「短編」
短編(いろいろ)
kagero 中
2016.10.29 *Edit
1階の自販機にコーンポタージュが入った。
今年は去年より早い。
それを3本買って、腕で抱える。
熱くて……手じゃ持てない。
後輩の女子たちが通りかかって、クスクス笑う。
「先輩、そんなに飲むんですか~?」
「いや……蓮が好きだからさ。」
俺がそう言うと、後輩たちが顔を見合わせて笑う。
「先輩、健気~。」
健気?
俺のこと?
俺が首を傾げると、後輩たちは笑いながら廊下を走る。
揺れるスカートが、さらに俺を笑ってる。
……いいよ。別に。
笑われたって、蓮が喜んでくれるなら。
コンポタを抱えて3階へ急ぐ。
猫舌の蓮はすぐには飲めないけど、
熱いのをフゥフゥしながら飲む蓮が好きで、
早く見たくて、階段を駆け上がる。
「修司君!」
階段で朱里と出くわして、しまったと思う。
「今日は帰れる?」
「……うん。」
昨日断っちゃったからな……仕方ない。
「じゃ、帰り、修司君のとこ行くね。」
「……わかった。」
朱里は嬉しそうに両手を口に当てて笑う。
長すぎるカーディガンの袖が、手を半分隠して、
秋もだいぶ深まったことを教えてくれる。
「じゃ、後でね。」
スカートを翻して、朱里が下りて行く。
付き合って2ヶ月。
俺のことを大事にしてくれる。
俺の友達も大事にしてくれる。
朱里の背中を見送って、また階段を上り始める。
早くしないと、コンポタが冷めちゃう。
窓の外の少し曇った空が、なんとなく俺の心をざわつかせる。
小さく息を吐いて、階段を駆け上がる。
腕の中の缶が揺れて、コトッと小さな音がした。
教室で、蓮が机の上に写真を並べていた。
この間撮った、俺の写真。
蓮が撮ると、俺のイケメン度が2割増し。
実際の俺は大したことないんだけど、蓮が撮るとイケメンになる。
不思議。
もちろん、クラスの中ではカッコいい方だと思うけど。
「あ~、この写真、すげぇいい。」
一樹が一枚の写真を撮ってつぶやく。
俺が寒そうに体を丸くして笑ってる写真。
「イケメン度が5割増し。」
洋介も俺と見比べ、ニヤリと笑う。
「なんだよ、それが本当の俺なの!」
「でもさ……。」
一樹が他の写真を見ながら言う。
「蓮、誰でもカッコよく映せるわけじゃないんだよな……。」
「ま、元がいいから?」
俺が顎に手を当て、ポーズを取ると、洋介がクスクス笑う。
「自分で言うか?」
一樹が蓮をじっと見る。
じっと見られた蓮が、一樹の手から俺の写真を取る。
それをボーっと見つめながら、ポツリと言う。
「……修司のこと、……撮ること多いから……。」
何を考えてるかわからない、蓮の表情。
「じゃ、今度、俺も撮ってよ。イケメンに!」
洋介が明るくそう言うと、一樹が、あははと声を上げて笑う。
「お前でイケメンになるなら、俺でもなんとかなるわ!」
「それ、ひどくない?俺とお前じゃ、大して変わんないから!」
「変わる!」
「変わんない!」
「申し訳ありませんが……。」
俺は二人の肩に手を掛けて、ポンポン叩く。
「蓮は俺、専属のカメラマンなんで……、誰のこともカッコよくは撮れません。」
二人の肩に掛けた手を、蓮の後ろから蓮の肩に掛ける。
「な?」
蓮の顔を覗き込むと、蓮が、ふふっと笑う。
「何?蓮!修司しか撮らないの?」
「蓮の独占、反対!」
「悪い、もう契約済みなんで。」
「そんなの、破棄破棄!」
「無効!蓮の独占は審議が必要!!」
二人はずっと騒いでいたけど、それより、
蓮の肩に置いた手を、どのタイミングで離したらいいのか……。
そればっかり気になってた俺。
蓮は笑いながら二人を見ていた。
俺の手なんか、まるで気にならない風に。
授業が終わって、俺が蓮の側に行こうとすると、朱里がやってきた。
「お待たせ。」
「お、おぅ。」
忘れてた。
今日は一緒に帰るんだった。
蓮も鞄を用意してる。
俺も鞄に筆箱をしまう。
蓮に合わせて、少しゆっくり。
鞄を肩に掛けた蓮が、俺らの前を通る。
「蓮も帰るの?」
「うん……。」
蓮はバツが悪そうに頬を掻く。
「俺らも……。」
俺は朱里をチラッと見る。
朱里はそっと俺の手を取った。
俺は蓮と並んで歩く。
少し遅れて、俺と手を繋いだ朱里が付いてくる。
ビミョーな空気の三人……にはならなくて、
俺と蓮はいつものように普通に話す。
それを朱里が少し後ろで聞いている。
朱里はそれで楽しいのかな?
そんな疑問も、蓮が隣で笑うから、
ちょっと蓋をして、胸の奥にしまってしまう。
ずるい俺。
最寄駅まではバス。
電車通学はみんなこのバスに乗る。
だから、行きと帰りのバスは激込み。
先に乗った朱里が二人掛けの席に座る。
その前の二人掛けに蓮が座る。
俺は迷わず蓮の隣に入って行く。
蓮も……何も言わず、携帯を取り出し、動画を見始める。
イヤホンを片方俺の耳に押し当てて、二人で頭をくっつけて携帯を見つめる。
バスが揺れると、蓮の柔らかい髪が俺の頬をくすぐる。
また、体温が上がる。
バスの中は暑いから。
体温が上がってもしょうがない。
自分に言い聞かせて、蓮と動画を見続ける。
この体勢を崩したくなくて、でも、蓮の表情も見たくて……。
蓮……、今、何考えてる?
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