「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

さらに……Deepな冒険 智ver. ②

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「しょ……。」

掠れた声で俺を呼ぶ。

「しょ…ぉ……。」

甘いと言うより……色っぽい。

「……しょ…おっ……。」

ああ、名前を呼ばれるだけでこんなに感じる声があるのか?

この声に、この姿に、何億の金が動いたって仕方ない!

いや、今の声も姿も誰にも見せないけど……。

シーツの擦れる音がして、智が俺の腕の中に入って来る。

何も身に着けないその姿は……天使?

それとも堕天使?

「さくら……。」

ん?

「さくらい…さん……。」

智……櫻井なんて、呼んだことないじゃないか。

いつものように翔って、ちょっと鼻にかかった甘い声で呼んでよ。

「櫻井…さん……。」

そんな呼び方、他人行儀……。

……あれ?

俺……今、家……?

ハッと気づいて、ガバッと顔を上げる。

見回すと、家ではなく会社の休憩室で、

目の前にはこめかみをヒクヒクさせた小山の顔。

「櫻井さん!何、寝てんすか!」

「え……あれ?俺、寝てた?」

「寝てましたよ。すっかり爆睡!」

「ああ……悪い、悪い。」

やべ……昨日、あんまり寝てないからな……。

智が可愛く強請るから!

俺に断れるわけないじゃない。

「休憩中だから許しますけど、もう休憩も終わりですからね!」

「わ、わかってるって……。」

俺は笑いながら小山の背中を叩く。

「本当に……。部長が見たら、カンカンですよ。」

小山は、俺の顔を見て、はぁと溜め息をついた。

「それでなくても、最近の櫻井さん、ちょっとおかしいんだから。」

おかしい?俺が?

「そうかな……?」

「そうですよ。昔は周りを寄せ付けない感じで……。

 そこがカッコいいって評判だったのに、今じゃ突然、顔面総崩れてデレッとしたり、

 この間なんて、一人で廊下をスキップしてましたよ?

 気づいてました?」

「え……ス、スキップ?」

「……しかも、鼻歌まで口ずさんで。」

小山が、呆れたというように、じと目で俺を見据える。

「……は、鼻歌くらい歌うよ、俺だって。」

「ちょっと前まで、そんなことしませんでした!」

「そ、そうかな……。」

俺は頭を掻いて下を向く。

「社内の女子は、絶対あれ、彼女できたんだって、噂してますよ。」

まぁ、あながち間違ってはいないか。

彼女じゃないけど。

「俺に仕事押し付けて、櫻井さんは幸せ一人占めですか?」

「い、いや……そう言うわけじゃ……。」

確かに小山には迷惑かけてるかもしれないが……。

「じゃ、俺にも幸せ、分けてくれますよね?」

小山が、ズイッと俺の前に顔を近づける。

「え、まぁ……俺にできることなら……。」

俺が一歩引くと、小山がニッと笑って捲し立てた。

「じゃ、今週の金曜、空けといてくださいよ。

 俺の一世一代の大舞台なんですから!」

「なんだよ。大舞台って!」

俺は休憩中に飲んでいた炭酸飲料を口へ運ぶ。

もう、すっかり生ぬるい。

「憧れの、潤子先輩と飲みに行けるんです!櫻井さんも連れて行くって条件で。」

「え?なんで俺まで……。」

「ここだけの話、営業2課の雅美さん、櫻井さんに気があるらしいっすよ。」

営業2課……ああ、同期の雅美?

まさか……。

ちなみに潤子も同期で、同じ開発部だ。

「おい、俺は……。」

「わかってます。彼女がいるって言いたいんでしょ?

 大丈夫。そこははっきり彼女がいるって言っちゃえば。

 しっかり諦めもつくでしょ?」

「だからって……。」

「俺……何度先輩に無理させられましたっけ?」

「まぁ、それはそうだけど……。」

「たまには先輩が無理してください!」

小山はそう言って、俺の肩を掴むとニッと笑った。

「ほら、そろそろ戻らないと、部長に睨まれますよ!」

笑って腕を引く小山に、俺は断ることができなかった。

……智とこうなれたのも、小山のおかげだもんなぁ。

でも……俺が女と飲みに行くって、智は平気なもんなのかなぁ?

もちろん、俺には全くその気はないけど……。

心配させたくない気もするし、ちょっと妬かれたい気もする。

こういうの、智にも言うべき?

内緒にするべき?

複雑な心持ちで、小山と一緒に仕事に戻った。



「……というわけで、金曜日、飲みに行くことになった。」

結局、俺は智に飲み会の話をした。

俺だったら、内緒にされたくなかったから。

やましい気持ちがないって表れでもある。

「ふぅん。そうなんだ。……おいら、金曜は帰り遅くなるから、楽しんできて。」

智はいつもと変わらぬ笑顔で、ビールをゴクッと飲む。

「遅いって……ドラマ?」

「うん。のっけからキスシーン。」

智が困ったように眉を下げ、冷ややっこを口に運ぶ。

「キ、キスシーンから入るの?」

「うん。やりにくいよね?」

俺も手にしたビールをゴクリと飲み込む。

「一般人は知らない相手とキスから入ることないからな……。」

智は俺を見て、んふふっと笑う。

「ストーリー的にはすでに恋人同士だから。」

「どんなストーリー?」

「……別れて……またくっつく話?」

智がちょっと考えて、またビールを飲む。

……それじゃ身も蓋もないじゃない……。

「濃厚なの……?

 ……キス。」

ちょっと心配になって聞いてみる。

理解はしてるよ。

仕事なんだって。

でも……キスしたら、やっぱり女の方がよくなったりするかもしれないなんて考える。

俺のキスより気持ちいいかも……とか?

「ん……そんなことないんじゃない?

 最初っから濃厚なのじゃ、見てる人がびっくりする。」

智は笑って豆腐にネギの刻んだのを乗せる。

「相手役の人、綺麗?」

「ん~、綺麗だよ。そりゃ、女優さんだもん。」

智はクスッと笑って、俺の顔の前に豆腐を差し出す。

「食べる?」

「ん……。」

俺は大きく口を開け、智の豆腐を待つ。

智はそっと俺の口に豆腐を入れ、俺の口が閉じたのを確認して箸を引っ込める。

「美味しい?」

「……美味しい。智の次に。」

智は、んふふっと笑って、自分の口にも豆腐を入れた。

智に食べさせてもらった豆腐は、ネギの苦みと豆腐の甘味が絡まりあって、

今の俺の複雑な胸の内を現してるようだった。

智のキスシーンは1か月後……。

俺、まともに見れるかな?










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