「短編」
冬の歌(やま)

Dear Snow Ⅱ

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キミに背を向けて、歩き出した。

振り返って、

キミに向かって走り出したい衝動を押し殺して、

ゆっくりと歩いた。

雪はただ静かに降って、おいらの震える肩を隠してくれた。

もうすぐ春になろうとしているのに、

降りしきる雪は、おいらの心を温かくはしてくれない。

キミのいないこれからの日々。

おいらは一人で歩いていかなきゃいけない。



「大野~!これ、やれる?」

先輩が後ろから発注用紙を回してくる。

そんなに時間のかかりそうなやつじゃない。

「これ、終わってからならできるかも?」

「いい、いい。それ、どれくらいかかる?」

「ん~、今日中はかかりそう。」

「じゃ、それ終わったら、これ、よろしく頼むわ。」

先輩は発注用紙をおいらの机に置くと、さっさと席に戻って行く。

おいらも自分の仕事に戻る。

美大を卒業して、イラストレーターとして広告制作会社に入った。

一人で暮らしていくには十分もらってる。

でも、その分、忙しい。

忙しくって、余計なことを考えないですむ。

「あ~っ!雪!外、雪降って来た~!」

アシスタントの女の子の声で、一斉にみんな窓の外を見る。

明るい陽射しの中、舞う雪は櫻のように見える。

「大寒波が来てるんだって。」

事務所の中で飛び交う声。

「じゃ、このまま雪?積もる?」

いつの間にか降り出した雪は、儚くて、とても積もりそうには見えない。

「今日、雪降るかもって、天気予報で言ってたよ。」

こんなに青空、広がってるのに?

「あ~、4時納品のがあるんだよなぁ。積もるかなぁ?」

おいらは思い出して、声に出す。

「すぐ行った方がいいんじゃない?積もりそうですよ?」

女の子が心配そうにおいらを見る。

ほんとに積もる?

「積もるかなぁ。でも、ちょっと行ってきます。」

おいらは色校を持って立ちあがると、ハンガーに掛けてあった上着を羽織る。

「早く帰って来いよ~。雪で電車、止まるかもしれないから。」

先輩が笑っておいらに手を振る。

「本当にそんなに降るのかなぁ?」

「万が一、積もったら困るだろ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんとさっきの仕事はやるから!」

先輩が声を立てて笑う。

「じゃ、早く行ってこい。」

おいらも笑って入口のドアを開ける。

「行ってきま~す。」

おいらは外に出て、雪の舞う空を見上げる。

雪は風に乗るように真横に降ったり、舞い上がったり。

おいらの体を包むように通り過ぎて行く。

手の平を広げると、滑るようになぞって、淡く消えて行く。

そして、肩に留まるいくらかの……。

あの日の、キミとの最後の日のように。

大学で4年。

仕事始めてから……4年?

5年目か。

キミと会わなくても、声を聞かなくても、なんとかやっていけてる。

数年前、風の便りにキミが結婚するって聞いた。

キミはちゃんと幸せな人生を歩んでる。

あの時、振り向かなかったのは正解だった。

キミが幸せなら、おいらはそれで満足。

キミの笑顔を思い出しては、苦しくなった胸も、だんだん穏やかになっていく。

8年かけてこれなら、後5年もすればキミを忘れられるかな?

ふふふ。この分じゃ、おいらは結婚、できそうにないね。

明るい陽射しの中、早足で歩く。

早く行かないと……。

本当に積もったら大変!

色校を肩にかけ、真っ直ぐ駅に向かった。



少し早かったけど、お客さんに無事渡せて、その場で見てもらえた。

これで、今日のを描き終えれば、先輩の仕事にかかれる。

お客さんのオフィスから出ると、舞っていた雪は跡形もなくて。

ただ、青かった空がグレーの雲に覆われていて。

「本格的に降りそう……。」

声に出して言い、コートの襟を引っ張る。

大寒波は本当らしい。

寒くて、手がかじかむ。

急いで帰らないと……、

できるだけ早足で歩いて、駅に向かう。

雪が降るんじゃないかと、空を気にしながら歩いていたら、

少し坂になっていたせいか、勢いもついて、ドシンとすれ違う人とぶつかった。

「すいません……。」

肩に掛けた、空のケースが落ちる。

ケースを掴んで、そのまま通り過ぎる。

「こちらこそ、よそ見してて申し訳…な……。」

ぶつかったその人は、続きの言葉を飲み込んだ。

おいらも振り返ってその人を見る。

息を飲む。

心拍数が上がる。

何も考えられなくなる……。

この8年、忘れられなかった、キミの顔がそこにあった。

「智……。」

キミの唇が、おいらの名を呼ぶ。

懐かしい声。

懐かしい……。

「翔…君……。」

キミの驚いた顔が、徐々に笑顔になっていく。

「智……。」

見つめ合ったまま、何も言えないおいらの中に、キミの笑顔が満ちて行く。

永遠にかなわない、それでも愛しい笑顔……。

「元気そうでよかった。」

キミの笑顔が眩しくて、おいらはそっと目を細める。

「翔君も……。」

「いつ帰ってきたの?」

「……4年前かな?大学卒業して……。」

すると、冷たい物が頬に当たる。

「あ……。」

おいらが見上げると、釣られるようにキミも空を見上げる。

空に舞い散る白い花びら。

「降って来たね……。」

「ほんとだ……。」

二人で空を見上げ、おいらはあの日のことを思い出す。

「最後の日が雪だったから、再会も雪なんて、素敵な演出だね。」

キミも同じことを考えていて、ドキッとする。

キミは笑っておいらの肩に両手をかける。

「え?」

おいらはびっくりして、キミと目が合わせられない。

「次に会えたら……絶対言おうと決めてたことがあるんだ……。」

そう言って、キミはおいらをその腕で抱きしめた。

キミの温もりで、凍えた心が解かされていく。

「俺ね……。」

キミの言葉を聞きながら、キミの肩に積もる雪を見つめる。

触れたら消えてしまう雪が、キミの肩を白くする。

触れても消えないキミの腕の中で、全てが白く……微笑んだ。










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