「短編」
短編(いろいろ)

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「もう帰る?」

「うん……明日早いから。」

ベッドから上半身を起こして、服を探す智。

「泊まってこうよ。」

俺はそんな智の腕を引く。

もっと一緒にいたい。

もっと愛し合いたい……。

お金のない俺達は、安いラブホで愛を語る。

それでも十分、甘く愛は語れる。

「ね……泊まろう?」

「翔君……。」

俺はグッと腕を引いて、智の上にのしかかる。

「智だって……まだしたいでしょ?」

「しょ……。」

無理やり唇を奪 って、指先を腰の辺りに忍ばせれば、

智が抗えないことはわかってる。

愛し合ってるから……、愛してるから……。

「ぁんっ……。」

「智……好き……愛してる……。」

「あ…んっ……しょ……くっ……。」

俺はいくらだってやりたかった。

いつまでも智と一緒にいたかった。

智と離れてる時間がもどかしくて……。

会えば、いつでもこんな風に離れられなくなる。

若かった俺は、自分の気持ちに正直で……身勝手だった。

結局、そんな風にすれば、智は俺と一緒にいてくれて……。

でも、目に見えて疲れてくる智。

徐々に、連絡するのは俺からばかりになって……。

付き合い始めて1年が過ぎた頃、智から会いたいとメールがあった。

智からのメールなんて久しぶりだったのに、それにすら気づかない馬鹿な俺。

待ち合わせの場所、駅の改札に行くと、智が神妙な顔で立っている。

「智!」

声を掛けて、走り寄る。

にっこり笑って、すぐに 指 を 絡 めて歩きだす。

いつものラブホ はそこから15分位歩いたとこ。

人にどう見られようが構わない。

智に会えば、俺にとって、世界は二人だけしかいなかったから。

けど……。

智の指が、わずかに震えてることに、俺は全く気付かなかった。

いつものホテルで、智は今までになく乱れて……。

貪 るように俺を求めた。

嬉しくて……体力の限り、智に応えた。

俺達の関係が終わりを迎えるなんて、思ってもいなかった。

ことが終わって……。

裸 で寄り添う俺達。

智の左耳が、俺の肩にもたれて、そんな智を見て愛しさがこみ上げる。

肌の触れ合った感触 、温もり……。

そんなものが何より心地よくて、いつものように俺が言う。

「泊まってこう。」

智は俺を見上げず、答える。

「……いいよ。」

いつもは言ってくれない言葉に、びっくりして智を見る。

「いいの?」

「うん。明日はゆっくりだから。」

俺は智を抱きしめて唇に唇を当てる。

「ほんと?」

「うふふ。うん。」

嬉しくて、智の胸に顔を埋める。

「あはは。翔君!くすぐったい。」

「いいって言ってくれたの、初めてだから、嬉しくて。」

「こんなに喜んでくれるなら……もっと早く言ってあげたかったな。」

智は俺の髪を撫で、俺の背中に指を這わせる。

俺はそのまま智の体に むしゃぶりつく。

いつもと違う智……、それに、何の疑いも持たないで。



朝起きると、智は隣にいなかった。

先に帰っちゃったのか……そう思うだけで、特に気にすることもなく、学校に向かう。

智に、もう二度と会えないなんて思いもしないで。

しばらくして、メールすると、メールが届かなくなっていた。

電話をかけても繋がらない。

聞いてた会社に、取引先の振りして電話してみたら、

智は転勤で、関西の方に行ったと言う。

何も言ってくれなかった智。

衝撃が大きすぎて、当時の俺は一週間位、家から出られなかった。

突然いなくなったのは……俺と別れる為?

俺は遠距離でも、智と別れる気なんか全然なかったのに。

どうして何も言ってくれなかった?

俺と……別れたかった?

答えのない問いを、堂々巡りで繰り返す日々。

立ち直る気力もなかったけど、

徐々に、忙しさが智を一瞬でも忘れさせてくれることが分かって、

なんとか大学を卒業できた。

就職もして、ひたすら働いた。

忙しければ、智を思い出す時間もないから。

そうやって、忘れようと努力した。

努力して……時間だけが過ぎていった。



こんな風に空を見上げれば、何してるかな?って今の智を想像する。

あの頃一緒に聞いた曲が流れていたりすると、心がまた泳ぎ出す。

思い出を抜け出せない、いつまでも女々しい俺。

俺は空を見上げて溜め息をつく。

雨脚は少し弱まって、人々が少しずつ動き出す。

黒い人だかりだった駅の中も、さっきよりは少し減ったかな?

買ったばかりの傘を雨に向かって開く。

透明な傘を通すと、現実世界も思い出の中のよう。

傘を立てて、一歩踏み出す。

雨は傘をさせば歩けるくらいで、これなら、なんとか帰れるかな?

空はまだ黒々していて、また激しくなりそうな雲行き。

俺は足早に歩き出す。

智のことを思い出しながら。

誰か……智の隣にはいるのかな。

いるか。

智くらい魅力的なら……。

智が幸せなら……。

俺は傘を倒して空を仰ぐ。

雨粒が、顔に掛かって、すぐに傘を立てる。



もう一度、会いたいよ……。

もう一度、抱きしめて、

もう一度言いたい……。

俺の中でただ一人……。

ずっと、愛してる……。

智……。

君の明日を願うよ……。



あれから3年が過ぎた。

それでも忘れられない俺……。

今ならわかる。

大学生の俺は授業中、寝ててもなんとかなるけど、

仕事してる智はそうはいかない……。

責任感の強い智が、俺と仕事と板挟みで疲れて……。

転勤を教えてくれなかったのも、仕方なかったんだね。

あの頃の俺なら、一緒に行くって言い出しそうだし。

俺は一人でクスクス笑う。

ばかだな。

本当にばかだ……。

もう少し歩けば、商店街のアーケードに入れる。

そうすれば、濡れる心配もない……。

俺は急いでアーケードに入って行く。

智と雨宿りしたアーケード……。

傘を閉じると、水しぶきが飛び、隣からアッと声が聞こえる。

「すみません。かかりましたか?」

声のする方を振り返る。

「いえ、大丈夫です……。」

隣の人も傘から顔を上げる。

一瞬、時間が止まる。

お互いびっくりして、動けない。

本当に?本物?

「……会いたかった。」

あの頃と変わらない、ふにゃっとした顔が、微笑んだ。



君の明日が、幸せであることを……。




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