「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the missing (5人)
テ・アゲロ the missing ⑦ -8-
2016.09.24 *Edit
「翔君なのか……。」
風磨は顔を上げず、ずっと自分の足元を見つめている。
櫻井はよくわからないと言った顔で大野を見る。
「翔君は……舞ちゃんのお兄ちゃん。」
大野が言葉少なに言うと、櫻井も、はぁん、と小さくうなずく。
「確かにそれは言いにくいね……。」
風磨はどうしていいかわからず、もじもじとつま先を動かす。
「逃げる……つもりはなかったんです。
ちょっと時間が欲しかっただけで……。」
「まぁ、多少の時間は必要だわな。」
風磨がコクリとうなずく。
「翔ちゃんに告白して……フラれて、舞にそれを話そうと……。
でも、最後の勇気がでなくて……。」
告白したら、今までの関係ではいられなくなる。
翔とも、舞とも。
それを考えれば、風磨が後一歩踏み出せないのもわからなくはない。
大野は風磨の肩を叩く。
「すぐじゃなくてもいいんじゃないか?」
風磨が顔を上げ、大野を見つめる。
「気持ちが……どうにも告白したくなった時で。
舞ちゃんにはちゃんと話してさ。」
「でも……。」
風磨は不安そうな顔でチラッと櫻井を見る。
「舞ちゃんはわかってくれるよ。」
大野の言葉に、風磨の視線が移る。
「……相手が……お兄ちゃんで……男同士でも……?」
大野は舞を思い出す。
翔の言葉に動じなかった舞……。
「大丈夫じゃないか?舞ちゃん、結構、度胸が据わってるって言うか、
小さなことにはこだわらないタイプに見えたぞ?」
「そうでしょうか……。」
「そうだよ、きっと大丈夫。」
大野は風磨の肩をバシバシ叩く。
「こんなとこに隠れてるよりずっといい!」
大野の勢いに押され、風磨も、はぁ、とうなずく。
「よし、決まり!家に帰って、明日、舞ちゃんに話をしよう。」
「は、はい……。」
大野は風磨の肩を抱くようにして外へ連れ出す。
「あ、荷物が……。」
そのまま外に出そうになりながら、風磨が部屋へ戻って行く。
「荷物、多いの?」
「いえ……何日もいるつもりはなかったので……。」
風磨は部屋の中を歩き回って、荷物をまとめていく。
「……そう言えば、ここ、友達の部屋?」
「ええ……最近知り合った友達です。」
「ネット?」
櫻井が大野の後ろから部屋の中を見回す。
「……はい。ゲームで知り合って……どこかに行きたいって言ったら、
俺んちにくればって。」
「ふぅん。」
大野も部屋の中に入って行く。
「名前は?」
「ハンドルネームしかわかんないけど……。」
大野は廊下を突っ切って、部屋の入口で立ち止まる。
「ハンドルネーム?」
「うん。シリウスって。」
部屋の中を見て、息を飲む。
入口からは見えない壁一面に張り出された、無数の赤いカード。
大小さまざまな赤いカードに描かれているのは椅子の絵と文字。
真ん中には一段と大きな赤いカードが、
ナチスドイツのハーケンクロイツのように悠然と掲げられている。
「これと同じもの、持ってるよね?」
大野の目が光る。
「ああ、部屋に貼ったやつ?シリウスに貰ったんです。」
いつの間にか部屋に入ってきた櫻井も、その壁に目を奪われる。
「君は……シリウスの、このカードの事件、知らないのかい?」
「……詳しくは知らないけど……。」
風磨は怪訝そうに櫻井を見る。
「でも、連続殺人事件で使われたカードだって知ってるんだよね?」
「そうだけど……カードが殺したわけじゃないから……。」
「……それは……君の言葉?」
風磨は最後に携帯をポケットに突っ込んで、部屋の中を見回す。
「……シリウスが言ってた……。」
「風磨君は……そいつと何度会った?」
風磨はリュックを背負って、う~んと考える。
「……2回かな?」
「2回……。」
「1度目はネットで盛り上がって……会おうってことになって、新宿で……、
2時間位、話したかな?」
「2度目は?」
「2度目は、ここにくればって、言ってくれた時、住所教えてもらって、ここで会った。」
「ここで?そいつは今日、帰って来る?」
「ううん。どこかに行くって。当分帰らないから好きに使ってって。」
風磨は手の平の上の鍵を見せる。
「帰りたくなったら、郵便受けに入れといてくれればいいからって。」
「そいつ……どんなだった?」
大野は壁のカードをじっと見つめる。
「どんなって……。」
風磨は大野が何を聞きたいのかよくわからない。
「見た目ってこと?」
「……そう。見た目。」
「……色白で……外国人みたいなイケメンで……。」
大野は黙って風磨の言葉を聞いている。
「……ああ、そうだ!左の肘の近くに傷跡があった!」
風磨の言葉に大野がビクッと反応する。
「……傷……?」
「そう、初めて会った時、チラッと見えただけだけど……。この辺り。」
風磨は自分の左の肘から5センチ位の所を指し示す。
「ほくろ一つなさそうな肌だったから、覚えてる。」
その左肘をじっと見て、大野の動きが止まる。
「トー…マ……。」
ポツリとつぶやいた言葉に、櫻井の眉が動いた。
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