「短編」
短編(いろいろ)
kagero 上
2016.10.29 *Edit
蓮(れん)が笑う。
ただそれだけ。
俺も笑い返す。
ただそれだけ。
でもそれだけで……。
俺の胸はキュッてなって、
1℃、体温が上がる。
上がった体温は、夏の名残りの太陽に掻き消される。
その程度の微熱。
誰にもわからない。
でも、微熱は続く。
微かに聞こえるサイレンのように。
「何?どうしたの?熱?」
同級生の一樹(かずき)が、心配する風でもなく、俺の隣にやってくる。
「どうして?」
俺が聞き返すと、
「さっきからずっと、こうやってるから。」
そう言って、額に手の甲を当てる。
「ああ、前髪がじゃまだっただけだよ。」
「イケメンは前髪の上げ方までカッコつける!」
一樹の後ろから、洋介(ようすけ)が丸い顔を、さらに膨らませて覗き込む。
「うるせぇ。俺の顔に文句があるなら、親に言ってくれ。」
「文句も出るわ。顔はいいわ、頭はいいわじゃ、俺ら、どうすればいいのよ。」
「どうもしなくていいから。」
「ははは。そう言えば、2組の高木、昨日駅前で……。」
いつもの休み時間。
同級生達のたわいもない会話。
その隙を縫って、窓際の一番後ろの席をチラッと見る。
蓮は一人でボーっと窓の外を見てる。
窓から入る風が、連の髪を撫でる。
柔らかい髪が、耳の辺りで少し揺れる。
くすぐったそうに、掻き上げる指……。
「……って、聞いてる?修司!」
一樹が少し目を細めて俺を見る。
「え?あぁ、聞いてるよ。で、高木がどうした?」
「その話は終わったから!」
間髪入れず、突っ込んでくる洋介。
「聞いてねぇじゃん!」
一樹も一緒になって笑う。
「ごめん、ごめん。」
俺も笑って、一樹を見ると、仕方ねぇなぁというように、
一樹がまた話し始めた。
「だから、すげぇいいんだって、新しいアルバム……。」
「へぇ……。」
相槌を打ちながら話を聞いて、またチラッと窓際に目をやる。
蓮はさっきと同じように窓の外を眺め……。
その隣には、寄り添うように千絵(ちえ)がいた。
授業が終わって、いつものように蓮の席に走る。
「蓮!今日、部活ある?」
「……ある。」
蓮の言葉はいつもぶっきら棒。
でも、それが照れ隠しだってわかってる。
「じゃ、俺も付き合う。一緒に帰ろ?」
「うん……、修司は?ないの?」
わずかに微笑んで、俺を見上げる。
「うん、ない。
……久しぶりに蓮の写真がみたい。」
はにかんだように笑って、蓮が立ち上がる。
170センチの俺と並んでも、蓮の背は低い。
鞄とカメラケースを肩に掛ける蓮の、背中に手を添える。
「千絵は?」
「先、帰るって。用事、あるみたい。」
「ふぅん。」
ちょっと気分が上がる。
今日は蓮を独占できる。
二人並んで写真部の部室に入ると、
「蓮先輩!こんにちは~。」
後輩たちが口々に挨拶する。
蓮はこの間、大きな賞を取ったばかり。
後輩たちの憧れの先輩……。
「修司先輩も一緒?」
面白くなさそうに口の端を上げる後輩の凛久(りく)。
凛久は特に蓮を慕って、部活に出ると、蓮から離れようとしない。
蓮も、ちょっとうざそうにしながらも、凛久を可愛がってるのがわかる。
「俺が一緒じゃ迷惑?」
ジロッと、睨みを利かす。
「そ、そんなことないけど……。」
凛久がチラッと蓮を見る。
「……今日、修司の写真、撮るから……。」
蓮は凛久を見ることもなく、自分のカメラをカメラケースから取り出す。
レンズを付け替え、カメラを構えて俺に向ける。
俺は蓮に向かってにっこり笑う。
その様子を見て、凛久が俺らから遠ざかる。
蓮が、ファインダー越しに俺を見る。
蓮のカメラは、俺を透かして、俺の中身まで映し出す。
だから……カメラを向けられただけでドキドキする。
どんな顔をしていいかわからなくて、頭を掻くと、蓮がクスッと笑う。
「……何、話してたの?」
「え?」
「休み時間……、一樹たちと……。」
「あぁ、2組の高木の話と……。」
蓮のカメラがカシャッと鳴る。
「……新しいアルバムの話……。」
「へぇ、……修司、聴いた?」
「いや、まだ。イイらしいから、帰りタワレコ寄りたい。」
「じゃ、早めに帰んないと……。」
蓮がシャッターを切る。
その綺麗な指の動きと、カメラを持つ手にドキドキする。
俺だけを映すカメラ……。
体温が……また1℃上がる。
そんなことに気づかない蓮は、カメラを下げて、俺の隣までやってくる。
「外、行こ。外で撮りたい。」
楽しそうに笑う蓮が、俺の腕を引っ張る。
写真のことになると、目を輝かせて、まるで子供みたいな蓮。
俺も笑って、引っ張られるまま、外に飛び出す。
「どこで撮るの?」
「……緑と空と……。」
「俺?」
「ふふふ。そう!」
「なんか、昔っぽいフレーズ!」
俺が声を上げて笑うと、後ろから声を掛けられる。
「修司君!」
二人で振り返ると、朱里(あかり)がにっこり笑って立っていた。
「今日、一緒に帰れる?」
「わりぃ。今日、ちょっと寄るとこある。」
「寄るとこ?」
「……それに、蓮の撮影、時間かかるかもしれないし。」
蓮を見ると、蓮が困ったように眉間に皺を寄せる。
蓮が気にすることないのに。
断ってるのは俺なんだから。
「そっか。……じゃ、また明日!」
朱里はわがまま言わず、帰っていく。
朱里の後ろ姿を見ながら、蓮がボソリと言う。
「……いいの?」
「いいの!早く撮りに行こ。」
今度は蓮の腕を俺が取る。
蓮は口をへの字にして、カメラを構えてパシャリと撮った。
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