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「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑱

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公爵の話は、私を驚かせた。

隣国の内乱が、我が国にも影響を及ぼすかもしれないと言う。

いや、むしろ、介入を推進するものがいると。

そうなれば最悪、戦争が始まる。

まだ先の話だろうが、皇室の藩屏(はんぺい)たる我々は、十分に情勢を鑑み、

皇室をお守りしなくてはならない。

民主化、西欧化の気運も高い。

我々の今の生活も、いつ崩壊するともわからない。

現にそう、声高に訴える人々もいる……。

「だから、会社を興したのだ。」

公爵は私に背を向け、窓の外を見ながら言う。

「華族が仕事などと言う者もおる。

 だが、これからの時代、それが大野家に必要になる日が来る。」

「はい。」

私もそう思う。

世上はそれほどまでに勢いづいている。

「雅紀にも勉強させている。あれは妻の遠縁だ。

 いづれは君の右腕になってくれるだろう。」

雅紀はその為に呼ばれたのか……。

「智は商売には不向きだ。

 人前に出ることもできない……。

 和子は……頭もいいし、先見の明もある。

 レースの輸入を提案したのは和子だ。」

なるほど……。

公爵にレースは不似合いな気がしていた。

和子の進言なら、うなずける。

「だが……あれは女だ。女としての幸せを全うさせてやりたい。」

「はい……。」

私もそう思っている。

私さえ、良き夫であれば、和子の幸せは維持される。

私さえ……。

「頼んだよ。翔君。」

公爵はにっこり笑って私の肩を叩いた。

ずしりと重い公爵の手が、私を戸惑わせる。

私は……。

「はい……できうる限り尽力いたします。」

頭を下げると、公爵は二度肩を叩き、私に背を向け、庭に目をやる。

庭では、潤が甲斐甲斐しくバラの手入れをしている。

「来年も……綺麗な花がみたいものだ。」

「はい。」

私も公爵の隣に並んだ。

公爵は懐かしそうに庭を眺める。

奥方を……とても愛していたのが伝わってくる。

子供達のことも……。

私も愛している。

智のことも、和子と和子のお腹の中の子も……。

種類は違えど、愛していることに変わりはないのだ。



その日、私達は温室の作業部屋で戯れていた。

いつか、和子がしていたみたいに、智に水浴びをさせている。

大きなたらいに水を15センチほど張り、何も身に着けない智が、そこに座り込む。

その智に時折水を掛けると、智が気持ちよさそうに目を瞑る。

「気持ちいいかい?」

「ん……水と太陽と……キラキラして……きれい。」

智は天に向けて、指を広げる。

「綺麗なのは智だよ……。」

私は智に水をかける。

肌を流れる水が、キラキラと光って流れ落ちる。

白い肌が眩くて、私は目を細める。

「……智の病は……大丈夫なのか?」

気になっていたこと……、折を見て、聞いてみようと思っていたことを口にする。

「……病……そうだね。たぶん、もう大丈夫……。

 翔さんが一緒にいてくれれば……。」

「私が?」

「うん……そうすれば……大丈夫。」

「病とは……なんなんだい?」

智は顔を伏せ、水をすくって手の平からこぼす。

「……僕が説明するのはちょっと難しい……。

 僕の病のせいでお母様が死んだから……。」

「智……。」

智はまた、水をすくってこぼす。

「姉様や雅紀は違うって言ってくれるけど……。きっとそうなんだ。」

「和子が違うと言うなら違うんだよ。君の姉様は君に嘘をつくかい?」

智は考えて、ううんと首を振る。

「なら、信じればいい。和子は嘘なんかつかない。」

そう。和子は嘘なんかつかない。

清廉潔白で、聡明な和子……。

「……うん。翔さんがそう言うなら……。」

智が顔を上げ、悩まし気に笑う。

私は、智の水に濡れた前髪を、そっと梳き、頬を撫でる。

智は愛おしそうに目を瞑り、私の手に頬を預ける。

「私が触れるとほんのり染まる……。」

優しく見つめると、智の頬がどんどん櫻色に染まっていく。

「色めくのはどうしてだい?」

「……知ってるくせに……。」

智が顔を背け、さらに頬の赤みが増す。

「聞かせてくれないの?」

「……言わない!」

そう言って、智は私に抱き着いた。

濡れたままの手が、私のシャツに跡を付ける。

「ぁはは。こら。濡れるじゃないか。」

私はそんな智を抱きしめる。

シャツもズボンも徐々に湿り、智の線に沿ってその形を付ける。

「濡れたら脱げばいい!一緒に浴びようよ。約束だよ!」

「そんな約束いつした?」

「この間!初めて見られた時!」

智は抱きしめたまま、私をたらいの中に引っ張っていく。

「ああ、ダメだよ。このままじゃ服ごと……ああっ!」

バランスを崩した私は、バシャンと、たらいの中に手を着き、水が弾け飛ぶ。

顔やら髪やら服やらが水まみれで、困ったように智を見ると、

智はおかしそうに声を上げて笑う。

「あはは。翔さん!」

「さ、智のせいだからな!」

私が濡れた前髪をかき上げると、智の唇が私の唇を塞いだ。

「んっ…さと……?」

智はそのまま私の首に腕を巻き付け、口づけを深くする。

「ダメだ……んぁっ……智……人が来る……んっ。」

「いい!ばれてもいい!ずっとこのまま……。」

智の叫びに、智の口づけに、私は応えるしかなかった。

想いは同じ……。

だが、私には和子と子供がいる……。

私は智を抱きしめ、つかの間の愛に身をやつした。










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