「Love so sweet」
Love so sweet(やま)【61~ 】

君は少しも悪くない 上

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翔が帰宅したのは日付が変わった頃だった。

ゆっくりとドアを開ける。

廊下に明かりは点いていない。

大丈夫。まだ智君は帰ってない。

そう思い、安堵の息を漏らす。

深夜のマンションだ。

ドアをゆっくりと締め、できるだけ音を殺す。

後ろ手でロックを掛け、靴を揃えてリビングに向かう。

入口脇のスイッチで明かりを点け、ネクタイを緩めながら冷蔵庫を開けると、

中には、ミネラルウォーターとビール、数種のお惣菜。

惣菜の一つを取り出し、賞味期限を確かめる。

「ん……まだいけるな。」

その惣菜とビールを一缶、洗い籠の箸を掴み、テレビ前のソファーへ急ぐ。

特に急ぐ必要があるわけではない。

ただ、いつ現れるともわからない恋人の登場に備える為、

できることは早めに済ませたいだけだ。

「…………翔君……。」

翔がソファーに腰かけた途端、空耳かと思うほど微かに聞こえる愛しい人の声。

「…………智……君……?」

翔はキョロキョロと辺りを見回す。

リビング、ダイニング、キッチン……。

目に入る場所に智の姿は見えない。

気のせいかと、持ってきたビールのプルタブを引く。

プシュッと炭酸の音がして、そのまま、喉の奥へ流し込む。

「…………翔君……。」

また聞こえる声。

翔は、声は聞こえど姿は見えぬ恋人の微かな自己主張に、

もう一度ゆっくり部屋の中を見渡す。

リビングの、少なくとも半分、テレビまでの間に智はいない。

テレビから先の半分、智のアトリエや翔の書斎に続く方へ目を向ける。

一瞬、ギクッとする。

どんよりと重たい空気を纏って、愛しい恋人は膝を抱えてソファーの影に隠れている。

この重たい空気はどうしたわけか……。

「さ、智君……?」

気付かれた智は、ゆっくりと顔を上げる。

「なんて顔してるの……。」

智は少し首を傾げて翔を見上げる。

「……どんな顔してる……?」

翔はソファーから立ち上がると、智の前に屈み、智の頬に手を当てる。

引きつって硬直した顔。

何時間もそうしていたようで、智はすぐに立ち上がれない。

「智君……何があったの?」

「何が……?」

智の硬直した顔が歪む。

どんよりした空気が、メラッと揺れるのを感じ、翔はピクリと体を揺らす。

「さ、智君……。」

「おいらが何で落ち込んでるか、わかんねぇの?」

いつもこんなしゃべり方をする智ではない。

智は何かに怒っている。

怒って、そんな自分に落ち込んでいる。

そこまで理解し、翔はここ数日の自分の行動を振り返る。

毎日仕事しかしていない。

飲みに行った記憶もないし、恋人を些末に扱った覚えもない。

「ごめん智君……。俺、全然わかんないや。」

翔が素直にそう言うと、智はさらにムッとして、ヨロヨロと立ち上がる。

ずっと同じ体勢でいたせいで、智の足が痺れて動きがぎこちない。

「さ、智君っ!」

翔は部屋に籠ろうとする智の腕を掴む。

「待って。理由を教えて。俺が原因なんでしょ?」

翔は真っ直ぐ智を見つめる。

智は腕を振って翔の手を払うと、眉をピクッと上げて翔を睨みつける。

「なんでわかんねぇんだよ!」

以外なほどに智は怒っている。

近年、智がこれほど怒ったのを翔は見たことがない。

元来、穏やかな人柄の智がこうまで怒るとは、よっぽど翔がヘマをしたに違いない。

「ごめん、本当にごめん。俺、何しちゃった?」

すまなそうに眉尻を下げる翔に、智の怒りがグラつく。

「しょ、翔君が悪いわけじゃねぇよ。わかってるよ!」

そう言い捨て、アトリエに入ろうとする智の肩を、翔はもう一度掴み、振り向かせる。

「智君……本当にごめん。

 でも、俺の愛しい人が、何に怒ってるのかわからないままでなんていられないよ。

 何に怒ってるの?」

翔は静かにそう問いかけ、困ったように智を見つめる。

智も真っ直ぐ翔を見返し、一瞬、逡巡すると、ブツブツとつぶやくように答える。

「おいらの……我が儘だよ。……翔君は忘れていいから……。」

智は振り返って、部屋のノブに手を掛ける。

翔は掴んだ肩をグイッと引き寄せ、智の両肩に両手を掛ける。

「そんなわけにいかないでしょ?教えて……。」

ゆっくりと、落ち着いたトーンで話し、

先ほどとは違い、真正面から真っ直ぐに智を見つめる。

翔は知っている。

智がこのトーンの翔の声を無視できないこと、

翔の正面からの顔をとても気に入っていること……。

効果は多少あったようで、智はうつむき加減で口を尖らせながらも、

ポツリポツリと口を開く。

「だって……翔君さ……。」

「……俺が……何?」

智はチラッと翔を見上げる。

「…………だと……。」

「ん?」

より小さくなる声に、翔が顔を近づける。

近づいた顔にドキリとし、智は少しだけ声を大きくする。

「……岡田と……。」

「岡田君?」

「ん……。」

智は唸るようにそう言って、顔を背ける。

翔は脳内のアルバムをペラペラと捲っていく。

翔と岡田が一緒になった仕事はここ数日いくつかある。

その中のいくつかに、赤いランプが点滅する。

確かに、最近スキンシップ多いか……。

「……何?もしかして……妬いてる?」

翔がそう言うと、智の頬がプゥッと膨れる。










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