「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the missing (5人)

テ・アゲロ  the missing ⑦ -5-

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駅の近くのコンビニ。

店内には数人の客と店員。

大野は中に入って一巡すると、コーヒーを買って、外に出る。

駐車場の脇、灰皿の辺りで壁を背にして、煙草をふかす。

ふぅと声が漏れる。

翔の前では煙草を遠慮し、大学内では吸う暇もなかった。

白い煙を吐き出し、体を巡るニコチンを味わう。

少し吸わなかっただけで、体中に感じる痺れるような旨味。

足をパンパンと叩いてみる。

痺れる感じは、地面に足がついてないような錯覚を起こさせる。

少しは減らさないとダメか?

ふと見ると、電子煙草のポスターがコンビニのガラス面に貼ってある。

電子煙草か……。

旨いのか?

これの方が、体に少しは優しい?

一人、そんなことを考えながら、短くなる煙草を見つめる。

いや、俺にはこれが一番だろ?

また煙草を口にし、赤く光るその先を見つめる。

コーヒーの苦みを味わいながら、車通りの多い道路に目を馳せると、

大野の手から灰がポタッと落ちる。

昨日、ターゲットを見かけたのは夕方だと言っていた。

隠れているとはいえ、若い健康な男だ。

ずっと家の中にもいられまい。

大野は煙草が短くなるまで吸うと、灰皿に投げ入れ、コーヒーをすする。

もう一本取り出し、ポケットからライターを取り出したところで、

動きを止める。

若い男が小走りでこっちにやってくる。

髪の色、背格好はターゲットに似ている。

煙草を咥えたまま、男が近づくのを待つ。

男は真っ直ぐコンビニに入って行く。

ガラス越しに男を観察すると、どうもターゲットではないらしい。

そう簡単には見つからないか……。

気を取り直して、煙草に火を点ける。

一口吸って煙を吐き出すと、ちょうどコンビニに入ろうとしている男が目に入る。

茶髪というよりはグレーに近い髪の色。

細身の体。

柔らかい顔立ち。

……ターゲットだ。

ターゲットは店の中に入ると、雑誌売り場の前で立ち止まる。

雑誌売り場は大野のすぐ後ろだ。

ガラス越し、ポスターで隠れるようにターゲットの様子を確認する。

誰かに囚われているような、疲れた様子は見受けられない。

自ら隠れているのは間違いなさそうだ。

ではどこで?

煙草とコーヒーを交互に口に運び、ターゲットが動くのを待つ。

煙草が短くなると、ちょっと考えながら、もう一本口に咥える。

吸える時に吸っとかないと、いつ吸えるかわからない。

火を点けようとして、ピタッと動きが止まる。

ターゲットが雑誌を持って、レジに向かった。

大野は咥えた煙草をボックスに戻し、飲みかけのコーヒーをグッと飲み干した。



二宮は引き続き、事務所で楓から引き受けた帳簿をチェックしている。

二つの帳簿の違うところ……。

付箋はもう20枚以上になっている。

「これ……。」

二宮は付箋を捲って、前に戻る。

さらに前に戻って、もう一度、今見ているところと比べてみる。

「……婆さん……。」

すると、ドアがギィと開く。

振り返って見ると、翔が肩を落として立っている。

「どうしたんですか?まだ何も見つかってませんよ。」

二宮は笑って、帳簿を閉じると、事務所のドアを大きく開ける。

「あの……智……大野さんは?」

「ああ、今調べに行ってます。ああ見えて、意外と仕事はできるんで、

 心配しなくても大丈夫ですよ。」

「心配は……してません。」

二宮がデスクに座ると、翔も中に入ってキョロキョロする。

「家に帰って……考えてみたんです……。智……大野さんのこと……。」

翔はそれ以上何も言えずに下を向く。

二宮はクスッと笑って近くの椅子を促す。

「俺……智が……。」

「忘れられない?」

「……はい。」

「でも、あなたが会ったのは大野さんであって大野さんじゃない。」

「わかってます……。」

「今日、会った、現実の大野さんはどうでした?」

翔は少し首を動かし、床の汚れを見つめながら、ボソッとつぶやく。

「前とは、ちょっとイメージ、違ってましたけど……。

 でも、あの智の笑顔……俺が好きになった……。」

そこまで言うと、また黙り込んでしまう翔を見て、二宮がにっこり笑う。

「あの人はね、人たらしなんですよ。会えばみんなあの人を好きになる。

 でもね、あの人はいつも本気でいつも本気じゃない。」

「え?」

翔が顔を上げる。

二宮は両手を組んで、その上に顎を乗せる。

「だから、好きになっても無駄ですよ。」

「それは、その……付き合ってる人も?」

「付き合ってる人……?

 ああ、本人は認めてないですけどね。」

二宮はちょっと考えるように首を傾げ、翔を見つめる。

「さぁ、どうでしょう。

 たぶん、本人も気づかないことでしょうから。」

クスッと笑うと、親指で顎を撫でる。

「だから……本気なら、頑張ってみれば?」

「え?」

翔がびっくりして顔を上げる。

「男同士で、歳の差もあって、相手はああいう人で、

 勝てる要素はほとんどないけど……それでも諦めきれないなら、

 頑張ってみればいい。」

「二宮さん……。」

「頑張って、それでダメなら諦めれば?」

翔は立ち上がって二宮の手を握り締める。

「はい!ありがとうございます。」

深く頭を下げて、手をブンブンと二度振る。

「じゃ、お家で結果を待っててよ。もしかしたら危ないこともあるかもしれないから。」

「それは……智は……大丈夫なんですか?」

「あぁ……。」

二宮が、フフンと、自慢げに鼻を上げる。

「ああ見えて、あの人、結構強いのよ。」

翔は強い大野を想像してみる。

…………想像できず、眉を寄せて二宮を見た。










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