「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

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酔いもぶっ飛ぶとはまさにこのこと。

さっきまでほろ酔い気分だったのに、雅美の告白に、全てのアルコールが吹き飛んだ。

終いにはキスまで!

電車の中でも、ふとした拍子に思い出す。

智のキスシーンの心配が、俺のキスの心配になった。

智は……知ったら怒るかな?

てか、気付くかな?

…………。

いや、気付かれないようにしないと……。

でも、気付いても何も思われなかったら……。

それも寂しい……。

我が儘な俺。

俺なんて、智が仕事でキスするだけでこんなに心乱れてるのに。

プライベートで誰かとキスなんてしたら……。

考えただけで怒りと悲しみと絶望感が押し寄せて来る。

俺は、電車の窓から流れる景色に目を向ける。

暗がりの中、光るネオンとマンション群の明かり。

智……もう帰って来てるかな……。

携帯を開いて時刻を見る。

11時半か……。

キスシーン、上手くいったのかな。

満員電車がガタッと揺れて、いつもの駅に着いた。



「ただいま。」

小さな声でそう言って、玄関を見回す。

智の靴が、脇に揃えて置かれている。

俺も靴を脱ぐと、廊下を真っすぐリビングに向かう。

取りあえず、平常心。

大きく息を吸って吐く。

平常心だぞ、俺!

自分に言い聞かせて、リビングのドアを開ける。

部屋を見渡すと、智はソファーに座って雑誌を見ている。

髪が若干濡れてるのはシャワーを浴びたせいか。

「お帰り~。」

ふにゃっと柔らかく笑う智が俺を迎えてくれる。

「た、ただいま。」

ま、まずは水でも飲もう。

冷蔵庫の前に行き、ミネラルウォーターを取り出すと、智が俺に話しかける。

「今日の飲み会、どうだった?」

雅美のキス顔が頭を過ってギクッとする。

「た、楽しかったよ。」

ミネラルウォーターをゴクゴクと飲み、振り返ると、智がちょっと怪訝な顔をする。

まずい、何か感じたか?

「さ、智はどうだった?」

「どうって?」

「……キスシーン。」

ああって、納得したようにクスッと笑って、それまで見ていた雑誌に視線を戻す

「一発OKだった。相手の女優さんも慣れたもんだよ。」

「へぇ~。」

キスなんてしたら泣き出しそうな清純派の女優も、仕事をわきまえてるってことか。

それに比べて俺は……。

雅美のキスに動揺するわ、あたふたするわ……。

俺はハッとしてミネラルウォーターに蓋をする。

そうだ。

鏡チェックしてない!

唇には確かに微かな口紅の跡が付いていた!

鞄をソファーに投げるようにおいて、洗面所に向かう。

ソファーの振動で顔を上げる智。

「どうしたの?」

「あ、ちょっと顔洗ってくる。」

「顔?」

不思議そうに俺を見上げる。

ダメだ。まだ顔を合わせるわけにいかない。

まずは顔面チェック。

足早に洗面所に入ると、すぐさま鏡に顔を映す。

ちょっと疲れて、むくんだ俺の顔。

唇には……大丈夫。

わかるほど口紅は付いていない。

指で強く擦って指先を見る。

わずかに指に着く程度。

勢いよく水を流し、顔全体を洗う。

バシャバシャと顔に水を浴びせ、酔いと雅美を洗い流す。

念入りに口の周りも洗う。

顔を上げて、グッと鏡に顔を近づける。

大丈夫。

口紅の跡は完全にない。

安心してタオルで顔を拭くと、ふぅと小さく息を吐く。

「……そんなにキスシーン、気になる?」

すぐ後ろで声がして、ビクッとする。

振り返ると、ちょっと困った顔をして智が立っている。

「そんなこと、ないよ。」

振り返って、智が心配しないように笑顔を作る。

「智は仕事だもの。気にならないと言えば嘘になるけど……。

 そんなに気にしてないよ。」

「ふぅん……じゃ、何かあった?」

智の目が鋭くなる。

……なったような気がする。

「な、何もないよ。」

「……ほんと?」

智の顔が近づく。

洗面台を背にグッと身を引く。

「……翔君、逃げてる?」

「逃げてないよ。」

笑って、頬に残った滴を拭くと、智がさらに近づく。

後頭部を鏡にくっつけ、智を避ける。

「なんで逃げるの?」

「に、逃げてないって。」

じっと俺を見る智が、俺の肩に両手をかける。

クンっと鼻を鳴らして、智が俺の首元の匂いを嗅ぐ。

「翔君……女の人の匂いがする。」

すげぇ、智、そんな匂いが分かるのか!

「あ、や……同期の女と一緒に飲んでたから、それでかな?」

「こんなに匂いがつくくらい、近くで飲んだの?」

「え……狭い店だったから。」

「ふぅん……。」

智の目をまともに見ていられず、チラッと視線を外す。

「……翔君、やっぱり女の子の方がいい?」

「え?」

びっくりして智を見ると、何も映してないような、ぼんやりした智の目が俺を見つめる。

「……いいよ。そう思うんだったら、おいら、縋りついたりしないから。」

智の手が俺の肩から外れ、洗面所を出て行く。

「ま、待って。」

智を追いかけると、智はリビングに入るとこで……。

「待てったら。」

振り返った智の目は、ウルウルと潤んでて、今にも涙が溢れそうで。

「や、ダメ。見ないで。」

「智!」

腕で俺を払って顔を隠す智を、無理やり俺の方に向けさせる。

「何言って……。」

「ダメだな、おいら。大事なとこで演技できない……。」

「演技なんて、なんでするの?」

「だって……。」

智の目から、大粒の涙が溢れる。

「翔君……女の子がよくなっちゃったんでしょ?」

「そんなことあるわけない。」

「じゃ……何を隠してるの?」

「隠してなんか……。」

……俺の隠し事なんて、智にはすぐバレちゃう。

何も思われなかったら、寂しいと思ってたのに、

こんな智を見ていたら……。

俺は大きく息を吐いて、智のことを抱きしめた。










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