「三日月」
Daylight(潤×颯)

Daylight ① - 三日月 side story -

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「潤~~~っ!」

いつもの時間。

俺は土を弄る手を止め、顔を上げる。

眩い光に包まれて、颯が手を振って走って来る。

真っ直ぐ俺に向かって、庭を突き抜けてくる。

「じゅっ……!」

草が、颯の足を絡めとる。

「あっ!」

危ないっ!

届くわけもないのに、思わず手が出る。

つまずいて、転びそうになったところを辛うじて堪えた颯が、

顔を上げ、俺を見てニコッと笑う。

智様に似た可愛い笑顔。

いや、本当はあまり似ていないのかもしれない。

最近では、その大きな瞳が本当に若旦那様にそっくりで、

色白の嫋(たお)やかなところは和子様譲りで。

二人に似て、利発な颯は、学業も運動も抜きんでて……。

俺の自慢のご主人で……。

「潤っ!」

両手を広げて俺に抱き着こうとするのを、肩で遮る。

「颯様が汚れるからダメ。」

「かまうもんか。潤は仕事してて汚れたんだから、汚くなんかない。」

颯はさらに抱き着こうとする。

その両腕を掴み、じっと見つめて思い留まらせる。

「前は抱き着いても怒んなかったのに。」

「綺麗な制服が汚れたら、和子様に怒られる。」

「怒られたって……。」

颯がブツブツと口を尖らせる。

「それに、もう小さな子供じゃない。」

俺は颯の頭を撫でようとして、ハッとする。

俺の手は汚れていて、颯を撫でていい手じゃない。

子供じゃないと言っておきながら、いつまでも子供扱いしたくなる俺に苦笑いする。

「潤……。」

俺を見る颯の顔が憂いを含んで見え、グッと首を振ると、しゃがんで、作業を続ける。

「もう、走って来るな。」

「どうして?」

「……走ってこなくても、俺は逃げないから。」

「逃げないけど、早く潤に会いたかったから!」

ふにゃっと笑う顔は、やっぱり智様に似てる……。

颯ももう十四歳。

背も伸び、整った顔立ちは少年から青年へ変化し始め、

歩けば誰もが振り返る。

眩しくて……見ていたら引き込まれる。

引き込まれて抜け出せなくなる。

だから俺は、颯を見ないようにする。

「颯様くらいの年頃は、友達と遊びまわりたいものだろ?

 それを、何を好んで俺の隣で庭の手入れなんて……。」

「潤の隣だからだよ。僕は潤と一緒にいたいから。」

その真っ直ぐな言葉が、俺の心を掻き乱す。

俺は手を止め、颯に向かう。

目を……真っ直ぐに見ることができない。

彷徨う視線を、その首筋に合わせて話す。

「もう、小さくないんだから、俺の隣じゃなくて、

 可愛い女の子や、楽しいご学友と一緒に……。」

「あいつらといるより、潤といた方が楽しいもん。

 あいつら、自慢話ばっかりで全然面白くない。

 しかも、コクトーがなんだとか、ポーの何とかが僕に似てるだとか、

 僕には全然興味ないことばっかり。」

「それでも……。」

俺は溜め息をついて、ゆっくり話す。

「小さい颯様は虫や草花が大好きだったから……

 だから、俺の近くにいることが多かった。

 それは小さかったから許されること。

 身分のある人が、必要以上に俺なんかの近くにいちゃいけない。」

「潤!なんでそんなこと言うの?僕……なんか潤の気に障ることした?」

「そんなことは……。」

颯の潤んだ視線が俺を絡めとりそうになる。

「だったら!今まで通り潤のとこに来る。」

「……ダメだ。」

「やだ!」

颯の目が真剣で、俺はそれ以上何も言えず、仕事を続けるしかなかった。

隣にしゃがむ颯は、ふてくされながら、俺の作業を手伝う。

微かに香る颯の香り……。

何かつけているのか、それとも颯自身から香る匂いなのか。

それは甘く、俺を包み、邪な心を煽る……。

そっと隣を見れば、白い頬に揺れる柔らかそうな髪。

こめかみを伝う汗の滴。

腰の手ぬぐいを取り、その汗を拭う。

颯が俺を見上げて笑う。

茶色の瞳に、真っ直ぐに射抜かれる。

「潤……今日も暑いね。」

「ああ、そうだな。」

わざと視線を外して立ち上がると、庭全体を眺める。

「水浴びしたくなる。」

しゃがんだままの颯が言う。

「水浴び?してくればいい。ここは俺一人で大丈夫だから。」

颯を見下ろすと、颯が悪戯そうな笑顔を俺に向ける。

「やだ。潤と一緒がいい!」

「一緒って、使用人と主人が一緒になんて入れるわけないだろ。」

「いいよ。僕がいいって言ってるんだから。」

「ダメだ。」

「じゃ、ここで浴びる!」

言うが早いか、颯がホースを取って蛇口をひねる。

空に向かって飛び出す水しぶき。

それが、小さな虹と一緒に俺の上に降り注がれる。

「うわぁっ、ばっ、やめっ……。」

ホースの雨を両手で避けて、颯を見る。

颯は楽しそうに、自分の上にもホースを向ける。

しぶきが颯に降りかかる。

「あ~っ!気持ちいい!」

「颯っ!制服!!」

「大丈夫。もう一着あるから!」

小さな虹の中の颯は、太陽の光を浴びて、神々しいまでに光り輝く。

柔らかそうな髪が頬に張り付き、気持ちよさそうな顔を空に向ける。

首筋を伝う水しぶき。

それらに反射する光。

白いシャツが颯に吸い付き、薄桃色の肌が浮かび上がる。

ドキッとして、慌てて蛇口をひねる。

ピュッと最後の水を跳ね上げ、ホースが止まる。



早くなんとかしないと……俺が……。










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