miyabi-night(5人)

miyabi-night 一話 - japonesque side story -

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「和~、聞いておくれよ。」

薬問屋のれい子お嬢さんが、丁稚(でっち)の和に泣きついてくる。

「どうしたんですかい?」

和は廊下を拭きながら、顔も上げない。

丁稚の分際で、と腹正しく思ってみたところで、しゃべりたい女心がにわかに勝つ。

お嬢さんは、掃除を続ける和の隣に膝を付き、雑巾を握る丸い手に向かって話を続ける。

「小間物屋ののりちゃん、あんたも知ってるだろ?」

「ああ、結構なぺっぴんさんで、もうすぐ祝言を上げるって言う……。」

「そうそう、そののりちゃん。」

「のりちゃんがどうかしたんですかい?」

和はなかなか取れない汚れに、イライラしながらごしごし廊下を擦る。

「それがね、祝言が破談になりそうだって、しくしく泣くのよ。」

「祝言が?なんでまた?のりちゃんといやぁ、この辺でも評判の器量よしだ。

 向こうから断られることなんかねぇんじゃねぇですか?」

「それ、あたしに対する嫌みかい?」

ぎろっと和を睨む。

お嬢さんは最近、許嫁からお断りを頂いたばかりだ。

「そりゃ、お嬢さん、考えすぎってもんですよ。」

和はやっと顔を上げて、にこっと笑う。

「ほんと、あんたは顔だけはいいねぇ。口さえなけりゃあね。」

「よく言われるんですよ~。」

和は全然、残念そうでもなく、また床を拭いていく。

「で、どうして祝言が?」

お嬢さんは、おっ、と口を縦に開いて、キョロキョロと辺りを見回す。

「それがね……。」

和の耳に手を当て、ひそひそ話す。

「……店を畳むらしいんだよ。」

お嬢さんはもったいぶった様子で声を殺す。

「店を?」

和はそれでも顔を上げず、廊下の汚れを拭き続ける。

「どうやら、新しくできたお店が……、ほら、西の方から来た新しいお店、

 評判になってるだろ?」

「ああ、堺屋ですかい?」

「そうそう、それそれ。そこがどんどん客を取ってっちゃうもんだから、

 のりちゃんちみたいな小さい所は、てんで相手にならないらしくて……。」

「まぁ、そりゃそうでしょうねぇ。」

和はやっと取れた汚れに、ふっと息を吹きかける。

「店を畳んで田舎にでも引きこもろうかって話になってるらしくって。」

「そりゃまた安直な……。」

「あそこんちも婿養子もらう予定だっただろ?

 店畳むんなら、婿養子も必要ないってことになって……。」

「そいつぁ、相手もお気の毒に……。」

和は、全く心の籠らない「お気の毒」を口にしながら、徐々に廊下の端に向かう。

「祝言上げても江戸っ子が田舎暮らしはできまいって、おじさんが……。」

「まぁ、そうでしょうねぇ。田舎にゃ歌舞伎も春画もないですからねぇ。

 お嬢さんなら、一日と持ちゃしませんよ。」

「あたしのことはいいんだよ!」

お嬢さんが、すこんと和の頭を叩(はた)く。

「でもね、のりちゃんは好いた相手だったもんだから、悲しくて悲しくて。」

「はぁ。」

和は廊下の端まで拭き終わると、拭いて来た廊下を見やって、

拭き残しがないか確認する。

全く興味なさそうな和の態度にしびれを切らして、お嬢さんが怒鳴る。

「和!あんたには女心ってもんがわかんないのかい!」

「わかんないのかって……私は女じゃねぇですからねぇ。」

「のりちゃんの気持ちになってごらん?

 好いた相手とやっと祝言上げられるって時に、突然破談だよ?

 よよと泣き崩れるのりちゃんを、可哀想だとは思わないのかい?」

「そりゃ、可哀想だとは思いますよ?でも、私に何ができるんです?

 ただの丁稚ですよ?毎日鬼のようにこき使われてる……。」

「なんとかなんないもんかねぇ。」

面白そうに話していたお嬢さんも、最後は、本当に可哀想だと眉を下げる。

「私だって、何とかできるもんならしてやりだいですけど……。」

和は立ち上がって、店の方に向かう。

「うちだって、いつのりちゃんちの二の舞になるか、わかったもんじゃない。」

お嬢さんの言葉に、和は店に向かう足を戻し、お嬢さんに向き直る。

怪訝そうに見るお嬢さんの手を両手で握り締めると、じっと顔を見つめる。

「お嬢さんが話を聞いてあげるだけでも、

 のりちゃんの気持ちが和らぐんじゃねぇですかねぇ。

 噂話好きのお嬢さんなら、いくらだって聞いてあげられるでしょうから、

 ここはぐっとその特技をいかして……。」

和が、にっと笑う。

「そうかねぇ。」

「そうですとも。それはお嬢さんにしかできねぇことです。」

「和……。」

お嬢さんも和の手を両手で握り締める。

「噂話好きは余計だよ。」

お嬢さんは和の手をぎゅっと捻る。

「うわぁっ。」

和がひっくり返りそうになった所に、女将さんがやってくる。

「あらあら、仲のいいこと。どうだい、和。

 番頭になったら、れい子と一緒になって、この店継いでくれるかい?」

「いくら女将さんの頼みでも。」

「いくら母様のお願いでも。」

「「お断りします!」」

手を握り合ったまま、れい子と和が同時に叫んだ。










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