「三日月」
三日月(やま)【21~Last】

三日月 ㉜

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乱れたシーツの上で、滑らかな智の肌に手を這わせる。

智がくすぐったそうにクスクス笑う。

抱きしめて……ただ、抱きしめて……。

気だるい体から力が抜け、智のおだやかな息遣いを聞きながら目を瞑る。

重なりあった体の重み……。

野ばらの香りと智の香り……。

絡めるように乗せられた足と、絡めた指……。



私達はあの場所で……。

初めて会ったあの場所で、しばらく動けなかった。

一度乾いた涙も、再び流れ始め、抱きしめたまま智を離すことができない。

「……会いたかった……会いたかった……智……。」

「僕も……会いたかった……ずっと、ずっと会いたかった……。」

「智……。」

私達は、互いを確認するように頬を撫で、見つめ、唇を合わせた。

智から流れ込む甘い香り。

甘い吐息。

甘い……。

「……遅くなって……すまない…………。」

智は思い切り首を振る。

「信じてたよ……翔さんは…………きっと帰ってきてくれるって……。」

涙で潤んだ智の瞳が、私を映して揺れる。

「智……さ…と……。」

私の唇は智の唇に重なり、もう言葉を発することはできなかった。



羽の飛び散ったベッドの上に破れたシャツを投げ捨てると、

私達は貪るように相手を求めた。

智が声を上げる度、そのしなやかな腕を動かす度、羽が舞い、白いシーツが乱れていく。

「しょぉさ…ん……もっ…と……もっとぉ……!」

私を求める智は、本物の天使のように全てを包み、受け入れる。

私は……智に求められるまま、私が求めるまま、ただ……お互いの愛を確認した。

「智……愛してる……愛……し…………。」

私はうわ言のように呟き、智の体を全身で感じ続ける

言葉とは、なんともどかしいものか。

私の想いを形にする言葉など、この世に存在しないのではないか。

「翔……さん……おかしくなるくらい……壊れちゃうくらい……もっと強く……!」

「智……智…………。」

智の体がビクッと震える。

私は何度も智の中に放ち続けた。

私の全てがそこに注がれるように。

私と智が、溶け合って、混ざり合って、一つになってしまうように。



クスクス笑いながら、智が私の鼻筋を撫でる。

私も笑って智の鼻筋に触れる。

「んふっ。くすぐったい……。」

そう言って、首を竦める智。

「遅くなって……すまなかった。……寂しかった?」

思い出したのか少し顔を曇らせ、尖らせた口が開く。

「寂しかったよ……。もう帰って来ないかもしれないと思って……。」

「そんなこと、あるわけないじゃないか。」

「あるよ……。」

智が顔を伏せる。

「私が……智なしで生きていけると思っているのか?」

「……僕といたら……翔さんには未来がなくなる……。」

「どうして?」

「……それは……。」

私は智の顎に指を掛け、ゆっくりと撫でる。

「……颯のことを言っているのかい?」

「…………。」

「それとも……和子のことか?」

ズキッと痛むような顔をした智が、顔を上げ、私を見つめる。

「何があっても……私は智の側を離れたりしない……。

 例えそれが罪であっても……。」

「…………翔さん……。」

智の腕が私の首筋に絡みつく。

「私達は、ここで添い遂げよう……。

 初めて会ったこの場所で……。」

智の腕に力が入る。

私も智の体を引き寄せ、抱きしめる。

「私達の未来は……ここにあるんだよ……智……。」

私は智の耳に語り掛ける。

「どんなに過酷な未来が待っていようとも、智と一緒にいられるのなら……。

 智のいない人生を生きるより、何倍も……私は幸せなんだよ。」

「翔さん……。」

智が私の首筋で顔を揺する。

「僕も……僕も翔さんさえいれば……後は何もいらない……。」

「智……。」

私達は抱き合ったまま眠りに落ちた。

疲れた体はお互いの体の温もりに、一気に睡魔に襲われていく。

心地よいまどろみの中、それでもお互いを抱きしめ合ったまま……。

夢の中でも……智は天使の笑顔で私に笑いかけていた。



「翔さん!教授から荷物が届いたよ。」

智が小包を持って来る。

私は居間で新聞を読んでいる。

世間は戦争だ民主主義だと騒いでいるが、この片田舎ではそんな世上も遠い。

「ありがとう。」

智から小包を受け取り開くと、中から原稿と一緒に二通の手紙がこぼれ落ちる。

「これ、誰から?」

「ん……一通は教授だろうから……。」

拾い上げ、差出人を見てみる。

慌てて手紙を読んでみると、そこには思っていた通りの内容が書いてあり、

私はにっこり笑って智を見上げる。

「何?どうしたの?すっごく嬉しそう。」

「ふふふ。嬉しいよ。ほら。」

私は智に手紙を渡す。

差出人はこの間、東京に行った時に会った雑誌の編集者だ。

「……え…………これって……。」

「そうだよ。智の絵を、スケッチブックに走り書きしたようなものだけど……、

 見せたんだよ。絶対、智の絵は受け入れられると思っていた……。」

「……『新女学誌』の……挿絵……。」

智がなんとも不思議な顔で私の顔を見つめる。

驚きと不安と嬉しさと……。

智は世間と関わり合うことを避けて生きてきた。

しかし、大野家を出てきた以上、いつまでも大野家にお世話になり続けるわけにもいかない。

もちろん、私と智の資産でもって生活ができないわけではなかったが……。

智に……生きる術を身に着けて欲しかった。

このご時世、いつ私に何があるかわからない。

その時は……大野家に戻ればいいが……智がそれを望むかどうか……。

「やってみるかい?」

私が笑うと、智も頬を染め、嬉しそうにうなずく。

「……でも……僕にできるのかな……。」

「できるよ。智なら。私がマネジメントしよう。

 挿絵なら、極力、人と会わずにできるし……。」

笑顔の智が私に抱き着く。

「嬉しい……なんか……僕にもできることがあるんだ……。」

私は智の背中をゆっくり撫でる。

「はは……当たり前だよ。智には……いろんな可能性があるんだ。」

「翔さん……ありがと……。」

智の腕が、ぎゅっと私の首を引き寄せる。

私も智を抱きしめた。










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