって来る。

潤の前に丁寧に正座すると、本の表紙をすっと撫でる。

「んごっ、ごほっ。」

埃にむせ、顔をしかめながら、手にした本を差し出す。

「潤さん、最近のは読んでるよね?これはちょっと前のだから、いいんじゃない?」

潤はそれを受け取り、真ん中辺りをぺらっと捲る。

豊満な女が、半裸に男を纏わりつかせている。

その顔は、欲に酔って恍惚とし、淫らな指が柔らかく男を掴む。

「ほっほぉ。」

潤が楽しそうに奇声を上げる。

「それで少しでも気が紛れればいいけど……。」

「ありがとよ。」

潤は本を顔の前に翳して礼を言う。

だが眉間の皺はなくならず、渋い顔のまま、雅紀の隣に腰かける。

「何かあったんですかい?」

雅紀は襟に巻いた頭巾を直す。

「あぁ、今度やる舞台……道成寺をやりたいと思ってるんだが……。」

「道成寺って、あの能の?」

「そうそう。よく知ってるね。」

潤が関心したように笑う。

さすが歌舞伎の二枚目。

笑うだけで雅紀の頬が仄かに染まる。

「良く踊れる女形がいてね……。」

「それはおもしろそう。満員御礼間違いなし!」

雅紀は笑って潤を見つめる。

だが、その眉間の皺は深さを増す。

「でも……喜んでる顔じゃぁないね?」

「わかるかい?その女形……侑李がいなくなっちまったんだ。」

潤は、ふぅと息をついて、腕を組み直した。

「いなくなったって……、逃げ出したってことかい?」

雅紀も驚いて半身を潤に向け、体を乗り出す。

「そうかもしれねぇし、何かあったのかもしれねぇし……。」

「潤さん……。」

潤は首を横に振り、またふぅと溜め息をつく。

「あいつの初の大舞台だ。喜んでいたのは確かだが……。

 その分、根を詰めていたのも本当で……。」

「侑李……いい子だよね。茶屋で会ったことがあるよ。

 面倒な相手でも、頑張って相手してて……。

 踊りが大好きって言ってたのに……。」

「帰ってきてくれればいいが……。」

潤の顔は本当に心配そうで、侑李を可愛がっていたのがよくわかる。

「あの子は器量よしだから……。」

雅紀の胸に恐ろし気な考えが浮かび上がる。

「まさか……。」










関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png Love so sweet
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png MONSTER(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【ふたりのカタチ (91)】へ  【miyabi-night 四話 - japonesque side story -】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【ふたりのカタチ (91)】へ
  • 【miyabi-night 四話 - japonesque side story -】へ