「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the missing (5人)

テ・アゲロ  the missing ⑦ -1-

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女は、2階建てのアパートを見上げる。

ワンルームタイプのイマドキの造り。

その2階の右端の部屋をじっと見つめる。

やっとここまでこぎつけた。

幼馴染で、近くにいすぎたせいか、なかなか進展しなかった二人。

大学が自宅から遠いと言うことで、男が一人暮らしを始め、さらに遠くなる距離。

大学も別、家も遠い、そんな難関を乗り越えて、

やっと今日、男の家に呼ばれたのだ。

新しい下着は清楚なものにしてみた。

脱がせやすいように、前開きのブラウス。

スカートも短すぎず、長すぎず……。

今日が勝負。

そう自分に言い聞かせ、階段を上っていく。

きっと同じ気持ちでいてくれるはず……。

彼はいつも優しかった。

小さな頃から、兄と三人、いつも一緒に遊んでいた。

同い年の彼に、初めて異性を感じたのは小学校四年生の時だ。

義理であげたチョコのお返しに、キャンディ―をくれた彼が、

手を振りながら夕陽の中に消えていくのを見て、初めて胸がキュンとした。

初恋だった。

それから10年近く、ずっと彼だけを見て来た。

お互い、一度恋人を作ったが、すぐに別れ、それ以来、浮いた話もない。

最初の一歩を踏み出せば……。

女はドアの前に立ち、大きく深呼吸する。

長い息を吐いて、ドアのチャイムを鳴らす。

しばらくして、ドアが開き、男が顔を出す。

「いらっしゃい。」

「ごめん、ちょっと遅かった?」

「そんなことないよ。……あんまり綺麗じゃないけど……。」

男はドアを開けたまま、女を家の中へ促す。

女はキョロキョロしながら入っていく。

「お邪魔します。」

「ははは。なんか変だね?」

「うん。変な感じ。」

顔を見合わせて笑い合うと、

ガチャッ……と、ドアが静かに閉まった。



「……暇ですねぇ……。」

二宮がじっと耳を澄ませる。

部屋の中はエアコンの回る音と、時折動く、大野の椅子のギィーギィーいう音だけ。

「電話、チンともなりゃしない。」

「ん……。」

「メール、来るのは要らない広告ばかり。」

「…………。」

「このままじゃ……。」

二宮がスッと背筋を伸ばす。

「おまんまの食い上げだぁ~!」

手にしていたメモ帳を、大野に向かって投げつける。

メモ帳は、思いの外速いスピードで、大野に向かって真っ直ぐ飛んでいく。

子供の頃、少年団に入っていた二宮のコントロールは折り紙付きだ。

大野の顔寸前で、メモ帳が止まる。

大野は雑誌から目を離さず、人差し指と中指の2本だけでメモ帳を挟む。

「ほんと、反射神経だけはいいんだから。」

「ん~?」

大野はデスクに投げ出した足を組み替え、メモ帳をデスクの上に投げ捨てる。

「こんなの当たったら、すげぇ痛いかんな。」

釣り雑誌をペラペラと捲りながら、二宮をジロッと睨む。

「だったら何とかしてくださいよ。

 営業に行くとか、婆さんの話相手になって、仕事を強請って来るとか……。」

「それはニノの仕事だろ?」

「ウチの事務所は暇でも、私は暇じゃないんです!」

「それだって、婆さんの仕事だろ?」

二宮のデスクをチラッと見て、大野が不満げに口をへの字にする。

「ウチの為にやってるんです!このままじゃ、ここの家賃だって払えやしない。」

「よっく言う。別口で婆さんからこずかい貰ってるの、知らないと思ってんのかよ。」

「それくらいの旨味がなかったら、こんなことやってられません。」

二宮はデスクの上の帳面をパンパンと叩いて、大野を睨む。

「さっさとあんたが仕事持って来れば、こんなめんどーな仕事、しなくてすむんです!」

大野はちょっと興味を引いたのか、雑誌から顔を上げ、

首を伸ばして二宮の帳面を覗き込む。

「それ、何してんの?」

「さぁ……違う所をチェックしろって言われたんですけど……。」

「違うとこ?」

「そう……微妙に数字がずれてくんですよ。これとこれ。」

二宮は二つの台帳を持ち上げ、大野に見せる。

大野がそれを見て首を傾げると、玄関のチャイムが鳴る。

「おっ!客か?」

二宮がFairyスマイルで振り返る。

ソロソロと開いたドアから入って来たのは、若い男と女の二人連れ。

「お、おまっ!」

大野がびっくりして固まる。

「智!」

男の顔がパァッと華やぐ。

「会いたかった……。」

男は机を回り込み、大野の横に立つ。

「忘れたことなんかなかった……。」

大野の頬に右手を添え、じっと見つめる。

「忘れられなかった……。」

大野の顔に顔を近づけようとした時、大野の手が男の顏を押しやる。

「ま、待て。だから、あれはおいらじゃないから!」

「智!」

男が大野を無理やり抱きしめようとすると、女が大声で叫んだ。

「お兄ちゃん!何してんの!」

「舞!驚かないで聞いて欲しい……俺……。」

「櫻井……翔さん?」

二宮が、男の言葉を遮って、確認するように聞く。

「……はい。櫻井翔です。この間……智をレンタルした……。」

「ウチの大野が彼女の代わりを……。」

「はい。そうです。その櫻井です。」

二宮は翔を上から下までゆっくり見定め、ふふんと鼻を鳴らす。

「なるほど……大野さんが気に入るわけだ。」

「き、気に入ってなんか……。」

二宮は顎を撫でながら、ニヤニヤする。

「お兄ちゃん!」

舞の声にハッとして、翔は真面目な顔で二宮を見る。

「あの……こちらはなんでも屋だと伺って来たんですけど……。」

「ええ、ウチはなんでも屋ですよ。犯罪に関係しなければ、何でも承ります。

 ご依頼ですか?」

「はい……幼馴染が、いなくなってしまったんです。」

二宮と大野はチラッと視線を合わせ、立ち上がると、二人を玄関へ促す。

「ここではなんですから……。下で、お話、伺わせてください。」

二人は先に立ってドアを開けた。










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