「短編」
短編(いろいろ)

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二人で近くの商店街を目指した。

アーケードの下なら雨に濡れずに済む。

なんとか辿り着き、雨宿りすると、ハンカチなんか持ってないから、

手で髪に付いた雨を払った。

「あはっ。結構濡れてる。」

「うん。降って来たね……。」

智はアーケードの下から空を見上げる。

「すぐ止むかなぁ。」

「止んでくれなきゃ困る。」

二人で顔を見合わせて笑う。

本当はもう少し、智といたかったから、止んで欲しいなんて思ってなかったけど。

「大学生?」

肩の雨を払いながら聞く。

智も笑いながら、袖の雨粒を払う。

「ふふふ。働いてるよ。」

「え?働いてるの?」

全然見えなかった。

服装も、ジーパンにシャツを羽織ったラフなもので、

智からは、社会人の雰囲気は1ミリもない。

「よく言われる。」

智がふにゃっと笑う。

「何してんの?」

「広告を作ってる。」

「エディター?」

「そんなカッコいい感じじゃないけど……。」

智が恥ずかしそうに笑う。

そのはにかんだ笑顔にズキッと、腰じゃなく、胸の辺りが痛む。

なんだ、これ?

「翔君は?」

聞かれてビクッとすると、智が不思議そうに首を傾げる。

「お、俺?俺は大学。3年。」

「大学生かぁ。見るからに頭良さそう。」

「そんなことないでしょ?」

本当にそんなことはなかったはず。

当時の俺は、ピアスに茶髪襟足長めで、どう見てもチャラい。

「良さそうだよ。しかもイケメン!」

智が俺の顔をまじまじと見つめる。

またズキッとして、顔を背ける。

「そんなに見たら、ハズい……。」

「ごめんごめん。」

智の鼻にかかった笑い声。

ダメだ……俺、打ち所悪かったのかな?

しばらくそっぽを向いたまま、胸の痛みと戦った。

痛みが治まるのを待って、智の方を向くと、ニコッと笑った智が、

俺に向かってノートの切れ端を差し出す。

「ん?」

首を傾げて受け取ると、そこには電話番号とアドレス。

「おいらの。翔君に何かあったら、連絡して。おいらにも責任あるから……。」

「だ、大丈夫だよ。俺は全然どこも……うっ。」

言い掛けて、智が俺の足を軽く叩く。

痛さで声が漏れる。

「ほら、大丈夫じゃないじゃん。」

「……ちょっとぶつかったから……。」

「何かあったら、絶対連絡して。

 あ~、治っても連絡欲しいかも。心配だから。」

智がふにゃっと笑う。

「あ、ちょっと止んできた~!」

俺も空を見上げる。

先ほどとは打って変わって雨脚は弱まってる。

空を見上げた智の顔が明るくなって、それと反比例するように、俺の心に影が差す。

「じゃ、おいら行くね。」

智がキョロキョロと辺りを見回し、走り出す。

「あ、待って……。」

智はトートバックを抱えるようにして、走ってく。

俺の声なんか、聞こえないみたいに。

俺は智の残した切れ端を握り締め、智が見えなくなるまで、見つめ続けた。



「お客さん、何買うの?」

その声にハッとして前を見ると、キヨスクのおばちゃんが、怪訝そうに俺を睨む。

忙しいのに、ボーっとすんな、そう思ってるのが、浮彫で……。

「あ、えっ……傘。」

俺の左に並べられてる傘を一本取って、おばちゃんに差し出す。

「すぐ使う?」

「うん。」

おばちゃんのぞんざいな物言いも、この忙しさなら仕方ない。

チラッと後ろを見ると、列は俺が並んだ時の倍以上で……。

おばちゃんにお金を払って、ビニールの外された傘を受け取る。

人込みを掻き分け、最前列に行くと、雨脚がさっきより強まってるのがよくわかる。

地面に打ち付ける雨が、跳ね返ってズボンの裾を汚す。

これじゃ、傘があってもダメか……?

まだしばらく雨宿りするか……。

俺は空を見上げて、弱まる素振りを見せない雨に、また、昔のことを思い出す。



俺は、悩んだ挙句、智にメールを打つ。

治ったら連絡してくれと言われたのが、俺の気持ちを後押しする。

業務連絡だ。

そう自分に言い聞かせ、無事治ったこと、もう痛くないことをメールにしたためる。

これで連絡がなかったら、もう智とはこれっきり……。

携帯を見つめて、溜め息が漏れる。

すると、すぐに智から返信が入る。

驚いて、携帯を落としそうになり、一人慌てて苦笑いする。

何やってんだ?俺!

逸る気持ちを抑えてメールを開くと、

安心したことと、おわびにご飯をご馳走すると書いてある。

ドキドキと心拍数の上がる心臓に、自分でもびっくりする。

これじゃ、初めて恋する乙女みたいじゃないか!

速攻で、俺がご馳走すること、日にちはいつがいいかと返信する。

それから、俺と智は、会ってご飯を食べたり、映画を観たりするようになった。

もちろん、友達として。

智に対する気持ちが、友達に対するものじゃないと気づくのに、

そう時間はかからなかったけど……。



知れば知るほど智を好きになってく俺。

初めて会った時に肩に下げていたトートバックが、少し薄汚れて、

二人の時間を感じさせるようになった頃、

俺は意を決して告白した。

嫌われてないのはわかってた。

けど、恋愛対象じゃない歯がゆさ……。

それに、どうやっても耐えきれなくなって……。

ダメでもいい。

ダメなら傷が浅い内に……。

そう思って告白したのに、智は予想外にゆっくりうなずく。

「まさか、翔君がそんな風に思ってくれると思わなかった。」

智が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに俺を見上げる。

「ほんとに……いいの?」

「……もちろん。……翔君こそいいの?」

「え?」

「おいらで……。男だし……。」

智も俺と同じように悩んでた。

それが嬉しくて、俺は答えず、抱きしめる。

「ひゃっ。……翔君?」

「智がいい……。智じゃなきゃ……いらない。」

「翔君……。」

智が、俺の背にそっと腕を回す。

「よろしくお願いします……。」

小さな声でそう言って、智が俺の肩に頬を寄せる。

「……はい。」

俺はそんな智をギュッと抱きしめる。

幸せ……これがそれなんだろうなと思った。

幸せを意識することなんて、今まで一度もなかったのに。










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