「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

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『翔君、まだ飲んでる?

 おいらそろそろ帰る。

 思ったより早く終わった!』

智からのメールを確認する。

ああ、もう終わったんだ。

キスシーン……どうだったんだろ?

俺は携帯をポケットにしまって立ち上がる。

「じゃ、俺、そろそろ帰るわ。」

鞄を持って、小山の前をお腹を引っ込めて通る。

「え~、まだ早いですよ~。」

小山が不満そうな声を漏らしながら、俺を避ける。

「そうだよ。明日は休みなんだから、もう少し付き合いなさいよ。」

潤子も不満そうに口を尖らせる。

「俺、もう酔ってるし、帰れるうちに帰らないと。」

財布から、適当に札を抜き、小山の前に置く。

「これで足りる?足りなかったら月曜日!」

俺は軽く手を上げ、3人にさよならしようと思ったら、雅美が立ち上がった。

「櫻井君、私も帰る!」

潤子がニヤリと笑い、雅美の尻を叩く。

「よっし。二人で帰ってこい!私は小山とまだ飲んでるから!な?」

小山に向かってウィンクする潤子に、小山は嬉しそうに大きくうなずく。

「はい!潤子さんとなら、いつまででも飲みまっす!」

「よし!よく言った!おかわり!」

潤子がジョッキを突き出すと、小山は店員さんに声を掛ける。

「すみません!生中お願いします!」

呆れたように二人を見て、雅美を見ると、雅美もおかしそうに笑ってる。

「ほんとに帰るの?」

雅美に聞くと、雅美は小さくうなずいて、バッグを持つと俺に並んだ。

「じゃ、帰るわ。お前らも飲み過ぎんなよ。」

「お疲れ~!」

「お疲れさま。」

俺達は店を出て駅まで歩く。

クーラーの利いてる店から出てきたせいか、

外の空気はムッとするほど蒸し暑い。

「雅美、家どこ?」

「吉祥寺。」

「いいとこ住んでんな。」

「そんなことないよ。櫻井君は?」

「俺?俺は……。」

智の家だからな……。

教えるわけにはいかないよな。

「今日はちょっと寄るとこあるから。」

「なんだ。やっぱり寄るとこあるんじゃない。」

「ま、まぁ。」

俺は頭を掻いて智を想う。

早く帰って智にキスシーンのことを聞きたい。

いや、聞きたくない……?

「それは……やっぱり彼女なの?」

「彼女っていうか……。」

彼女じゃないんだよ、彼女じゃ。

でも、なんて言ったらいい?

「でも……好き……なの?」

雅美が戸惑いがちに俺を見上げる。

「ま、まぁ。」

あいまいに答えて笑う。

「それは……私に入る隙はない?」

「え?」

黒目勝ちの瞳が、俺を捕らえる。

俺が立ち止まると、雅美も一緒に立ち止まる。

「私、ずっと櫻井君が好きだった。」

「雅美……。」

「でも、櫻井君、あんまりそういうの、興味なさそうだったから、

 ずっと言えなくて……。」

俺は何も言えず立ちすくむ。

小山が言ってた通りだ。

雅美は俺が好きなんだ……。

「……私じゃダメ?私じゃ櫻井君の中に入っていけない?」

雅美が一歩俺に近づく。

「雅美……。」

「私、潤子みたいにいい女ってわけじゃないし、もう20代じゃないし、

 胸もあんまり大きくないし、なんか抜けてるし、

 あんまりお得感ないかもしれないけど……。」

雅美がさっと右手を差し出した。

「もらってください!」

「え?」

「え?」

俺がびっくりしていると、雅美も顔を上げてびっくりしてる。

自分で言ったことに驚くって何?

「あ……何言ってんだろ。これじゃ逆プロポーズ……。」

見る間に顔が赤くなっていく。

雅美の一生懸命さが伝わってくる。

「い、今のはなし!そ、そこまで重く考えなくていいから!」

「あはは……雅美、お前!」

雅美が可愛くって笑いがこみ上げてくる。

「わ、笑わないでよ。私だって何言ってんのかわかんないんだから。」

顔を隠したいのか、雅美が両手で自分の髪を引っ張る。

俺はその頭を軽くポンポンと叩く。

「うん。わかってるよ。ありがとう。」

「櫻井君……。」

髪から手を離し、見上げた雅美はちょっと安心したように微笑む。

「でも……ごめん。」

「…………。」

雅美の瞳が潤んでいく。

「私じゃダメって……こと?」

「……ん。俺、好きな人、いるから。」

雅美はグッと唇を噛んで俺を見上げる。

「……告白、しないの?」

「……した。」

「……なら……。」

「……今……付き合ってる。」

雅美は、一瞬息を飲んで、はぁと小さく溜め息をつく。

すぐに俺を睨みつけ、ちょっと大きな声で言う。

「なんだ。それならちゃんと言ってくれればいいのに。」

睨んだ目も可愛いんだから、美人は得。

「ごめん……。」

雅美は駅に向かって歩き出す。

俺も隣に並ぶ。

「どんな人なの?」

「どんな……聞かれると難しいけど……。

 素直で可愛い人……。天然っていうか、世間知らずですぐ恥ずかしがるんだけど、

 意外に肝は座ってて……。」

智を思い出しながら言う俺を、雅美がおかしそうに見つめてる。

「な、なんだよ。」

「ふふ。櫻井君の顔……すんごいデレてる。」

「デレ?」

「うん。デレデレ。」

俺は足元を見ながら、頭を掻く。

はは、思い出しただけでデレるのか。

俺、重症だな。

「……そんなに好きなのかぁ。」

「うん……。」

「じゃ、仕方ない。」

「うん……ごめん。」

「諦めてあげる。でも……。」

ちょうど駅に着いて、雅美が俺に向き直る。

俺も雅美の方へ向いて、雅美を見つめる。

ごめんな。

お前もいい女だよ。

でも、俺、智が好きだから。

そんな気持ちを込めて見つめていると、雅美の顔が突然近づく。

何が起こってるのかわからず、動けないでいると、

雅美の唇が俺の唇に重なった。

柔らかい感触とヌメッとした感触。

すぐに唇は離れて、雅美がニッと笑う。

「彼女いないって、嘘ついたバツ!」

「……え?」

俺は驚いたまま、雅美を見る。

「じゃ、櫻井君、彼女大事にしてあげてね。ご馳走様!」

雅美はクルッと踵を返すと、足早に駅の中に入っていった。

改札を抜ける雅美をぼーっと見ながら、唇に触る。

中指に微かに付いた口紅を、親指で擦って、改札に向かって歩き出した。










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