「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【1~20】

ふたりのカタチ (7)

 ←ねぇ、メガネ、かけない? -3- →ふたりのカタチ (8)
夕方。

田村さんの会社の近くで田村さんと待ち合わせ。

今日は打ち合わせのはずなんだけど、会議室じゃないってことは、

打ち合わせも全部食事会でするのかな?

街ゆく人は華やかな春の装い。

コートも薄くなって、体も気分も軽やかそう。

田村さんは、人好きのする笑顔を振りまいてやってくる。

田村さんのコートも薄いベージュの春コート。

ちなみにおいらは軽いジャケット。

彼女ができてから、とみに笑顔が柔和になってる田村さん。

もともと、とっても優しそうな笑顔だったけど、さらに!

佐々木さんの威力はすごい。

「サトシ君!待った?」

「いえ、今来たとこです。」

「イベント会社の人ね、先にお店で待っててくれるって。」

「そうなんですか。打ち合わせも?」

田村さんが、キョロキョロ方向を確認して歩き出す。

おいらも隣に並んでついていく。

「そう。場所移動も面倒だし、最初だから、打ち解けるのが先だろうって。」

田村さんは携帯を取り出し、タップする。

お店の確認してるのかな?

画面をどんどんスクロールしていく。

「だから、最初は飲まないで、少しイベント概要説明してもらって……。」

目的の店が見つかったのか、田村さんはじっと画面を覗き込む。

「相手は一人?」

「うん。一人だって聞いてるけど。」

地図を見ながら、下唇を撫でる田村さん。

この癖、ショウ君もやるやつ!

「田村さんは会ったことあるの?」

「まぁ、狭い業界だからね。背の高いイケメンだよ。」

田村さんがニヤッと笑う。

「……櫻井さんが心配するね。」

「そ、そんなことありませんから!」

おいらは恥ずかしくなって下を向く。

ほら、ショウ君!

田村さんにまで、こんな風に思われてるよ!!

「あ、こっち。」

田村さんに背中を押され、道を曲がる。

ちょっと行った所に、黒い表の平屋の家が見える。

「あそこ。ちょっと隠れ家っぽいとこだね。」

入口脇の窓から中が見えるようになっていて、大きな花瓶に花が活けてある。

なんか……高そうな店?

もちろん、看板も出てなくて、そっと覗いてみると、

本当に古い小綺麗な家って感じなんだけど……。

柱も壁も全て黒で統一されていて、床は黒に近いこげ茶。

襖は薄茶?ベージュ?

落ち着いた雰囲気でスタイリッシュ。

でもどこか、懐かしい、田舎のおばあちゃんちの匂いがしそうなお店。

「もう来てるかな。」

田村さんは、ガラガラと引き戸を開ける。

土間に足を踏み入れると、すぐにお店の人がやってきて、奥の部屋へ通される。

少し上がった床も、土足で通される。

なんか申し訳ない気持ちになる。

だって、人の家に土足で上がる気がするんだもん。

「こちらでございます。」

案内されたのは、10帖ほどの部屋で、真ん中にテーブル、その周りに椅子が4脚。

テーブルも椅子も、当然黒。

調度品の家具も黒を基調にした和風なもの。

手前の席に座っていた男の人が、ドアが開くと同時に立ち上がる。

「これはこれは……。」

男の人は田村さんに向かって、右手を差し出す。

「お久しぶりです。」

田村さんもにこやかに笑う。

「こちら、大野さん。大野サトシさん。」

紹介されて、初めてちゃんと男の人の顔を見た。

「あ。」

「あっ。」

二人一緒に声が出る。

「お隣の……。」

「大野さんって……。」

そう、前のマンションで、隣に住んでたイケメンの旦那さん!

びっくりした顔もイケメンで、すぐに優しそうな笑顔でふわりと笑う。

おいらも釣られて、にっこり笑う。

「何?知り合い?」

きょとんとした顔で、おいら達を交互に見る田村さんが、一番びっくりしてたかも。

「うん。前のマンションのお隣さん。」

おいらが言うと、旦那さんも楽しそうに名刺を差し出す。

「こんなところで会えるなんて、増して、あの大野サトシだったなんてね。」

旦那さんの名刺を受け取って、小さく会釈し、田村さんと並んでテーブルにつく。

名刺をテーブルに置き、改めて旦那さんの名前を確認する。

企画部 花沢類。

なんか、すっごく華やかな名前。

イケメンにぴったり。

花沢さんって名前は知ってたけど、どっちかって言うと、

サザエさんのイメージだったから……。

『類』って名前がつくだけで、一気にイケメン度が増すんだね。

名前っておもしろ~い。

「サトシさん……って、お呼びしてもいいですか?」

旦那さんがおいらに向かって話しかける。

「あ、はい……。」

元隣の旦那さんに『サトシさん』って呼ばれるの……不思議な感じ。

隣にいる頃は、話をすることもほとんどなかったから。

「じゃ、僕のことは類で。」

「類……さん。」

おいらは首を傾げて類さん……を見る。

類さんって呼ぶの……、なんか恥ずかしくなるね。

「そう、そんな感じで。苗字より、親しみが増すでしょ?」

類さんは満足そうに笑って、鞄から資料を取り出す。

「俺、付き合い長いのに、まだ下の名前で呼ばれたことないよ。」

不満そうなのは田村さん。

「……田村さんも下の名前で呼ばれたい?」

「下の名前、知ってる?」

「…………ごめん。」

本当にごめんね。でも、全然思い出せないよ~。

「だよね~。かつひろって言うんだよ。覚えておいて。」

田村さんが、ちょっとむくれた声で言う。

「かつひろ……さん?」

おいらが名前で呼んだ途端、田村さんの顔がカァーッと赤くなる。

「かつひろさん?」

赤くなった田村さんが、手の平を口の辺りに持っていき、ゴシゴシと顔を擦る。

「いや、ダメだ。これじゃ仕事にならん。俺は今まで通り、田村で。」

「いいの?」

「いい、っつーか、むしろ、名前で呼んじゃダメ。」

「ダメ?」

おいらが首を傾げると、おいら達のやりとりを見ていた類さんがおかしそうに笑う。

「これじゃ、サトシさんの相手の……。」

類さんが、何か思い出そうと、人差し指を立てる。

「ショウ君?」

「そうそう、ショウさんは大変だね。」

「大変みたいですよ。」

田村さんも苦笑いしながらおいらを見る。

何?おいら、なんかしちゃった?










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【ねぇ、メガネ、かけない? -3-】へ  【ふたりのカタチ (8)】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【ねぇ、メガネ、かけない? -3-】へ
  • 【ふたりのカタチ (8)】へ