「三日月」
三日月(やま)【21~Last】

三日月 ㉘

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入って来たのは潤だった。

「潤……。」

私は持っていたキューを床に着き、潤を見つめる。

「どうしたんだい?こんな時間に。」

潤は何か言いたそうに、でも言えずに顔を伏せる。

「明日……お帰りになるのですか?」

「ああ……あまり遅くなると智が心配する。」

私は笑ってキューを元に戻す。

「早く……帰ってあげてください。」

「わかっている。お前は……何か言いたいことがあるのだろう?」

振り返って、両手を台に着き、潤を見据える。

潤は躊躇いながら顔を上げる。

言いたいことがあるのに、言えないでいる潤……。

いったい何が言いたいのだ?

私は黙って潤の言葉を待つ。

潤は一度、ギュッと唇を噛みしめ、意を決したように口を開く。

「聞いて……しまったんです。」

「何を?」

「和子様と雅紀様の会話……。」

和子と雅紀?

私は首を傾げて潤を見つめる。

「何と……言っていたのだ。」

「颯様は……。」

颯?颯のことなのか?

智ではなくて……?

「若旦那様の……お子ではないかもしれないと……。」

……一瞬、潤の言っていることが理解できない。

颯が……私の子では…………ない?

和子が不貞を働いていたと……そう言うのか?

「では……誰の子だと言うんだ?

 まさか……雅紀か?」

「ち、違います……。」

潤はまた顔を伏せ、言いよどむ。

「雅紀でなければ誰だと……。」

私の脳裏を、いつかのクスクス笑いが過る。

一度目は2階の端の部屋。

二度目は1階の一番奥……和子に呼び出された部屋……。

あれは和子だったのか?

では……相手は……。

「まさか……智……なのか?」

潤は瞳を歪ませ、私を見つめる。

返事はなくとも、その顔が答えている。

「ばかな!二人は正真正銘の姉弟……。

 そのような神をも冒涜する行為……。」

私は言いながら考える。

颯は誰に似ていた?

あの天使の笑顔は智そのものではなかったか?

和子が、本当に愛しているのは……智以外、ないではないか。

潤は顔を伏せ、小さく首を振る。

私の考えが正しいと、肯定するように。

「和子は……私を騙していたのだな。」

潤が微かにうなずく。

「雅紀も知っている……。」

私は窓の外の月を探す。

この時期の月は、ここからでは見えない……。

「智は……そのことを知っているのか?」

「……わかりません。」

「昨日言っていた……間違えるなというのは……そのことなのか?」

潤が私を見つめ、握り合わせた両手を胸の高さまで上げる。

「もし、智様がそのことを知っていたとしても……それは若旦那様の為です。」

「どうして私の為……?」

「……それ以外で、智様がそんなこと、するはずないんです。」

「なぜ、そう思う?」

潤は思い出すように一瞬、天井を仰ぎ、躊躇することなく言い放つ。

「若旦那様がオレの前から智様を連れ出した時……、

 振り返った智様が声に出さずに言ったんです。

 ごめん……と。」

「智……。」

私はあの時の智を思い出す。

普段は穏やかで感情の起伏を感じさせない智の、激しく、情熱的な内……。

それを、初めて目の当たりにした時のことを。

「それでわかったんです。どんなに智様が若旦那様を愛しているか……。

 待っていたか……。

 あの東屋で……智様と口づけを交わした時……。

 智様はイライラなさってて、怒ったと思ったら、目に涙をいっぱい溜めて……

 その顔を見ている内に……気づいたんです。

 オレは智様が好きなんだって……。

 イライラを紛らわすように、智様は激しくオレの唇を求めました。

 でも……智様が求めているものはオレじゃなかった……。

 それでもよかったんです。

 智様がオレの腕の中にいる……それだけで幸せでした。」

潤は、本当に幸せそうに笑って、握り合わせた手を離し、頬を指で擦った。

「後で、智様が話してくれました。

 お二人は……小さな頃に会っていらしたんですね。

 その頃から……何をしても、何があっても、消えない存在になっていたって……。

 運命なんだと……智様はそうおっしゃってました。」

潤は『運命』という自分の言葉が恥ずかしかったのか、

照れくさそうに笑い、それを打ち消すように、キッと顔を上げる。

「だから、もし本当に颯様が智様の子であったとしても、それは若旦那様の為です。

 理由はわからないけど……それ以外ないんです。

 どうか智様を信じてあげてください。」

潤が祈るように私を見つめる。

智が私の為に……?

もしくは、私と智の為に……?

だとしたらその理由はなんだ?

不義の子を、智が何の為に?

顎に手を当て考えていると、扉が開く音がする。

「智は何も知りません。」

驚いて、私と潤は同時に振り返る。

母屋に通じる扉が開いていて、無表情の和子がそこに立っていた。










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