「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑳

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「溺……れた?」

「ええ。」

和子は複雑そうな顔で唇を噛みしめる。

最愛の息子に、母は何をしたのだ?

「子守りの少女の事件があってから……、母は変わりました。

 智を側から離さず、しまいには女の恰好までさせて。」

「それは……。離さないのはわかる。

 心配だったんだね。また同じようなことが起こるんじゃないかと。」

「ええ。女装も同じですわ。この子が男の子だからだと……。」

和子が困惑の表情を浮かべる。

私が智に会ったのは、その頃なのか……。

「公爵家の跡取りでしたから、智が一人になることなどありません。

 けれど、智の周りに付ける人間を信用できない……。

 母は、母が一番信用していた、のぞみと言う女を智付きにしました。

 嫁いだ時に実家から連れてきた女です。

 のぞみなら大丈夫。母はそう思っていたのですけど……。」

「その女も?」

「ええ……。」

和子は小さく息をつく。

「まだ小さい智に、口づけしているところを見てしまったんです。」

「……口づけ……。」

智の唇は……人を誘うのか?

私だとて例外ではない……?

「のぞみは泣いて謝りましたが……これで母が信用できる人間は一人もいなくなりました。

 そこからです。智に女の恰好をさせるようになったのは。

 それまでの相手は、全て女でしたから。」

和子は、ふぅと息を吐く。

「でも……同じです。智の魅力は男も女もないんです。」

和子が疲れたように笑う。

「執事も、下働きも……老若男女、例外なく智に魅了されていきました。」

私も……その一人なのか……?

「ああ、父だけは例外でした。いつも忙しくしていて……。

 跡取りと言うこと以外で智に関心を示さなかった……。」

そうだろうか?

私は十分、智に対する愛情を感じたのだが……。

「屋敷の中は最小限の人間に留められ、智は学習院に行くこともできなかった……。」

公爵家だから家庭教師なのかと思っていた……。

だが、家庭教師を付けられる状態ではなかったのでは……?

「最低限の勉強は……母と私で教えました。

 恐る恐る付けた家庭教師に、襲われそうになったことがありましたから……。」

和子は微かに笑う。

「頭のいい人でも……同じなんだと悟りました。」

天井に向かって息を吐く。

「智との時間が長くなり、母の執着はどんどん大きくなっていきます。

 そして、ある日気が付いたんです。

 自分も……あの少女と同じ想いを持っていることに。」

「同じ……想い?」

母が子に?

そんなことがあるのだろうか?

「ええ……私が……見てしまったのがいけないんです……。」

「見た……?何を……?」

和子は思い出すように、ゆっくりと言葉を続ける。

「母が……添い寝している智に……口づけながら……。」

「……和子……?」

和子は私を見上げる。

「……男性にするように……あの子に触れていたんです。」

触れて……まさか!

「私は驚いて……声を上げてしまい……。

 母はすぐに気づいて、智から体を離し、私を見て……辛そうに笑って……。」

「……智は?」

「智は……寝ていたから、たぶん知らないと思います……。

 でも、母は辛かったのでしょう。自分の中の母と女の間で……。

 今ならわかります。でも……当時まだ13歳だった私にはわからなかった。

 母だけは智をそんな目で見たりしないと思ってたから。

 母の異常な愛情は母たるが故と思っていたので……。」

「和子……。」

私は和子の肩に手を回す。

和子の体を引き寄せ、ゆっくりと肩を撫でる。

「そのすぐ後ですわ。母が湖に入ったのは……。」

「……自殺?」

私が和子を見ると、和子が小さくうなずく。

「私宛の手紙を残して……。」

「手紙……。」

「ええ……私のせいではないと……こんな母親では智を傷つけてしまう、

 だからその前に……智の中で良き母でいるうちに……と。」

和子は私に体を預けながら、両手を握り締める。

「そんな母を見ていたから、私は自分を抑制しました。

 毎日……募る想いは大きくなりましたけど、私まで智を傷つけるわけにはいきません。

 小さい頃は、あんなにくったくなく笑う子だったのに……。

 母が亡くなってからは、笑うことが少なくなって……

 我が儘を言うことも無くなりました。

 あの子が何かを望むことなんて、ずっとありませんでしたの。」

「可哀想に……。」

私は小さな窓から空に目を馳せる。

幼い日の智は……自分では何もできぬまま、周りだけが動いて……。

どんどんいなくなっていく……。母までも……。

どんなに心細い、切ない日々を過ごしたことか……。

「その智が……初めて私に願い事をしたんです。」

「願い事?」

「ええ……。」

和子は私から体を離し、真っ直ぐに見上げる。

「私に……あなたと結婚してくれと。」

一瞬、和子の言ってることが飲み込めない。

私を……ここに呼んだのは智なのか……?










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