「三日月」
三日月(やま)【21~Last】

三日月 ㉝

 ←三日月 ㉜ →三日月 ㉞


月日は流れ、私の執筆活動は、少ないながらも順調に進んでいた。

智の挿絵も好評で、細々とではあるが、生活の地盤が固まり始めた。

贅沢をしなければ、なんとか生活していける程度に。

穏やかでのんびりした日々の中、智が庭にバラを植えたいと言う。

手入れが大変だからと言ったが、潤に聞きながらやるから大丈夫だと言い張る。

「潤に?ここにはいないのに?」

私はやや不機嫌な顔をしていたのだろう。

智が楽しそうにクスクス笑って、私の頬を両手で包む。

「東京の方は、数日お爺ちゃんに任せて、植える時に来てくれるって。

 なぁに?僕が潤と手紙のやりとりをしているのが不満なの?」

「そんなこと……。」

私は智の手を振り払い、顔を読みかけの本に向ける。

「あるでしょ?不機嫌な顔してる!」

「わかっているなら……。」

また顔を上げ、智を見つめると、智が嬉しそうに笑う。

「心配する必要なんかないのに。」

「智から手紙なんかもらったら、潤が舞い上がって仕事にならない。」

「潤に字を教えたのは僕だよ?ちゃんと勉強しているか、手紙で確認してるだけだよ。」

「……そんなもの、和子に任せれば……。」

智の腕が両肩に乗る。

「ヤキモチ翔さん……可愛い。」

智がクスクスと笑いながら、うなじを反らす。

その笑みはいつしか妖艶さを含み、私は傍らに本を置く。

「……わかっているのか?智の笑顔は人を誘うんだよ……。」

智の目が、挑むように私を見つめる。

「手紙じゃ笑ってるかどうかもわからないよ……。」

私は腰を引き寄せ、膝の上に跨らせる。

シャツの裾から手を忍び込ませ、智の背中を撫で上げる。

「あんっ……。」

智の腰がしなり、肩の上の腕が、優しく私の頭を抱きかかえる。

「ほら……私は智の思うつぼ……淫らな気持ちでいっぱいだよ……。」

私は目の前の智の胸を、シャツの上から甘噛みする。

「ぁふっ……翔さん……。」

「私を見ろ。智……。」

智が抱えた腕を開いて私を見る。

ほんのり頬の染まった智は、私を見つめて、愛おしそうに笑う。

「翔さんの笑顔は……いつだって僕を誘うよ……。」

上目使いで見つめながら、ジリッと智の胸を噛む。

「あんっ……しょぉ……。」

身を縮め、私を胸に押し付けて智がつぶやく。

「僕の方が……翔さんの思うつぼ……。」

智の唇が、私の唇を塞ぎ、私に体を擦りつけた。



そんな頃、私達が居間で寛(くつろ)いでいると、玄関を叩く微かな音に動きが止まる。

しばらくすると、また小さな音が、間違いなく玄関から聞こえてくる。

「誰だろう?」

智が玄関に向かおうとするのを遮って、私が玄関を開ける。

ドアを開いたが、そこには誰もいない。

振り返って智を見ると、智の視線は私の足元に向いている。

なんだ?猫でも入ってきたのか?

私も足元を見てみると、可愛らしい大きな目が私を見上げて笑っている。

「え?……子供……は…やて?」

「お父ちゃま?」

小さな顔が首を傾げる。

「颯……?」

「はいっ!」

颯は両手を上げて、私に抱っこを強請る。

続いてすぐにドアが開き、雅紀と和子がはぁはぁ息を切りながら入って来る。

「颯っ!」

和子は颯を見るや、安堵した表情で颯をしかりつける。

「はぁはぁ……一人で行ってはダメって…はぁ…はぁっ……あれほどっ……。」

颯が泣きそうな顔になったので、私は颯を抱き上げ、二人に笑いかける。

「どうしたんだい?みんな揃って……。」

二人は顔を見合わせ、バツが悪そうに笑い、私と智に挨拶する。

「はぁはぁ……お久し……ぶり…ですわ。」

「はぁ…はぁ……ご無…沙汰して……おります。」

私と智も顔を見合わせ首を傾げる。

「まぁ、ここでは何だから……。」

私は颯を抱いたまま、二人を中へ促す。



居間でお茶を飲み、やっと落ち着いた二人が、並んで座る私達に向かって、

恥ずかしそうに笑う。

「見苦しいところをお見せしましたわ……。

 颯は元気が良すぎて……。智さんの小さな頃とは全然違う……。」

和子はカップを手に、私の膝の上の颯を見つめる。

颯は楽しそうに私の顎に手を伸ばし、そんな颯を愛おしそうに智も見つめる。

「颯は……私が父だとわかるんだな。」

私は颯の手を握り、前を向かせる。

「ええ……智さんの絵を見てますから。」

和子がクスッと笑う。

「ずいぶんお若いですけど。」

智は和子のカップを見て、紅茶ポットを持ち上げる。

「今日はどうしたの?突然……。」

和子のカップに紅茶を注ぎながら、智が尋ねる。

「ああ……潤が、智さんのところに来るって言うから……。

 颯にも会って欲しかったし……。」

「姉様……。」

智は私の膝から颯を抱き上げると、自分の膝の上に乗せる。

「んふふ……大きなおめめだね……。」

相変わらず颯は智に似ていたが、少し顔が変わってきたか?

子供の成長というのは早いものだ。

「そうなの。とても可愛らしいでしょ?」

「しかも賢くて……翔さん、もうすでに絵本が読めるようになりました。」

雅紀も自慢げにそう言って颯を見つめる。

「もう字を?潤が聞いたらびっくりだな。」

「うふふ。そうね。でも、潤もすごいの。あの子は勉強が好きなのね。」

「潤は?」

智がキョロキョロと周りを見回す。

「庭を見たいって、先に行ったんだけど……。」

「庭?」

智は颯を抱き上げ、庭の見える窓へ向かう。

「見えるかい?」

私が聞くと、智は少し背伸びし、見つけたのか、小さく何度もうなずく。

「翔さん、庭に行ってくる!」

「智さん、私も……。」

和子も立ち上がり、後を追う。










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【三日月 ㉜】へ  【三日月 ㉞】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【三日月 ㉜】へ
  • 【三日月 ㉞】へ