「三日月」
三日月(やま)【21~Last】

三日月 ㉔

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「姉様!」

智は和子に駆けより抱き着く。

「智!」

和子も智を抱きしめる。

「ああ、智。元気そうでよかった……。」

本当に嬉しそうにお互いを確認しあう姉弟。

「少し……頬が丸くなった?」

「んふふ。そうかも……。最近、食欲も出てきたから……。」

「翔様がよくしてくださるのね。」

智は私を見て笑う。

私も相槌を打つ。

和子の隣で、雅紀もにこやかな笑顔を振りまく。

「今日、颯(はやて)はどうしたんだい?」

私は和子の周りをキョロキョロしながら、和子を見つめる。

颯というのは私と和子の間に生まれた子の名前だ。

公爵が名付けてくれた。

政界に、財界に、社会に、巻き上がる一陣の風……。

そんな願いが込められているのだろうか。

「今日はおいて来ましたわ。6ヶ月の赤子に汽車はまだ無理です。」

和子が可笑しそうにクスクス笑う。

それはそうだが……。

会えるのを楽しみにしていた私は、落胆の色を隠せない。

「そんな顔をなさらないで……。」

和子が私の頬を撫でる。

「翔様は少しお痩せになったみたい……。」

「……そうかな。」

私も自分の顎を撫でてみる。

自分ではわからないが、少し痩せたのかもしれない。

二人に椅子を勧め、私は茶を入れようと茶器を用意する。

「まぁ、いけませんわ。私がやりますから。」

和子が私の手を取り、茶を入れようとする。

「いいから、座っておいで。ここにいればこれくらいは自分でできるようになる。

 良い紅茶が入ったから、私に淹れさせておくれ。」

私がニコッと笑っても、心配そうな和子はその場から離れない。

私がゆっくり、紅茶を淹れると、和子はやっと安心したように、ホッと声を漏らす。

「とてもいい香り……。」

和子は智と雅紀の方を見て言う。

私は四人分の茶を淹れ、みんなの前に並べる。

「で、何かあったのかい?」

私と和子も席に着き、茶の香りを楽しむ。

「木寺宮のご結婚のお話はご存知?」

和子がカップを手にして、私を見る。

「ああ、新聞で知っているが……。」

「結婚式に、あなたにも出席して頂きたくて。」

「断ったものと思っていた。」

私はびっくりして智の顔を見る。

智も驚いた顔を隠さない。

「ええ……ですけれど、我が家から誰も出席しないわけにもいきませんもの。

 あなたは私の夫……。今回は相手が宮家ですし、一度戻って頂きたいの。」

「……わかった。」

「翔さん!」

智が声を上げる。

「何、すぐ戻って来る。そうだ。智も一緒に戻ろうか?」

「…………いい。」

智は口を尖らせて下を向く。

これだけ世話になっている和子の頼みを、断ることはできない。

この生活ができるのも、和子のおかげなのだから。

「智……。」

私は隣の智の手を握る。

智はその手を振りほどいて和子を誘う。

「姉様、庭に行こう。今は野ばらが咲いてる。」

智は和子も見ずに庭に続くドアへ向かう。

「まぁ、素敵。」

和子もカップを置いて立ち上がると、智の後に続く。

久しぶりにあった姉弟だ。

二人きりで積もる話もあるだろう。

二人が庭に降りると、私は、雅紀に今の大野家、櫻井家の様子を聞いてみた。

「公爵は……私達のことをなんと思っているのだろう。」

雅紀はさわやかな笑顔で茶を啜る。

「どう思っていらっしゃるのか……公爵のお心の中まではわかりません。

 ですが、智さんの身を案じていらっしゃるのはわかります。

 この間、庭のバラを、ここに植えてはと言っておられましたから。」

「……公爵。」

「ここでは手入れをする者がおりませんから、おやめになられましたが、

 智さんと奥様の好きだったバラですから……。」

「……櫻井の家は?」

「無事、女の子が産まれたようです。詳しくはわかりませんが。」

「私のことは……?」

「ここにいることは……ご存じないと思います。」

申し訳なさそうに雅紀が顔を伏せる。

「君がそんな顔をすることはない。これは私が選んだことなのだから。」

「ですが……翔さん……お痩せになりました……。」

「そうか……少し老けたか?」

私は自分の頬を撫でながら言う。

「そんなことはありません。変わらず美男子で……。」

雅紀が恥ずかしそうに笑う。

「腎虚かと……心配しました。」

「腎虚!」

確かにここに来た当初は、智に触れる度に体を重ねていたから……。

そう思われてもおかしくなかったが、今はそこまでではない。

私は笑って、カップを口へ運ぶ。

「そんな心配は無用だ。」

「……はぁ。」

そんな心配は無用だが……少し疲れていたのは事実。

私は隠れて生活することに慣れていない。

最初の頃は、智を抱きしめられる嬉しさでいっぱいだった……。

しばらく経つと、時間を持て余すようになり……。

自分にできることを模索した結果、

今は細々と、貿易関連の解説書などを書いたりするようになった。

社会との繋がりができると、今度は外に出られないもどかしさを……感じ始めてしまう。

現に、戻れると聞いて心が晴れやかになっている。

智を置いていくとわかっても。

「智さん……置いていって大丈夫でしょうか?」

「すぐに帰って来る。一日二日、一人にしても生活できないわけじゃない。」

そうだ。智も大人なのだから。

それに……私は公爵と会って話をしなければならない。

今回の不義理……会ってお詫びしなければ……。

窓の外に目をやると、美しい姉弟が、仲睦まじそうに笑い合っている。

「泊まっていくかい?」

「いえ……颯さんを置いてきてますから……。」

「そうか……。颯にも……会えるのだな。」

「はい。それは可愛らしくて……。」

雅紀が、満面の笑みで笑った。










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