「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【21~40】

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おいらもポスターを見上げる。

昔、見たことのあるそのポスターは、今見ても、見劣りすることのないデザイン。

どこかクスッと笑いを誘う可愛い面白さ。

覚えてる。

CMがすごい面白くて、インパクト強かったやつ。

一歩下がって、ポスターの隅々まで見てみる。

今から20年以上前のものとは思えない。

「このポスターね。」

類さんはおいらを見ることなく話す。

「俺がこの業界に入るきっかけだったんです……。」

「きっかけ?」

「そう……CM、覚えてる?」

「……なんとなく。」

「俺も、うわぁっ、おもしれぇって、子供の頃に思って。」

類さんがポスターを見る顔が優しい。

「ずっと忘れてたんですけど、大学で進路を選ぶ時に、これに会って。」

懐かしそうにポスターを見上げたまま、口元を緩める。

「俺もこんなの作りたいって思ったんです。」

ゆっくりおいらに顔を向ける。

「で、今の会社に決めて。」

「今の?」

「そう。このCM作った人、去年までウチの取締役だったんです。

 今年の初め、独立しちゃったけど。」

「そうなんだ。」

おいらもポスターを見上げる。

CMのインパクトは強かったのに、ポスターのデザインはスマート、

スタイリッシュに見える。

絶妙な構図。

バランス。

中央の商品が頭に残る。

このポスターが類さんをこの道に導いたんだ……。

「だから、こうしてたまに……落ち込んだ時とかに見に来るんです。」

「……落ち込んでるの?」

「ふふふ。何でも、上手くいかないことはあるから。」

「……仕事?」

「そう……頭の固い、判断力のない上司ってのは、どこにでもいるものです。」

類さんがクスッと笑う。

「類さん……。」

「だから、ここで……こんなところでサトシさんに会えて、嬉しかった。」

「んふふ。おいらもびっくりした。こんなとこで会うなんて。」

類さんの優しい顔がクシャッと嬉しそうに崩れる。

「ここのこと、ウチのも知らないんですよ。」

「奥さんも?」

「そう。ここは俺だけの聖域って言うか……、踏ん張る時に来るとこだから。」

「……え……おいら、いいの?」

おいらはちょっと周りをキョロキョロしてみる。

周りに人影はない。

本当に静かで類さんの聖域に……ぴったりな場所……。

「いいんですよ。むしろ、会えて嬉しかった。」

類さんが優しくおいらを見つめる。

その顔にドキッとして、視線を逸らす。

な、なんでおいらドキッとしたんだ?

類さんはクスッと笑って、おいらの肩に手をかける。

「もし、こんな偶然の、二度目があったら……、いや……。」

類さんが軽く顔を振る。

肩に乗った類さんの手が熱くて、神経が集中する。

「本当は、このままもっと話していたいんですけど、もう戻らないと……。」

なおも熱い類さんの手。

「うん。お仕事頑張ってね。」

「はい。頑張ってきます。」

子供のように返事をして、類さんはおいらの肩から手を離した。

「ではまた、打ち合わせで。」

「はい。」

類さんは軽く会釈しておいらに背を向ける。

長い足が、早足に駅に向かう。

「類さんでも……落ち込むことあるんだな……。」

そんなに強く握られたわけじゃないのに、熱く感じた肩……。

おいらはもう一度ポスターを見上げて、飽きるまでずっと見ていた。



ちょっと遅くなっちゃったけど、ショウ君が帰る前には夕飯の準備もできて。

時間がなかったから、今日は生姜焼き。

ショウ君が大好きなおかず。

でも、お昼ご飯と被らないかなぁっていつも思う。

夜食べるにはカロリー高そうだし。

ショウ君が中年太りなんて嫌だもんね。

いつまでもカッコいいショウ君でいて欲しい。

でも、口いっぱいにご飯を詰め込んで食べるショウ君も好きだから……。

ん~、困る。

目の前のショウ君は、ガツガツ生姜焼きとご飯を口へ運んでいく。

大きく頬を動かして、美味しそうにご飯を食べていく。

「ん?どうしたの?お腹空いてない?」

ショウ君が、心配そうにおいらを見る。

「ショウ君が食べてるの、好きだから見てた。」

ショウ君が嬉しそうに笑う。

「でも、サトシも食べないと。お腹空いちゃうよ。」

「うふふ。うん。」

おいらも箸で生姜焼きを摘まむ。

「今日は、あの後、どうしたの?」

「うん、そこらへんをブラブラして帰ったよ。」

「何かおもしろいもの見つかった?」

「ううん。特には……。」

あの美術館のこと……ショウ君に言うのは止めた方がいいかな?

だって、あそこは類さんの聖域だもん……。

きっと、人に知られたくないはず……。

ショウ君はおいらをじっと見て、箸でお新香を摘まむ。

「でもね、駅の周りはいろんな人が歩いてて、それ見るだけでおもしろかった。」

「どんな人がいたの?」

ポリポリとお新香を齧って、ショウ君が聞く。

「あ、電話してる時ね、すっごい勢いで歩いて来た人にぶつかりそうになってね……。」

「ダメだよ。電話する時は危なくないとこでかけないと。」

「……でも、電話がかかってくるって思わなかったから……。」

おいらがちょっと口を尖らせると、ショウ君がおいらの頬に指を伸ばす。

「ちょっと待ってって言って、ささっと避けて!」

「無理だよ~。」

おいらが笑うと、ショウ君は指についたご飯粒を唇で挟む。

おいらの頬のご飯粒。

「でも、端に避けるようにする。」

ショウ君がニコッと笑って、生姜焼きに齧り付いた。










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