「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【21~40】
ふたりのカタチ (35)
2016.09.27 *Edit
ショウ君の匂いに包まれて、温もりの中で安心して……。
いつの間にか寝てしまったおいら。
気付いたら、ベッドに寝ていて……。
左右をゆっくりと確認する。
左を見ると、ショウ君の長い睫毛が、すぐそばにあって、
フッと息を吹きかけたら、睫毛がフワッと揺れる。
そんな距離に、思わずクスッと笑う。
首の下にはショウ君の腕。
ベッドの中でもショウ君に包まれてたおいら……。
寝息を立てるショウ君を見上げる。
類さんに会って泣いても、カズに話を聞いてもらっても、
消えなかった心の震え。
落ち着いたと思ってたのに、本当には落ち着いてなかったんだね。
自分でも気づかなかったくらいなのに。
ショウ君……。
すぐに電話に出たかったんだよ。
でも、声を聞いたら、来て欲しいって言っちゃいそうで……。
それはおいらの我が儘。
今、こんなに忙しいショウ君に、来て欲しいなんて言っちゃいけない……。
逃げられたんだもん。
ショウ君を呼んじゃいけない……。
グッと堪えたんだよ。
おいらはショウ君を抱き寄せてギュッと抱きしめる。
寝てるショウ君も、ギュッと抱きしめてくれたような気がする。
ショウ君……。
おいらは、ショウ君の胸に頬を押し付ける。
トクン、トクンと音が聞こえて、おいらはもう一度瞼を閉じた。
次の日。
いつもと変わらない朝。
でも、朝ご飯を食べながら新聞を読んでたショウ君がポツリと言う。
「今日は仕事休む。」
新聞から目を離さないショウ君。
「……どうして?」
おいらはショウ君のコーヒーを淹れながら聞く。
「……どうしても。」
ショウ君は新聞を折りたたんで脇に置く。
「忙しいんでしょ?」
「……でも休みたい。」
「ショウ君……。」
「……サトシの側から離れたくない。」
ショウ君がおいらを真っすぐに見る。
「……ダメだよ。仕事に行って。おいらも今日は打ち合わせがあるから。」
ショウ君の前にコーヒーを置く。
「……花沢さん?」
「……違うよ。今日は。」
おいらも自分のマグを持って、ショウ君の前に座る。
じっとショウ君を見つめるおいらを、下唇を噛んで見つめるショウ君。
「ショウ君……ほんとに仕事休むの?」
「……休む。」
「……できる?」
「できるさ。サトシの為なら。」
「ショウ君……。そんなの、おいらの為なんかじゃ……。」
目と目が合って、すぐに逸らされる視線。
「わかってるよ……。」
足を組み直し、また新聞を広げるショウ君。
ショウ君の前には朝ごはんのピザトーストとサラダ。
二口齧っただけで、忘れたみたいに手を付けない。
おいらの手に持っていたマグカップをテーブルに置いたら、
コトッと音が響いて、それがやけに寂しくて……。
「朝ごはん……食べたくない?」
おいらが聞くと、ショウ君はチラッと目の前を見る。
「今日は、あんまりお腹空いてない……。」
「もう少し……食べられない?」
「ん……ごめん。」
おいらは首の角度を変えて、ショウ君を覗き込んでみる。
ショウ君は、わかっているのに、視線を合わせてくれない。
「……うん、ショウ君にも、お腹の空いてない時だってあるよね……。」
おいらは手を伸ばして、ショウ君のピザトーストを取る。
「もったいないから、おいらの朝ご飯にするね……。」
おいらは一口齧ってみる。
まだ仄かに温かい。
もうチーズは伸びてくれないけど……。
ショウ君は、食べてるおいらをチラッと見て、また新聞に視線を戻す。
「美味しいね……。」
さらに一口齧ったら、パンが二つに分かれた。
口からはみ出たピザトーストを、噛み切ろうとしたら、
ショウ君の顔が近づいてきて、反対側からパクッと食べる。
おいらがびっくりして見ていると、さらにまた一口。
口の外に残ったはみ出してるパンを、舌で口の中へ入れようとすると、
ショウ君の口が近づいてきて、それもパクッと食べる。
「ショウ君……。」
ショウ君はモグモグと口を動かし、新聞を読み続ける。
おいらは残ったピサトーストを二人の間にかざして、
こっち側に齧りつく。
ショウ君も視線を逸らしながら、あっち側に齧りつく。
パク。
パクパク。
徐々に顔が近づいて、最後には唇が触れ合って……。
やっとおいらを見てくれたショウ君。
「美味しいね。ショウ君。」
おいらがふにゃっと笑うと、ショウ君も口をへの字にしながら笑う。
「サトシと食べると何でも美味しい。」
「んふふ。おいらも。ショウ君と食べると、なんでも美味しい。」
おいらはコーヒーを一口飲んで、また笑う。
ショウ君といると、苦いコーヒーも甘くなる。
残ったパンも美味しくなる。
「サラダは、ショウ君が食べてね。」
ショウ君は新聞を置いて、フォークを手にする。
「いや、これも二人で食べよう。」
ショウ君はそう言って、フォークにサラダを乗せる。
それを、さっきみたいに二人の間にかざす。
「うそ。それも?」
おいらが目を見開くと、ショウ君がクスッと笑う。
「これは……さすがに無理か?」
フォークはおいらのすぐ前までやって来る。
おいらがパクッと口に入れると、ニコッと笑ったショウ君が、
今度は自分の口に放り込む。
「うん。うまい。」
二人でモグモグしながら、クスクス笑う。
ショウ君の口の端に、千切りのニンジンがくっついて、
頬が動く度に落ちそうになる。
おいらはグッと体を伸ばし、ショウ君のニンジンを舌でペロッと絡めとる。
「ニンジンも……美味しい。」
おいらがそう言ったら、ショウ君は、サラダを口いっぱいに詰め込んで、
口の周りをサラダだらけにする。
「ショウ君、やり過ぎ!」
ショウ君はちょっとお道化たように笑って、顔をおいらの方に突き出した。
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